3-14 当代の賢者アリア
聖女が仲間に加わった辺りまで話をしてくれた
大賢者サミュエルは少し疲れたようだ。
アリアがコップに水を満たしサミュエルに手渡す。
「エリックよ。ここから先はおそらく『勇者の物語』
に書いてある内容で合ってると思うぞ」
「ありがとう御座いました、大賢者様。
先代勇者とアーノルドの過去が気になるところですね」
「先代勇者は北の開拓村の出身だそうだ。
幼い頃に親と死に別れ親戚をたらい回しにされておったそうじゃ」
「自分もそうでした。
まあそんな生い立ちは今でも珍しくはないですからね」
「成人してからは冒険者として各地を廻り生計を立てていたらしいの」
「そこも自分とほぼ一緒です」
「当たり障りのない部分は答えてくれるのじゃが
『空白の七年』は教えてくれなかった」
「『空白の七年』とは?」
「勇者とアーノルドが18才から25才になるまでの間じゃよ」
「全く何も情報無しだったんですか?」
「多少は教えてくれた。
二人とも常に一緒にいたわけではないらしい。
アーノルドは三年ほど剣の師匠の元で修行していたらしいし
勇者は冒険者だけではなく商売をやったり当てもなく一人旅をしたり
していたそうじゃな」
「なるほど。しかし魔王を倒すためには
あまりこだわらなくても良い部分かも知れませんね。
プライベート過ぎるというか何というか」
「ワシもそう思って深くは詮索しなかったんじゃ」
「ありがとう御座いました。
実際に魔王軍と戦うときに軍を統率していたのは誰だったんですか?
書物によってはその辺は書かれてなかったりするんですよ。
王城に残っていた記録ではアーノルドが部隊を統率していたと書いてあるし
なにが本当なのかはっきりしないんです」
「アーノルドはソロの剣士だったが
部隊の統率能力にも長けておった。
剣の修業時代に知り合った同門の凄腕を集めて
独自の部隊を編成しておった。
それに国軍の将軍達にもいろいろアドヴァイスしておったの。
そんな経緯もありアーク王国が壊滅的な被害を被り王家が滅ぼされた後
アーノルドが長となる魔王討伐軍は割とすんなり編成されたのじゃよ」
「うーん。疑う訳じゃないですが
一介の剣士がそこまで信用されるものなんですかね?」
「まずアーク王国が滅んだ時点で既にアーノルドは
聖女と結ばれておった。
聖女は国民の間では生き神様として扱われておったし
その夫となるアーノルドも神格化されとったのじゃ。
それに軍の会議でも将軍達を目の前に臆することなく
まるで王であるかのようなリーダーシップを発揮しておった。
あの気品と揺るぎない自信。
まるで王になるために生まれてきたような風格。
アーノルドが軍を率いるならば、
そして勇者が魔王と戦ってくれるなら
もしかしたら圧倒的な力量差がある魔人の軍を倒せるのではないか。
軍人を始め一般の国民も皆期待をしておったのじゃよ」
「期待させるだけの実力と王になるべき者の風格、ですか」
「そうじゃ。アーノルドが纏っていた空気というかオーラというか。
口では説明できないな。あれは側にいた者にしかわからないものだ」
「そうなるとなおさら『空白の七年』が気になりますね」
「戦争が終わりアーノルドは
ルド王国を興して建国創世記が始まった。
私も『賢者』として国中を飛び回り
新しい国作りに微力ながら協力したよ。
そのあまりに忙しい日々に埋没し
『空白の七年』に関する疑問は頭の隅に追いやられてしまった。
もっと色々と彼等と話をすれば良かったと後悔しておる」
「いえ、とても参考になる話でした。
色々と疑問が解けました。
もう一度王城にある大量の書物をあさってみますね。
まだ手を付けてない本棚や書庫があるんです」
「勉強熱心じゃの。仲間集めも早急にな」
「そうでした。『賢者』ポジションはそう簡単には見つからない
ような気がします。
一人派遣してくれると聞いてきたんですが本当ですか?」
「アリア、こっちに来なさい」
大賢者の世話をしている女性が近寄ってきた。
