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3-17 ガウンムアのリチエルド国王 その1

「魔人共め。人間を甘く見るなよ」


 リチエルド・ホ・トノフ国王は寝室の隅にある小さな机

に向かい書き物をしていた。

ベランダからコトリという小さな音が聞こえる。

国王は振り返りもせずに言った。

「ドルマーか?入っていいぞ」


 ドルマーが寝室に入る。

「お久しぶりです、陛下」

「ああ、久しぶりだね。

ちょっと待っててくれ。もうすぐ終わる」


 ノートにペンを走らせる音がかすかに聞こえているだけの

静かな寝室だ。

ドルマーは片膝を付いたまま待った。


 書き物が終わったリチエルドはドルマーの方を向いた。

「ボイド隊は皆健勝か?」

「はい、おかげさまで」

「そうか。よく全員生き残れたな。

ヴァレリは死んだと聞いているがブランカはどうした?」

「生き残っております。今は魔王様の副官を務めております」

「そうか。大出世だな。で、本題はなんだ」

「いえ特には」


 リチエルドは机の上のロウソクを吹き消し

椅子から立ち上がり上着を脱いでベッドに腰掛けた。

「君も脱げ」

「・・・・・・はい」


窓から差し込む月明かりが柔らかく寝室を照らす。

ドルマーは全裸になりリチエルドに近づく。

リチエルドは立ち上がりドルマーの腰に手を回し抱き寄せた。


♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡


 ドルマーの顔は幼少の頃に火事に巻き込まれたのが原因で

左半分がケロイド状になっている。

顔だけではない。

体のあちこちに、そして男性を受け入れる器官にも火傷の後がある。

自分が他の健康な女性のように誰かを愛したり

ましてや抱かれたりすることなど一生ないだろうと思っていた。


 リチエルドは優しかった。

ケロイドも気にせず全身にキスをしてくれる。

ドルマーは思う。

最初のうちはブランカの代わりで来ているのだと自分を納得させて

服を脱いだつもりだった。

が、違っていた。

自分はこうなること望んでいたのだ。


「ボイドのアドヴァイス通りヴァレリが大陸を渡っている間に

評議会を再興することができた。

幸い魔人達は税収にしか興味がなかったみたいで行政機関は

ほぼ手つかずだったからな。

内政を取り戻すのにはさほど苦労しなかったよ。

またボイドもここに寄越してくれ」

「はい、伝えます」


「ふふ、しかし君たちのやってることは裏切り行為ではないのかね?」

「いいえ。本国の意向は税収をあげること、主に食糧供給です。

それさえ確保できればいいわけで」

「うむ。そうであろうな。で、クレイグ准将がここに派遣された理由は?」

「私も詳しくは聞いていません。

おそらくヴァレリ中将の意志を汲んで

鷹派の彼が良いと判断されたのでしょう」

「ふむ。スフィーアを滅ぼした男だからな。

油断はできまい。さて」


 リチエルドはドルマーの顔を寄せキスをした。

「もう一戦お手合わせ願おう」

「喜んで。・・・・ああ」


 次の日リチエルドは評議会の面々と個別に打ち合わせ等

の会議を行い、謁見の間で出来うる限り国民の陳情を直接聞いた。

昼食時に少し休んだだけで日が落ちるまで精力的に働いていた。

もちろん普段は魔人の監視の目が光っている。


 打ち合わせの内容は隠し立てすることなく

すべて魔人にも伝えている。

怪しいところはなにもない。


 昨夜は突然ドルマーが尋ねて来た。

ロウソクが灯っている間はまだ寝ていないと伝えてあるため

部屋が明るければドルマーやボイドは勝手に入ってくる。


 ボイドは用事が済めば、ドルマーも事が終われば服を着て

ベランダから出て行く。

当然国王もそのままベッドで就寝していると思われていた。


 だが違っていた。 


 国王の『影』がベッドの側に音もなく近づく。

「陛下、ルド王国と連絡が取れました。

レジスタンスを支援してくれるそうです」

「具体的には?」

「武器と人員の貸与です」

「武器か。我が国ではまだ相当数の剣や槍が

あちこちに隠されてるはずだな」


「いいえ、剣の類ではありません。

ルド王国が開発した石弾を射出できる魔道兵器です」

「なんだそれは」


 『影』が説明をした。

「どんな形なのか想像すらできんな。

それでその兵器をどのように持ち込むつもりだ」

くう使いが少しずつ運ぶそうです。

こちらは確実な隠し場所の確保を、とのこと」

「わかった、手配しよう。

それと同時に我が国の元軍人でくうが使える者数名を

ルド王国に派遣して訓練を施して欲しい。人選は任せる」

「御意」

 

 『影』は音もなく退出していった。


 評議会会議ではクレイグ准将との折衝が詰まってきた。

議長が今回決まったことを読み上げる。


「ガウンムアのある程度の自治を認める。

ただし魔人の監視は付けること。

魔人軍の訓練にはガウンムア国軍が使っていた

練兵場をそのまま使うこと。

警察組織の再編は認められない。

しかし下部組織である自警団の結成は認める。

各市町村の自警団は必ず魔人の顧問をつけ

魔人軍に活動報告をすることを義務とすること」


 クレイグもリチエルドもお互い異議はない事を確認し合う。

クレイグがしゃべり始めた。

「リチエルド国王。テイマーはまだ数を揃えられるのかね?」

「いや、ヴァレリ中将に貸したテイマー達のほとんどは

北の大陸で殉職したよ。

今揃えられる数はわずかだ」


「成長が期待できる予備軍はいないのか?」

「まずテイマー達は一人一人はフリーランスだ。

そして彼等が素質のある者を弟子にする師弟制度

が常識だった。

親方連中が死んでしまったので新人が今どうしてるのかは

わからないな」


「なにか統括する組織はないのか?」

「強いて言うなら冒険者ギルドだな。

魔物が出た場合は討伐をするか

テイマーが操って密林に帰すことになっている」

「わかった。冒険者ギルドを当たってみよう」


 雑談に近いやりとりだった。

なにもわざわざ国王に尋ねる事はない。

だがリチエルドにとっては何気ない雑談も今後の采配

に影響を及ぼすかも知れない貴重な情報なのだ。


 その夜も『影』が来た。

「冒険者ギルドにテイマーの数の確認が行くぞ。

活動できるテイマーの人数は正確に教えてもいいと伝えてくれ」

「御意。くう使いは三名ほど見つかりました。

ツイーネ経由でルド王国入りさせます」

「そのうちの一人でいい、余の伝言を託したい。

文書で形に残すことは出来ない。直接会えるか?」

「手配します。明晩連れて参りましょう」

「頼んだ」


 『影』は王の寝室から姿を消した。

眠気が襲ってくるまでの間、リチエルドは思う。


 処刑された両親の仇は必ず取る。

肉親や親しい者を殺された一般国民も同じ気持ちだ。

レジスタンスは強い結束と共に静かに成長を続けている。

ルド王国の支援もあるという。


「魔人共め。人間を甘く見るなよ」

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