3-16 ガウンムアのクレイグ准将 その2
魔人の国。
十二人会議の定例会議が終わり皆が
議場を後にしようと席を立ち始めた。
内務担当大臣ソクラフト・レイスは
軍務担当大臣のチャルド・ノーイに声を掛けられた。
「レイス大臣。頼みたいことがあるのですが
この後少しよろしいですかな?」
「ノーイ大臣。もちろんいいですぞ。
私の執務室でよろしいかな?」
二人は魔王城を出ると行政機関が
数多く入っている建物に入っていった。
レイス大臣の執務室に二人で入る。
お茶を持ってきた秘書にはしばらく誰も入れるなと命じた。
「楽にしてくれよチャルド」
「すまんな。お茶を頂くぞ」
二人は同郷の幼なじみ。
密林の境界近くの農村の出身だ。
「改まって頼みたいことってなんだね」
「ああ、ガウンムアのクレイグ君から要請があってな。
政治に詳しい副官を紹介してくれとさ」
「それをなぜ私に?」
「ソクラフトのとこの次男坊は今なにやってるんだ?
確か大学を主席で卒業したはずだが」
ソクラフト・レイスの顔が一瞬ゆがんだ。
「あいつか。あの穀潰しめ。
次男坊なんだから行政官か軍人にでもなって
独立しろと言ったんだ。
勉強は好きみたいだから学校の先生でもいいぞ、ともな。
今は何もせずに部屋にひきこもっておる」
「ならちょうど良いじゃないか。
確か政治や文化、行政に詳しいと聞いておるぞ」
「私としては願ったりかなったりだ。
今日家に帰ったら本人に伝えてみるよ」
「いや、事は急を要するのだ。
一緒に行っていいか?」
「そうだな、久しぶりにウチで夕飯食っていけ。
家内がニナ・レシピに夢中でね。
最近我が家の食卓は賑やかだぞ」
二人は連れだってレイスの家に行き夕食を共にした。
食後にレイスの書斎に次男坊であるアブレフト・レイスを呼び
ノーイがあらましを説明した。
「どうだね、受けてくれるかね?」
「面白そうですね。受けてみましょうかね。
しかしクレイグ准将の副官になるには
軍人でなければならないでしょう?
僕は肩書きのないプー太郎ですよ」
「それなんだがお付きの文官という立場で行ってもらう。
十二人会議から派遣した特別政治官という肩書きで
クレイグ准将を補佐して欲しい。
どうだね?」
「解りました。正式に決まりましたらまた連絡ください。
それとガウンムアの現状は誰に聞けばいいんですかね?」
「ブランカ君だろうな。魔王様の副官の」
その後アブレフトは正式な辞令を受け
ガウンムアに派遣されることになった。
ブランカ下級佐官に現状をレクチャーして貰った際に
授業料代わりに童貞を奪われたことは親には内緒の話である。
アブレフトはあまり魔法が得意ではない。
物理系の魔法はどれもこれも威力が弱く戦闘には使えない。
空も使えないので軍の運輸担当兵を手配して貰い
ガウンムアに引っ越しをした。
「特別政治官殿。荷物は指定された官舎の部屋に運んでおきました」
「ありがとう。本ばかりで重かったでしょう」
「ええ、まあ」
「少ないですがこれでエールでも飲んで喉を潤してください」
チップとして銀貨を渡す。
疲れた顔をしていた運輸担当兵数名はとたんに笑顔になった。
「ふう、気を遣わなくともカネ使え、ってね」
すぐにでも自分の荷をほどきたかったが、
クレイグ准将のところに着任許可を求めに行かねばならないことを
思い出した。
「クレイグ准将閣下、十二人会議から派遣されました
アブレフト・レイス特別政治官です。着任許可願います」
「許可する。よろしく頼むぞ政治官殿」
「閣下。私の立ち居位置がいまいちよく解らないのですが」
「政治に詳しい副官を要請したのだが軍には居なかったので
君に白羽の矢が当てられたと聞いている。
しばらくは私について政治や行政に関するアドヴァイス
をくれればありがたい。
頼めるか?」
「もちろんです閣下。
まずは現状把握のため評議会のシステム等を勉強させてください」
「うむ。評議会会議に私が出席するときは必ず付いてきて欲しい。
それとある程度は予習してきたと聞いているが?」
「はい、ブランカ下級佐官殿からレクチャーを受けました」
「ブランカ君からか。教えて貰ったのはガウンムアの現状かな?」
「はい、あと女体の扱い方も教えてくれました」
「・・・・・なにやってんだあの女は。
君もそんなことは正直に言わなくていいぞ」
「いえ、ブランカさんの顔に泥を塗らないように頑張りたいと思います!」
たしか内務大臣の次男坊で引きこもりだったと聞いている。
セックスもうまく利用すれば男のやる気を
引き出すことができるんだな、と思うクレイグであった。
~~アブレフト~~
クレイグ准将に挨拶をしてきた。
とりあえず数日は会議がないので
自分の勉強に充てることができそうだ。
組織図を作り各機関の構成を把握して
大臣の名前と共に各自の特徴を調べていく。
これは一人では出来ないので
誰かを派遣して貰いたいとクレイグ准将に要請したところ
ボイド上級尉官が来て色々と教えてくれた。
各大臣の個人データの収集も彼のチームが手分けして調べてくれた。
「ボイドさん、助かりました。
それと地方議会なんですがこれは主に何をやっているんですか?」
「生活に関する法律は各地方議会で決めているみたいですね。
しかし国の評議会に承認を貰わないと施行できませんが」
「なるほど。地方独特のルールまで国で決めるのは手間ですもんね。
よく考えたなあ。地方議会は全部でいくつあるんですか?」
「四つです」
「四つですね。なるほど」
「それと国王は無類の女好きと聞きましたが」
「誰に聞いたんですかね?まあだいたいわかりますが」
「ええ、ブランカさんから聞きました」
「やはり。女好きであるのは確かですが
女に溺れるタイプではないようです」
「というのは?」
「色仕掛けでコントロールしようとしても無駄という意味です。
そうだな?ドルマー軍曹」
ドルマー軍曹が顔を赤くして返事をした。
「なぜ私に聞くんですか。
まあそうですね、女をあてがった所で意味はないでしょうね」
「わかりました。まあ他の大臣には有効な手段かも知れないし
正攻法が取れないときの裏の手段として覚えておきましょう」
「政治体制が思いの外しっかりしてるし魔人に反攻する気概はあっても
実際に反攻してくることはないでしょうね。自治を認める限り」
ボイドが答える。
「はい、そういったアドヴァイスはクレイグ閣下に直接お願いします。
私達は引き続き情報収集のお手伝いをさせていただきましょう」
「わかりました。ではアドヴァイスをまとめてレポートにします。
今日はお疲れ様でした」
ボイド達が引き上げていった。
政治体制はこのまま自治を認めて魔人は監視役に徹していれば
勝手に税収があがるだろう。
しかし国王も評議会もかなり強気の姿勢を見せている。
裏でなにをやっているのかの監視も必要だろうな。
「うーん、スパイ行為を僕がやるわけにも行かないし。
閣下に要請してみるか」




