3-13 1000年前の勇者 その3 聖女ララキア
大賢者の回想続きます。
アリアが暖炉に薪をくべる。
いつの間にかタイロスも小屋に帰って来ていた。
「あのー大賢者様。先代勇者って随分軽かったんですかね?」
「あくまでワシの印象じゃて。でもまあだいたい合ってるはずじゃ」
「最強剣士アーノルドは口数が少なかったんですか?」
「そうじゃな。だがここぞと言う時に参考になる意見を言える
頭の良い男じゃった。それに立ち居振る舞いにどことなく気品があり
貴族筋なのかなとも思ったんじゃが、本人は姓はないと言うでな。
謎めいた男でもあったのう」
「アーノルドがルド王国の始祖になるんですよね?聖女様と結婚して」
「そうじゃ。その話は魔王を倒した後になるので割愛するが」
「なるほど。で、聖女様とはどこで知り合いになられたのですか?」
「アーク王国の王に謁見した時に王から紹介されたのじゃ」
~~~再び1000年前に戻る~~~
魔王が出たとの噂がある度に私達は勇者と共に現地におもむいた。
蹂躙された村では救える者を救い付近を捜索して魔人の討伐に当たった。
そのついでに魔物を討伐しては魔石をギルドに売り活動資金にしていた。
リリアンが私に質問してきた。
「サミュエルさん。このパーテイはアーク王国の認定勇者のパーティ
なんだから国が支援してるんだべ?」
「そのはずだが」
「それにしては貧乏なパーティだなや」
「それは自分も気になっていた。
私と出会った時もアーノルドは腹を空かせていたからな。
最初に貰った活動資金が少なかったんじゃないのかな。
その辺どうなんだ?勇者」
「うん。活動資金は適当に城に行けばまた出してくれると思う。
でも魔王と魔人の被害が大きすぎて税収が落ち込んでいるのと
復興に充てる費用が増大しているので気軽にオカネちょーだい!
とは言い難いんだよね」
アーノルドが説明を加える
「活動資金なら魔物を倒せばいい。問題ない」
「そうなんだよね。それにこの勇者の剣を貰っただけでも有り難い話さ」
勇者が持ち歩く勇者の剣。
見た目はどこにでもあるような量産品に見える。
一般的なロングソードよりもやや細身なのが特徴か。
「実はこの剣しゃべるんです!」
「ぎゃははは!勇者さま面白いべ!」
「いやリリアン本当だって。念話ができないと会話できないけど」
「念話なら私が出来るぞ。ちょっと貸して貰えるかな?」
勇者から剣を受け取り話しかけてみた。
『私はサミュエルだ。聞こえているかな?』
『聞こえておる。この世界で勇者以外と話をするのは初めてだ』
『名前はあるのかい?』
『ああ。生前の名だが諸岡健吾という。』
『ケンゴさんか。変わった名前だね』
その時に勇者の剣が転生日本人であることを知る。
「本当だな。この剣には人が乗り移っている」
「ああ、前世では剣豪として知られていたそうだ。
俺の剣の師匠でもあり『第三の目』でもある」
「第三の目?」
「そう。例えば諸岡師匠が俺の後ろを見ていれば
その映像が俺の頭の中に映し出される。
死角が減るんだ」
思い当たる節がある。
戦闘中も全方位に向けて剣を振り物理魔法を撃てるのは
なぜなんだろうと不思議に思った事があるのだ。
「なんにせよ報告がてら一度お城に行ってみようか。
パーティメンバーが増えたことも報告しなきゃならないだろうし」
「お城に行けるんだべか!」
「ああ、行けるぞ」
「こんな格好でいいんけ?」
リリアンは背が高いのでサイズの合う女物がなかなかなく
男向けの冒険者が着る服を着ている。
「せめて洗濯した奴を着ていこうか」
「うへっ!に、臭うけ?」
くんくんと袖口の臭いを嗅いでいるが自分ではわかるまい。
数日後。
私達は片膝をつき城内の謁見の間で王に挨拶をした。
