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3-1  ボイド隊の帰還

第三章スタートです。再び勇者が魔王と対決するまでに二分された世界の様子や勇者と魔王の動向を描いていきたいと思います!



 もう戦闘の音は聞こえない。

ボイド上級尉官と5人の部下は山岳地帯の麓にある最後の平原に居た。

人の気配はない。近くに村はなかった。


「サラ伍長、地図を」

サラは地図を取り出し地面に広げる。

「今どの辺りだ?」

サラは地図を指さした。

「この辺りですね。既にツイーネに入ってます」


 逃げてくる途中にエスタンに偵察を出した。

偵察に行ったバートルの報告ではエスタンにも既に

ウーファが取り返される目前である報告が行き渡っており

魔人やテイマー達が南に向かい逃亡を始めた様子だったそうだ。


 ボイドは町を大きく迂回して国境を越える指示を出した。


「出来ればガウンムアまで下がりたいのだがどうだろうか」

今度は兄のトルグが答える。

「ツイーネの海岸沿い及びグレンヴァイス側は

既に討伐軍の勢力下にあるとみて良いでしょう」


「そうか。ツイーネの街道を堂々と進むわけにはいかんな。

討伐軍は北と南から挟撃する作戦行動に出ていると見る」


 サラが挙手して発言する。

「では当初の予定通り王子をかくまっている村に行きますか?」

「そうだな。まず近くまで行ってみる。

人数分の平民服を調達したい。

それからサフラスとグレンヴァイスの国境沿いに進みパールバディアを目指す。

険しいルートだが討伐軍と会う確率も低いだろう」


 アガールは狩ってきたウサギを捌きはじめた。

「今夜はここで野宿だな。交代で火の番をしよう」


 次の日ツイーネ王国のランス王子をかくまっている貰っている村に到着した。

サラとトルグが服と食料の調達に出向く。

人の出入りがほとんどない隔絶された山中の集落だ。

戦争の気配などまるでなく至って平和だった。


「ボイド隊長、全員分の服を調達出来ました」

「ご苦労。カネは払ってきたか?」

「払おうとしたんですがここではあまり金貨などは使わないらしく

私が持っていた剣とナイフとの交換でした」

「そうか。では帰ったらグレイン少将に新品をおねだりしてみようか」

「ええ、利息も付けて貰いますわ」


 ランス王子は村人達と一緒に生活しているそうだ。

畑仕事や薪割りといった日常の仕事を喜んでやっているらしい。

「なるほど。無事であればそれでいい」


 全員が服を着替えてサフラス側に入る。

険しい山を幾つか超えると突然だだっぴろい街道に出た。

「こんなところに立派な街道を作っていたのか。

討伐軍はここを通ってグレンヴァイスに入っていったのだろうな」


 見ると坂道の向こうから一筋の煙が上がっている。

バートルが偵察に行きすぐに帰ってきた。

「どうやら茶屋があるみたいですね」

「この格好だしばれないだろう。すこし喉を潤していくか」


 全員で歩いて茶屋に寄る。

通りに面した長椅子には数人の冒険者らしき連中が茶を飲んでいた。

「はあぁ、うめぇ。バリーもクリスも疲れてないか?」

バリーと呼ばれた髭面の男が答える。

「ああ、大丈夫だ。この峠を越えれば宿場があるから今夜はそこに泊まろう」


 ボイド達が空いてる椅子に腰掛けるとその冒険者が話しかけてきた。

「おう、あんた達も冒険者かい?」

ボイドが答える。

「ん?ああそうだ」

「ほう、全員黒髪とは珍しいな」


 ボイドは剣の柄に手を伸ばしかけたドルマーを制する。

「全員親戚なんだよ」

「そうかい。いや珍しかったんでな。気を悪くせんでくれ」

「気にしなくていいよ」

「で、あんたら今からグレンヴァイスに行くのか?」

「そのつもりだが」


「悪いことは言わない、やめとけ。

今更行っても魔人も魔物も残ってないぜ」

「魔人は全滅したのか?」


「ああ、全滅だね。討伐軍は海岸線を取り返して既にツイーネまで行ってるよ。

そこまで行けばまだおこぼれに預かれるかもしれんが、今から行ったんじゃ間に合わないだろうな」

「そうだったのか。教えてくれてありがとう。えー・・・」

「ウィリーだ」

「ありがとうウィリー。バイドだ」


「じゃあ俺たちは行くぜ。達者でなバイドさん」

ウィリー達はサフラス方面に歩き出した。


「俺たちもそろそろ行くか」

「ええ、バイドさん」

ボイドはドルマーの肩を軽く殴る。

 

