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3-2  スフィーアの難民、開拓村のダレス その1


 僕の名前はダレス・コフロイ。 

ここはガウンムア王国の東南にある開拓村だ。

僕たちは数年前にスフィーアを脱出して海路でこの国の

この村にたどり着いた。


 当時10才だった僕も今や17才。

そろそろ結婚相手を見つけなきゃ、と言われてるんだけど

この開拓村には同年代の女の子がいない。

尽きない悩みの種の一つなんだけどね。


「ダレス!メシにするぞー!」

父さんが呼んでいる。

もう夕方か。

畑の草むしりに夢中になってた。


 食卓にはいつものしょっぱいだけのオートミールと

ふかしたジャガイモがある。

テーブルにつき二人で食べ始めた。


「草むしりご苦労だったな。どこまでやった?」

「ほぼ全部だよ」

「はは、相変わらず凄いな」


 僕と父さんが預かっている畑は約5ヘクタール。

種まきと収穫は季節労働者がやってきて手伝ってくれるけど

普段の管理は開拓村の村人だけでやっている。


 スフィーア人は魔法使いが多いけど僕には魔法の才能はなかった。

まあ普通の人もかなり多いし魔法が使える使えないにかかわらず

何かしらの仕事はあるので食うには困らない国だった。

つまり魔法が使えなくても特に気にする必要はなかったんだ。


 が、15才になった時に僕は自分の体の異変に気がついた。

南の密林に近い開拓途中の平野で魔物に襲われた時に

それは突然目覚めたんだ。

剛力とも言うべき常人には

あり得ないほどの腕力と高い身体能力。


 襲ってきたのは10体のオーク達だったけど

すべて素手で倒せた。

あんないい加減なワンツーパンチでも

面白いようにオーク達は宙を舞ったんだ。


 そのことを父さんに話したんだけどあまり驚かなかった。

そして僕たちの5代前のご先祖様の話をしてくれた。


「そのご先祖様は産着に包まれた赤ん坊の時に我が家にやってきた。

抱えていたのは魔人でその赤ん坊の父だったそうだ。

魔人の国では生まれた赤子が魔石を持って居なかった場合

死産扱いにされて殺されるそうだ。

不憫に思ったその魔人の父親は我が子を殺した事にして

スフィーアに連れてきたってわけだ」


「じゃあ僕たちには魔人の血が流れているの?」

「ああ、そう言う事だ。

そのご先祖様は魔石持ちでなかったためか魔法は使えなかったんだが

今のお前のように剛力能力を持っていたそうだ」

「そうなんだ。お父さんは?」

「いや、俺や俺のオヤジには発現しなかった。

だがお前には発現した。理由はわからん」


 その時に父さんに言われたんだ。

この能力を使って人を傷つけてはならない。

人を助けることに使いなさい、とね。

 

 そんなわけで物凄い勢いで草むしりをしたり

大量の木材を運んだり大岩を撤去したりと

開拓村の皆のためになるようにこの力を使ってきたんだ。


 誰かを傷つける事なんてしなくても良いこの村は

女の子がいない点を除けば割と生活しやすい場所だった。


 けどそんなのんびりとした生活が去年から少し変わった。

ガウンムア王国が魔人の侵攻を受けて

魔人共の属国になってしまったんだ。

この開拓村にも魔人がやってきた。


 見せしめに村長が処刑されそうになったんだけど

別の魔人がやってきて処刑を中止させた。

理由は貴重な働き手を減らしてはならないとの事だった。

先に来た魔人は反抗的な態度を見せたがなにか言われたのだろう

おとなしくなり次の日には帰って行った。


 後から来た魔人は村人全員の前で話をした。

「私はバートル下級尉官、こちらはアガール曹長だ。

この開拓村の収穫物は魔人の軍が接収することになる。

もちろんすべてよこせとは言わない。

今までの税より多少重くなるがそれは承知して貰いたい」


 村人は誰も殺されてないし、当面は多少税が重くなる程度なので

村長以下みなしぶしぶ了承した。


 ところが一年たっても魔人はこの村にやってこない。

最寄りの中級都市にいつも通り収穫物を持って行ったら

人数は少ないけど魔人が税の管理をしていた。

うちの開拓村の事は忘れてたのかな?