「もはや純粋なエルフ種はワシが最後の一人じゃ。
じゃが人間との混血が少なからずおる。
アリアは比較的エルフの血が濃い方じゃ。
祖父がエルフだからクォーターじゃな」
「アリアさんが加わってくれるのでしょうか?」
「うむ。アリア、挨拶なさい」
「オッス、おらアリア」
「・・・・・・」
「あれ?受けませんよサミュエル様」
「お前は肝心な所でハズすのう・・・」
簡素なワンピースを着たアリアという小柄な女性は
ニコニコと笑顔で立っている。
年の頃はよくわからないが十代の少女のようにも見える。
「はい、年齢ですね。今年で60才ですよ」
「聞きにくい事だったので助かります。
ってあれ?そんなこと自分聞いてないですよね?」
「ふふ、心が読める訳ではないですよ。
質問を先読みして答えただけです」
大賢者が空になったコップをアリアに手渡した。
「ワシの世話は別の者に任せる。
アリア、外の世界を見ておいで。
エリック、アリアは賢いし魔法もこの村一番の器量じゃ。
世間知らずではあるが役に立つじゃろう」
「ありがとう御座います。アリアさん、いいのかい?」
「はい、あの・・それで・・私・・・」
なにかモジモジしてるな。
「質問承りますが」
「こんな時はなんて言えばウケるんですか?」
「はい?」
「いやだからドカンドカン言わせるにはどうしたら」
「芸人さんになりたいわけではないよね?
まあ話の流れ的にはこのタイミングでの受け狙いは
やめておいた方が賢明だね」
「はい!そう言った点も含めて私世間知らずなんです。
足手まといにはならないようにしますので
色々教えてくださいね!」
隙あらば笑いを取ろうとするけど
その度にハズす60才の美少女賢者。
あまりにもニッチすぎるポジションだが
仲間が増えるのは良いことだ。
再び大賢者にお礼を言い小屋を後にする。
アリアは小さな肩掛けバッグを持って後に付いてきた。
大賢者が作ってくれた空間収納バッグだそうだ。
二人で結界の出口まで歩いていく。
「アリアは空は使えるのかい?」
「いえ、出来ません。という設定で」
「なんだそりゃ」
「出来るんですけどせいぜい半径10メートル以内です」
「そうか、じゃあ俺の手を握って一緒に空間に飛び込むよ」
「あの、手を握っただけで一緒に移動できるんですか?」
「そうだよ」
「手を握るだけなんですか?」
「はい?」
「普通はお姫様だっこですよね。流れ的に」
「ここでボケる勇気は買おう」
アリアは唇をとがらせうるんだ瞳で
上目遣いに俺を見ている。
60才だよな?
「はぁ・・・・俺の首に掴まって」
「わーい!」
60才だよな?
クルトフに戻りセシリアに事情を説明して王都に戻る事にした。
女性二人の手を掴み空間を越える。
今度はお姫様だっこなしだ。
「後は剣士と剛力の持ち主だな。
王城の書庫も調べてみなければ。
セシリア、手伝ってくれ」
「もちろん。まだ開けてない書庫があるもんね。楽しみだわ」
アリアが挙手して発言する。
「はいはーい!私はなにをすればよろしいのでしょうか!」
「まず殿下に紹介する。
大賢者様がご存命であることを殿下に教えてくれ。
そのあと勇者のパーティに登録するから」
「登録が必要なんですか?」
「登録すると給料が出るよ」
「登録しましょう!」
「簡単だな」
「セシリア、アリアは社会から隔絶された森の中で育ったんだ。
生活のこととかいろいろ教えて欲しいんだけど」
「もちろんいいわよ。
それじゃあしばらくは私と一緒に教会の寮で暮らしましょう。
いろんな人に会った方がいいと思うわ」
「王城は引き払うのか?」
「しばらくの間だけよ」
「ふうん」
「しばらくは調べ物するために教会から王城に通うわね。
アリアさんは教会で集団生活を学んで貰いましょう。
暇が出来たら一緒に買い物行ったりしましょうね」
「はい聖女様。よろしくお願いします!」
これでアリアの件はオッケーだな。
さて、殿下に会いに行かなきゃ。