「勇者よ。お主と仲間達の活躍ぶりは聞き及んでおるぞ。
大儀である」
「ありがたきお言葉」
「もっと活動資金を援助したいのだが国庫も厳しくてな。
満足のいく金額ではないと思うが帰りに会計課から受け取って欲しい。
それとこちらの聖女様をパーティに加えてやってくれまいか」
紹介された聖女ララキアは白髪に近い輝く金髪に真っ白い肌をしていた。
おずおずと王の隣に立ち私達の方を見る。
「おお!すっげぇ美人!」
勇者が思わず声をあげた。
いきなり失礼だろうとたしなめようとすると
アーノルドがぽかんと口を開けて聖女ララキアを凝視している姿が目に入った。
アーノルドの視線に気がついた聖女は軽く微笑み頬を赤く染めている。
アーノルドは魚のように口をパクパクさせていた。
「なんですかこれは」
勇者が私にまぁまぁとか言ってくる。
逆にたしなめられた格好だ。
納得がいかなかったが黙っていることにした。
「イリシス教の中央教会のシスターだったのだが
治癒魔法に長けておってな。教会が聖女認定をしたのだ」
「王よ、聖女様さえ良ければ是非加わっていただきたく」
む。勇者め。かしこまったしゃべり方も出来るではないか。
王族に対する礼儀も完璧だし淀みのない一連の動きには
優雅ささえ漂っている。
勇者にアーノルド。
この二人の若者は少なくとも嘘はついてないが
言ってないことがあるはずだ。
だがあまり興味津々で二人の過去を詮索するのも気が引ける。
機会があれば尋ねてみよう。
案外あっさり聞き出せるかも知れない。
謁見が終わり会計課で軍資金を貰った。
ついでに無理を言って世界地図を貰った。
この時代の地図は羊皮紙に書かれた貴重品で
たいがいの場合には門外不出である。
手書きで写すなら良いと言われたので半日かけて私が
地図を複製した。
出来上がった地図をアーノルドと勇者が真剣な顔で眺め
あちこち指さしながら小声で話をしている。
「その地図になにかあったのか?」
二人に尋ねてみた。
「サミー、これは『世界』の地図だ」
「勇者よ。それはそうだろ」
「ああ色々わかってきたぞ。魔王を倒せるかもしれん」
「地図を手に入れただけではないか。
なぜそう言い切れるんだ?」
今度はアーノルドが答えた。
「俺たちは魔王の城がどこにあるかを知っている。
いや、正確には『知っていた』のだ。
今初めて世界地図を見て確信した」
「スマンが何を言ってるのか全然解らない」
今度は勇者が答える。
「信じられないかも知れないが。ま、お告げみたいなものだ」
「お告げ?」
「ああ。俺たち二人は共通の『夢』を見た、とでも言っておこう」
「二人が同じ夢を見たわけか。にわかには信じられないが」
「魔王城まで行ってみりゃわかるさ」
「それもそうだな」
「さて、軍資金も入ったし装備を揃えよう」
「ところで勇者よ。私はまだ聖女様と挨拶をしていないのだが」
「そうだった。地図を複製して貰ってる間に俺たちはマブダチ
になっちゃったしな」
「マ・・・マブ?なんだって?」
「そこはスルー推奨。ララキア、こちらが『賢者』サミュエルだよ」
ララキア嬢は貴族家の長女で立ち居振る舞いに気品がある美しい女性だった。
アーノルドが一目惚れするのも無理ない。
聖女ララキア嬢と挨拶を交わした後
気になっている点を勇者に質問する。
「まず一つ、既に聖女様とため口か。二つ目、私が賢者だと?」
「まあいいじゃん。ララキアもオッケーしてるし。
で、王城に新しいパーティメンバー表を提出する際にサミーの
ポジションに困っちゃってね。賢者にしといたから。
実際賢いし俺グッジョブ!」
聖女が仲間に加わった。
そして私は突っ込みどころ満載のいい加減な経緯で
『賢者』になったのだ。




