3-3 スフィーアの難民、開拓村のダレス その2
最初にジョンと最寄りの町に行く。
足りない物資を買い袋に詰めた。
「ねえジョン。まずどこに行くの?」
「海岸沿いに北上する。北東部にある半島で船を探そう。
それに海岸沿いにはまだスフィーアからの難民がいるかもしれない」
二人で海沿いの町を目指す。
誰もいない草原でジョンが提案した。
「ダレス、お前の能力だと走っても速いんじゃないのか?」
「うん村の誰よりも速かったよ」
「よし。試しにあの森の入り口まで走って先に行ってみてくれ」
僕は地面を蹴って目的の森の入り口まで走った。
あっという間に着いた。
ジョンは空間を繋げてひょいと僕の目の前に現れる。
「速いなダレス。約500mを10秒前後なんて尋常じゃない」
「本気出せばもっと速いよ」
「疲れてないか?」
「うん、全然平気。でも僕より空を使えるジョンの方が凄いや」
最初の港町まであっという間に着いた。
ジョンは港で働く人達に話しかけていた。
聞き込みを続けたがこの港町には難民は居なかった。
海沿いの街道を北に進む。
途中数泊野宿してたどり着いたいくつ目かの
漁村で難民情報が手に入った
「数年前にぼろぼろの船でたどり着いた集団がいたよ。
海沿いの街道を北に行けば二股道がある。
左に行けばすぐに農村がある。
そこで農作業に従事してるはずだよ」
魚網を補修していたおじいさんにお礼を言い農村を目指す。
農村に着くと家が建ち並ぶ集落を探して行ってみた。
第一村人発見。
「おじさんこんにちは!ちょっとお尋ねしたいんですけどいいですか?」
鍬を持ったおじさんは胡散臭そうな目で僕を見ていた。
「あんたらどこから来なすった?」
「南の開拓村です」
「ああ、あそこか。密林の境界の」
「そうです。
ところでこの村にスフィーアからの
難民が居るって聞いたんですけど」
「ああ、いるよ。今は皆畑仕事にいってるはずだ。
だがなぜそんなことを聞くんだい?」
「僕もスフィーアからの難民なんです。
仲間を探してます」
「そうかい。それじゃあここで待つといい」
夕方になると農作業を終えた人々が集落に帰って来た。
難民の皆に集まって貰い話を聞いて貰った。
この村には全部で12人の男女がたどり着いたそうだ。
難民の代表者であるおじさんが話をする。
「俺たちはここで根を張って生活している。
受け入れてくれた地元の人々にも感謝してるんだ。
ここで子を産んだ女性はこの地に骨を埋める覚悟だ。
もしスフィーアを再建するとしても全員は行かないと思うよ」
「うんわかった。みなそれぞれ事情があるもんね。
でも姫様が国に帰る時には連絡するよ」
その夜は空いてる小屋を貸して貰い一泊した。
干し草を敷き詰めた簡易ベッドではぐっすり眠れた。
「ねえ、ジョン。ここからはどうするの?」
「半島の先の方は断崖絶壁が続いていて村はないそうだ。
半島の中央も山があるので人はいない。
この山を左に迂回して内陸を抜けるルートで行く。
ここいらは魔人も多くいるし注意しないとな」
魔人に呼び止められたら身分証がないとやっかいなので
大きめの町を目指して冒険者ギルドを探すことにした。
内陸の町は規模も大きく人も大勢いた。
子供の頃に住んでいたスフィーアの王都みたいだ。
ジョンがギルドを見つけた。
そこで登録を済ます。
「これでダレスもいっぱしの冒険者だな」
貰った金属製のプレートを首からぶら下げる。
「へへ、なんだかちょっと嬉しいな」
「それからこのカネはダレスが持ってろ。
開拓村で討伐した魔物の魔石を買い取って貰ったぞ」
「おお!こんな大金見たことない!」
「ははは、なくすなよ」
そして初めての宿屋。
冒険者がよく使う安宿だったけど、宿に泊まるのなんて初めてなので
ちょっとテンション上がった。
夕飯は近くの食堂で食べた。
ジョンはエールを飲みながら近くに座った冒険者や
