3-5 ガウンムアの新指揮官
ルド王国の攪乱作戦は成功と見なされた。
俺としてはあのまま玉座に座ってすんなりと
魔人の軍にルド王国を無血占拠させたかったのだが
贅沢は言うまい。
本国に帰ってからはしばらく出番がなかった。
主に新兵の訓練と士官学校での実戦形式の
授業に講師として教壇に立った。
士官学校の職員室に居るときにヴァレリ中将の戦死を知った。
中将という位は前線に出ている将兵の中では最高位だ。
ちなみに我が国では大将は名誉職とされ
顧問の立場で本国から出ることはない。
ヴァレリ中将のガウンムア占領軍司令官としての席が
空席となったため新たに誰かをガウンムアに派遣することになった。
十二人会議では候補者が絞られ選考が行われたのだ。
白羽の矢が立てられたのはこの俺、クレイグ上級佐官だ
ま、今となっては『元』がつくのだが。
少ない人数で数年にわたる潜伏工作を行い
偶然ではあるがアケミ姫拉致作戦に
一役買った功績が認められ、
俺は准将の位を授かりガウンムアに
新司令官として赴任することになった。
任務は統治であり、税収を上げるのが主な目的である。
それと同時に来るべき魔王討伐軍などというふざけた名前の軍との
全面対決に向けて部隊を再編し育て上げねばならない。
やらねばならない事は山ほどあった。
十二人会議からの指示で人間の国の統治を成功させている
グレイン少将の元に行き話を聞くことになった。
俺は数人の部下を連れてパールバディアにおもむいた。
「お久しぶりです。グレイン少将閣下」
「久しぶりだねクレイグ准将。昇進おめでとう」
グレイン少将と握手を交わした。
相変わらずこの筋肉ダルマはグリップがきつい。
手を握りつぶされるかと思ったがワザとやってるのか?
「少将閣下、パールバディアの統治お見事です。
私もガウンムアの統治を任されましたので
参考になるお話を伺わせてください」
「うむ。十二人会議から要請を受けているのでそのつもりだ。
まず私がやってきたことをかいつまんで説明する。
質問はその後まとめて受け付けよう」
「承知しました」
一通り話を聞く。
一見ハト派に思える少将だがやるときは躊躇なくやる。
しかも徹底的に。
だが戦闘は必要最低限にとどめているようにも見える。
そのことを質問した。
「戦争は高度な外交とも言われているのだ。
本来なら無駄な流血は避けて話し合いで決める方が
双方共に損害が少なくて済む。
だが国をよこせと言われて、はいそうですかと
すんなり受け入れる首長などおらん。
そこで効果的な軍の運用が求められるのだ。
外交手段の一つとして戦争という選択肢があるという考え方だな」
「なるほど。しかしそれは軍人と言うよりも
政治家的な考え方ではありませんか?」
「そうだ。いいか、我々の位には将がつく。
この意味を考えたまえ」
「全軍の長ではないのですか?」
「そうだな、それは正しい。
それと同時に常に国益とはなにかを考え
行動することが求められるのだよ。
ただ単に戦争だけをやってりゃいい状況なら
敵を屠る事に集中できるんだが、我々が任されたのは『統治』だ。
政治家的な資質も必要だな」
「なるほど。しかしそれでは我々に与えられた
権限が大きすぎるようにも思えますね。
例えば、ですが。場合によっては本国の命令を
無視しても良いとお考えで?」
「まさか。私は本国の意向に沿ってこの国で働いておる。
無視した事など一度もないしこれからもしない。
なぜそんなことを聞く?」
「いえ、将軍職にある者がそこまで考え行動できるのなら
あるいはクーデターなども起こせるのではと。
失礼な質問である事は重々承知しております」
「君はストレートだな。
まあ起こす気があれば可能だろうがやる意味がないだろ。
十二人会議から信頼されてるからこそ
統治を任されているわけだしな」
「そうですね。私もその信頼に応えなければならないと考えてます」
グレイン少将も実力でのし上がってきた言わば
現場叩き上げの軍人だ。
やはりここまで上り詰めるには軍人としての
能力以外のなにか秀でた部分があるのだろう。
まだはっきりとは解らないがそれがグレイン少将にはあるようだ。
「しばらくパールバディアに滞在して見学していくといい。
各役所は自由に出入りして良いように通達してある。
質問も自由にやりたまえ」
「ありがとう御座います。お気遣い痛み入ります」
「そうそう、君も有能な副官を選んだ方がよいぞ。
ニナ嬢はどうしたね。たしか婚約してるんだよな」
「はい、よくご存じで。ニナはまだしばらく
ルド王国に潜伏してもらう予定です」
「そうか。では君のお眼鏡にかなう人物が現れるまで
俺の部下達を連れて行ってくれ。
ヴァレリ中将の部隊にも派遣したのでガウンムアの様子は
わかっている連中だ」
「それは心強い。正直言うとお忍びで
一度視察に行かねばとも思っておりました」
「お忍びか。面白そうではあるが手間だな。
部隊はあとで紹介するよ」
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「それではボイド隊長、お休みなさい」
酔っぱらったドルマー軍曹を送って行き
その夜は久しぶりの自分の宿舎でぐっすり眠った。
次の日の昼過ぎ買い物に街に出る。
商店街は店が増えたのだろうか、人出が多くかなりにぎわっていた。
しばらくは何も買わずにぶらぶらしてると声を掛けられた。
「隊長、こんにちは!お買い物ですか?」
サラとトルグだった。
サラは真っ白いワンピースを着ている。
膝小僧が顔を出すくらいに丈が短い。
ベルト代わりなのだろうか大きなピンクの帯を
後ろで蝶々結びにしている。
「えへへー、どうです隊長。似合いますか?」
「ああ、似合ってる。最近の流行なのかね?」
兄のトルグが口をはさむ。
「隊長。ホントはこれ、十代前半の女の子が着る・・・ぶほぁ!」
サラの正拳突きがトルグのみぞおちに入った。
「兄さん?殺しますよ?
じゃ隊長も買い物を楽しんでください!」
おそらくサラの買い物に付き合わされたのであろうトルグは
大量の荷物を抱え幾分前屈みで歩いていった。
「兄妹仲が良いのは良いことだな」
通りを歩いている人々を見ると着ている物が
随分とカラフルであることに気がついた。
デザインも今までの冒険者だか農夫だか区別の付かない
野暮ったい物を着ている人の方が少ない。
「ますますわからん。この国はどこへ行こうとしてるのだ」
首をかしげながら買い物を済ませ宿舎に帰ると
入り口では伝令兵が待機していた。
時間があるときにグレイン少将のところに
来て欲しいとのことだった。
夕方までまだ時間があるので軍服に着替えて王城に出向く。
そこで新たな任務を言い渡された。
「それではクレイグ准将の指揮下にはいり再び
ガウンムア王国に出向きます」
「何度もすまんな。それから君の報告にあった
ガウンムアの新国王にも会ってみたいので
折りを見てセッテイングしてくれないか」
「承りました。お任せください」
「うむ。また宿舎を開けることになるがそのままにしておくよ」
「ええ、それは有り難いのですがカビが生えるのは
いかんともしがたいですな」
「カビ?そうか・・・・カビ○ラーってどうやって作るんだか・・」
「は?今なんと」
「いやなんでもない。錬金術師に頼んでカビを殺せる薬剤でも作って貰おう」
「それはいいですね。ぜひお願いします」
数日後我々は同じメンツでクレイグ准将と共に
再びガウンムアの首都に向けて出発したのだった。




