1-9勇者、初の討伐で色々ばれる(その2)
ウルフらも行儀良く一匹づつ襲いかかってくるわけではない。
剣で斬りつけると同時に横から飛んできた奴にケリをいれる。
俺もうかうかしてられない。
ショートソードだけでは防ぎきれない。
ここは魔法を使わせて貰う。
秘密にしてたって死んだら意味ないからね。
まずは土魔法で背にしてる岩を中心に
全員が入れるだけの広さで土壁を生成。
内側に数匹入り込んでしまったがエド達が難なく片付ける。
エドが叫ぶ。
「おい!なんだこれは!シェリーが作ったのか?」
「・・・・あたしじゃない」
皆が一斉にコッチを見る。
「俺が作った。
しばらくは安全だがオオカミ共が
あきらめてくれるまで籠城するかい?」
ウィリーがあきれた顔で言う。
「エリック、お前魔法が使えるなんて一言も言ってなかったよな」
「だって聞かれなかったし。いつかは言うつもりでいたよ」
答えながら再び土魔法で階段を作り全員で岩の上に移動する。
おー、土壁の周りを凄い数の
ブロンズウルフがうろうろしている。
壁は3メートル程度の高さで作ったので
飛び越えてくる奴はいないだろ。
たぶん。
エドが周囲を見回す。
「安全だが敵の数を減らせもしないな。
エリックどうするつもりだ?」
「まあ見ててよ」
土魔法で長さ30センチくらいの
槍状の土塊を30個ほど作り壁の外側の空中に配置。
ブロンズウルフの集団に向けて垂直に高速落下させる。
狙いをつけずにいい加減に放ったのだが何匹かに当たったらしい。
ギャン!という鳴き声が聞こえる。
岩の上からだと壁際がどうなっているのか良く見えないな。
再び土魔法で岩から壁まで橋を延ばす。
壁の上から今度は狙いを定めて一匹づつ丁寧に屠っていく。
こぶし大の土塊を高速で頭にぶつけると簡単に倒せる。
が、いかんせん数が多い。
30匹ほど倒したところでだんだん飽きてきた。
「ちょっとまとめて倒すから伏せてて」
皆が膝をつき姿勢を低くしたのを確認してトルネード(大)を生成。
移動させながらウルフを空中に巻き上げていく。
高さ30メートル程度のところで解放された
ブロンズウルフは地面に向かって落下していく。
地面に叩きつけられて首や足が変な方向に曲がった奴はもう動けない。
逃げまどうウルフ共を竜巻が追い回す。
それでもすべては倒しきれなかった。
が、随分減らしたぞ。
「エリックもういいぞ。残り20匹程度だ。
俺たちを下ろしてくれ」
土壁の外に向けて階段を生成すると
エド達は勢いよく駆け下りて行き、
向かってくるブロンズウルフを倒し始めた。
岩の上から森の入り口付近にいるシルバーウルフを見る。
じっとこっちを見てるな。ちょっと遠いけどやってみるか。
指で銃の形を作る。弾丸をイメージして土塊を生成。射出。
シルバーウルフの頭上をかすめ後ろの木に当たる。
「はずした。遠いと難しいな。
風も読まないといけないのかな」
もう一度やろうとした時、シルバーウルフがウォーンと一声鳴いた。
生き残ったブロンズウルフ10数匹が一斉に逃げ出し森へ入っていく。
残ったシルバーウルフはしばらくじっと俺の方をにらみ、
きびすを返して森の中に消えていった。
かろうじて息のある奴にとどめを刺して廻る。
逃げてった連中もしばらくはおそってこないだろう。
「さて、魔石を回収したいが、日が暮れちまうな。
一旦村へ帰るか」
「いやエド、ちょっと待って。
さすがに皆疲れてるだろうしここで野宿した方が良いと思う。
今シェルター作るから待ってて」
さっきの土壁を土台にして平らなステージを作る。
柱を何本か作り屋根をつけた。窓付きの壁をつけて出来上がり。
階段を上り中に入る。
椅子とテーブルを作る。
隅の方にカマドを作った。
明るいうちに出来るだけ魔石の回収をすることにした。
俺とシェリーは薪になりそうな枯れ枝を集める。
日が暮れかけたところで作業を中断し
皆でシェルターに入る。
念のため階段は消しておいた。
カマドで火を起こし、ボアの肉を焼く。
食器類はシェリーが収納していたので使わせて貰った。
「エリック、今回は助かったよ。
しかし内緒にされるのは面白くねぇな」
「ごめん、エド。機会を見つけてちゃんと言うつもりだったよ」
ウィリーが真面目な顔で言う。
「あのなあ、エリック。俺たちにはちゃんと言ってくれ。
それぞれの技量を把握しておかねぇと大将が作戦立てにくくなるからな。
お前に何が出来て何ができないのかを俺たちはまだ良く知らない。
そこら辺ははっきりさせとこうぜ。