ボイド達は街道をグレンヴァイス方面に向かい

周囲を見渡し誰もいない事を確認すると山に入った。

数度空くうを繋ぎ西を目指す。

途中一泊してパールバディアに帰ってきた。


 ボイド達は王城に行きグレイン少将に報告をした。

「うむ。長い間ご苦労だったな。

ヴァレリ中将は残念だった。ブランカも死んだか?」

「いえ、確認は取れてません」


「賭けても良いがあのネーチャンはちゃっかり生き延びてると思うぜ」

「少将、誰もがそう考えてるので賭けが成立しません」

「大穴に賭けろよ」

「遠慮しておきます」


「まあしばらくは休んでてくれ。

君たちの宿舎はそのままにしてある」


 ボイド達は王城を出て宿舎に帰った。

久しぶりの自室はかび臭かったので掃除をすることにする。


 夕方になるとドルマーが呼びに来た。

「隊長、夕飯にしませんか?」

「ああ、そうだな。なんか食いに行くか」

ドルマーと連れだって居酒屋に行く。


 ワインと肉料理を注文した。

届いた料理を食べながらワインを飲む。

「隊長、これから私達の任務はどうなるんですか?」

「俺もなにも聞いてないよ。しばらく休めと言っていたし

遠慮なく休ませて貰おう」


 ドルマーの顔がすこし赤らんできた。

「隊長。少し町を見て回ったのですが、一年前に比べて活気がありますね」

「そうか。掃除に夢中で気がつかなかったよ」

「ええ、例えばこの居酒屋のメニューですが」


 料理の絵が添えられているメニューは数ページにも及ぶ。

飲み物もワインが十数種類に蒸留酒にエール、

それにカクテルなどという飲み物まで出来ている。

「本国では貴重なガラスがここではコップに使われてます」

「ああ、それは俺も気になっていた」


 客の注文を受けた店員は威勢のいい声で

「はい、喜んでー!」

と叫んでいる。

いったい何が嬉しいのだろうか。

皆満面の笑みで接客している。


「グレイン少将とワッツ副官殿は何をやろうとしてるんだろうか。

政治的な改革を中心に行うとばかり思っていたが、文化面の発展にも

かなり力を入れているんだろうな」


「ええ、それは解りますが本国にもないものがここにはある。

いったい何を手本にしてるんでしょうか?」


「わからんよ。この国の錬金術師ががんばっているのかもしれんし」

「まあそれはあるでしょうね。しかし提案してる人物がいるはずです」


 ボイドはドルマーのグラスにワインを注いだ。

空になったビンを振り店員を呼ぶ。

「おーい、ワインのおかわりだ」

「へい、銘柄は同じでいいですか?」

「違うのにしようかな。なにかオススメは?」


「肉料理でしたらこちらの赤がオススメです。

熟した甘味が酸と滑らかなタンニンを支え、

ジューシーな果実味と適度にスパイシーなニュアンス、

芳醇且つパワフルな味わいは、肉料理とぴったりですよ」


「そ、そうか。ではそれを貰おう。

それにしても詳しいね」

「へい、ソムリエになるために今勉強中なんですよ」


「ソムリエ?なんだそれは」

「ワインの鑑定士みたいなものです。

お客様にワインを勧める時に我々が味を説明すれば迷わずに済むでしょう」

「そうか、がんばって勉強してくれ」

「へい!では少々お待ちください!」


「なるほど、ドルマーの言うようにいろいろと

不可解な発展の仕方をしてるようだ」

「ええ、居酒屋だけ見てもこの変わりようです。

休み中にいろいろ調べてみますね」


 ボイドも明日は町に買い物に行ってみようと思った。

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