まあとにかくその時は何が起こったかは知らなかった。


 ある時開拓村に一人の冒険者がやってきた。

くうの魔法が使える上位の魔法使いだ。

この国ではテイマーと呼ばれる魔物を使役できる能力を持った

人達がいる。

魔物が出たらテイマーに連れて行って貰うか

冒険者に狩って貰うかの二択だった。

 

 この開拓村では常駐してるテイマーも冒険者もいないので

畑に入り込んできた魔物の討伐は主に僕がやっていた。


 名前はジョン・スミスと名乗ったその冒険者はしばらく滞在し

僕は一緒に魔物退治を数回行ったんだ。

今までは倒した魔物は村人と一緒に焼いていたんだけど、

ジョンは倒した魔物を捌いて魔石を回収していた。

冒険者ギルドに持って行くとカネになるそうだ。


 ジョンが教えてくれた。

魔人は北の大陸に侵攻していったが、ルド王国を中心とした

魔王討伐軍の反撃を受けツイーネとグレンヴァイスから撤退

してきたそうだ。


 そんなわけでガウンムアの魔人も勢いがなくなって

きたのだそうだ。


「なあ、ダレス。お前の腕っ節の強さは半端じゃないな。

お前はスフィーアの難民なんだよな?」

「そうだよ。僕も含めて8人がこの村にお世話になってるんだ」

「そうだったのか。難民が8人ね。ふむふむ」


 ジョンはしばらく考え込んでからしゃべり始めた。

「なあ。スフィーアのシェリー姫って知ってるよな」

「知らないわけないよ。スフィーアの国民なら皆知ってるよ」

「そのシェリー姫なんだが生き延びていて今ルド王国で

亡命政府を樹立しているぞ」


 姫様が生きていた。

亡命政府を樹立していると言うことは国を再建するつもりなのだろう。

「ねえ、その話を僕たち8人の前でしてくれるかな」

「もちろんいいとも」


 ジョンは皆の前でルド王国に姫様と従者のエド、

ロウ老師と弟子のカミーラが居ることを教えてくれた。


 姫様が生きている。

国の再建のために活動してくれている。

僕たちは希望を持った。


「もし良かったら、なんだが。

ダレス、俺と一緒にルド王国に行ってみないか?

シェリー姫様に会わせてあげよう。

君の腕っ節があれば姫様の護衛として活躍できると思うよ」


 素敵な提案だった。

行ってみたい。

だが父さんは首を横に振った。


「ダレス。この国は魔人の占領下にある。

ルド王国とはまだ戦争継続中だ。

この開拓村に居た方が安全だぞ」

「父さんは僕の能力を誰かを助けるために使えって言ったよね?

僕は姫様のために、スフィーアを再建するためにこの力を使いたい」


 難民の中で一番の長老が言った。

「ワシはまたスフィーアで暮らしたい。

姫様が生きておられ、国を再建するならばお手伝いをしたい。

じゃがワシはもう年じゃ。手伝いたいが体が言うことをきかん。

ダレスが行きたいなら行かせてやるわけにはいかんじゃろか?

それにダレスの嫁問題もあるしの」


 父さんが真剣な顔で僕を見つめた。

「ダレス、もう一度約束してくれ。

その力は姫様を助けること以外に使ってはならん。

決して悪事には利用しないと言うことを」

「もちろんだよ!僕、姫様のところに行って姫様のお手伝いをする。

この村の難民の代表として!」


 数日後、旅支度を調えて僕はジョンと一緒に旅に出たんだ。

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