でな、矛盾するようだが俺たち以外には知られないようにしておけ。
いつかはばれるだろうが」
ウィリーは元軍人だ。
彼が言うには俺の魔法は控えめに見積もっても
軍の魔法部隊の師団長レベルだそうだ。
話が知れ渡ると間違いなく軍に連れて行かれる。
「わかった。実を言うと魔法も剣も独学でやってきたんだ。
けど限界感じて村を出てきた。
エドから誘われた時に条件出したろ?剣を教えて欲しいのは本音だ。
魔法に関しても誰かに教わった事がないので
基本から教えてくれる人がいれば助かるんだけど」
うーむと言いエドが腕を組む。
「シェリー、教えてやってくれないか?」
「ん。いいけどエリックの方がレベル高い」
「それはわかる。が、基本レベルで何を教わるのかすら
こいつ知らないみたいだからな」
「わかった。やる」
しばらく雑談した後、寝ることにした。
土壁で間仕切りを生成し人数分のベッド・・・
と言っても人が寝られるスペースの台だが・・・を作った。
明日は日の出とともに魔石の回収作業をし、
依頼のあった村まで移動することになった。
~~~~~~
ブロンズウルフの魔石は全部で87個回収できた。
毛皮も売れるのだがすべての回収はあきらめる。
土魔法で地面に大きめのクレーターを穿ち
オオカミの死体を放り込む。
遠くに散らばっていたのは風魔法で飛ばして集めた。
集めた死体に火魔法で火をつける。
火力を調節しながら炭になるまで焼いたあと土をかぶせて平らにした。
「これでよし!っと。ん?なに?」
皆がコッチ見てる。
シェリーが無表情で言う。
「教えることあんの?」
基本からお願いね!
と、笑いながら言ったが皆あきれ顔だな。
来た道を戻り村に帰りつく。
村長にエドが報告。
「まだ10匹程度は森に潜んでいる。
一匹シルバーがいるから警戒は怠らないでくれ」
取り逃がしたのが居るので
討伐依頼完了になるのかどうか微妙な所だったが
村長は依頼完了のサインをしてくれた。
ただし、定期的にパトロールに来てくれる事を
条件に出してきた。
それはまた新たな依頼になるので、
別の依頼書を作ってギルドに渡して欲しい。
指名すれば俺たちが優先的に駆けつける事を伝え了承を得る。
ザクレムに戻りギルドに顔を出す。
エドとシェリーが魔石の買い取り交渉をしている間は
ロビーでお茶を飲んで待っていた。
しばらくするとシェリーが俺を呼びに来た。
どうやらギルド長が呼んでるらしい。
シェリーの後をついて行く。
部屋の中にはエドもいた。
「こんにちはエリックです」
「やあエリック君、初めまして。
ギルド長のカミーユです」
ギルド長は女性だった。
厳つい男性がやってるもんだと思っていたが。
長く伸ばした金髪は腰にまで届く。
すらりとした長身でスタイルが良い。
胸の盛り上がり具合も良いですなあ。
これは良い物だ。
ニコリと笑ってはいるが
細い目は鋭さを感じさせ隙がないのが気になるが。
でもまあ美人です。
目の保養になりますね。
ごっちゃんです。
「エドから話は聞いたわ。
あなたとんでもない魔法使いなんだってね」
思わずエドの顔を見る。秘密にするんじゃなかったの?
「ギルド長は冒険者の秘密を守る。そこは安心してくれ」
「そうね、エドが言う通り個人情報はうかつにしゃべったりはしないわよ。
皆それぞれ人には言えないなにかの一つや二つ持ってるもの。
冒険者ギルドではお互いのことを深く詮索しないのが暗黙のルールなのよ。
でも私は立場上知っておかなきゃならないの。
緊急発動時は上級冒険者は全員参加の義務があるのね。
参加するメンバーの個々の技量を知っておかねばならいの。
そこは理解してね」
「なるほど、緊急発動ですか。でもそれって上級冒険者でしょ?
俺には関係ないような気もするんですが」
「なに言ってるの。
ブロンズウルフ50匹前後倒したのはあなただって聞いたわ。
駆け出しのF級が出来ることじゃないわよ。
実力だけならA級名乗ってもいいくらいね。
でもまだ冒険者に成り立てだし、
基本的な事を学ばなければならないそうなので、
さすがにすぐにはA級はあげられないわ」
まあそりゃそうだよね。
依頼こなしたのもまだ一回だけだし。
「というわけでエリック君、
あなたは今日からC級にランクアップよ。
ギルドプレートを書き換えるから渡してちょうだい」
登録して間もないのにC級か。
ちなみにC級からは上級扱いになるので
緊急発動には強制参加だそうだ。
新しいプレートを貰い首にかける。
ロビーで待っていた皆と合流し俺たちは居酒屋へと移動した。
腹減ったな。