町の人達と話をしている。
ここは情報交換の場でもあるんだって。
赤ら顔の小太りなおじさんが話してくれた。
「ああ、数年前にここまでやってきた難民がいたよ。
だがこの町では職にありつけなくて北に行ったみたいだ。
海を渡ってツイーネまで行ったかもしれんな」
その他にもいろんな人の話を聞いた。
冒険者の自慢話はどれもこれも面白くて興味深かった。
はじめて飲んだエールは苦かったけど大人の仲間入りをしたみたいで
調子にのって飲み過ぎちゃった。
「なあ、ダレス。随分飲んでるが大丈夫か?」
「ん?大丈夫ってなにが?」
「いや・・・・酔ってはいないみたいだな。エール何杯目だ?」
「んーと、6杯目」
「うーむ、ザルであったか。
何にせよカネも無駄に使わない方がいい。
今日はその辺でやめとけ」
その町から数日掛けてガウンドワナ大陸の
北西の端の漁村にたどり着いた。
その町には沖に出られる立派な帆船があった。
もちろん漁船だ。
ジョンが船長にカネを渡している。
交渉成立したみたいだ。
「一度沖に出てから北上すると漁場があるんだと。
そこから西に行けば魔人に見つからずにツイーネに行けるそうだ」
「じゃあこの船に乗ればいいんだね。
ところでジョン。
ここに来るまでに魔人にはほとんど会わなかったけど
本当にガウンムアは占領されてるの?」
「ああ。ダレスの村に行く前に首都にも行ったんだが
首都には魔人が大勢いたな。
最初に来た将軍は討伐軍に負けて死んだそうだが
替わりの部隊がやってきてガウンムアの占領を続けてる。
ただ、討伐軍との戦いでかなり数を減らされたので
ここみたいな辺境の漁村までには手が廻らないのだろう。
僕とジョンは船に乗った。
数日後には北の大陸ローレルシアのツイーネに降り立った。
そこから人気のない街道を北に向かう。
ルド王国入りしてからは街道が整備されていたので走りやすかった。
歩いている人や馬車にぶつからないように速度を落としたけどね。
さらに数日後、僕たちは王都に到着した。
「ジョン、ここがルドアニアなの?」
「そうだよ。どうだい、でかい都市だろう」
僕は口をあんぐり開けてその大都会を見入っていた。
「おいおい、そんなんじゃオノボリさんと思われてぼったくられるぞ」
「ぼったくら・・・なんだって?」
「悪い大人に騙されるぞって意味だ」
「そっか。これだけ人がいれば悪い人もいるよね」
王城に行ってみる。
僕は正門前の広場の隅の植え込みに座ってジョンを待った。
それにしてもすんなりお城に入っていけるジョンって何者なんだろう。
ただの冒険者ではないみたい。
しばらくするとお城から一人のおじさんが出てきて
僕に話しかけてきた。
「君がダレス君かい?俺はエド。シェリー姫の護衛従者だ」
「エドさんこんにちは!ダレス・コフロイです」
僕はスフィーアの難民であることをエドに話した。
「なるほど、ダレス。よく頑張ったね。
これからはスフィーア亡命政府に所属してくれないか?」
「はい!ジョンにもそう言われてたので入ります!」
ここでエドが怪訝な顔をする。
「ジョン?誰だそれは」
「え?僕をここまで連れてきてくれた人ですけど」
「ああ、それでか。なるほどね」
「?」
エドは役人が呼びに来たので事情を聞き
僕をここまで迎えに来たそうだ。
ジョンとは直接会ってないみたいだ。
「ジョンはどこにいったんですか?」
「たぶん別の仕事に行ったと思うよ。
なーに、そのうちまた会えるさ。
その時に改めてお礼を言えばいい」
それから姫様に謁見し軍の練兵場で僕の能力を見せて
しばらくは姫様の護衛をやることになった。
僕はこの時ジョンがルド王国のとある機関のスパイであるなんて
知りもしなかったんだ。
それに姫様の護衛から勇者のパーティの一員となり
勇者と共に魔王と戦う事になるなんて
想像すらしてなかったんだよね。
こうして僕の新しい生活が始まった。