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2-34  勇者vs魔王 

   

魔王が開いた空間トンネルに魔王が先に足を踏み入れる。

俺も後に付いていった。


 出た場所は草原だった。

右奥に国境の塀が見える。

どうやらパールバディア側のようだ。


 魔王はスッと姿を消すと20m程度の距離を取り俺と対峙した。

「説明不要よね。じゃあ死んで」

 

 魔王は右の手のひらを俺に向けた。

何をやるつもりか解らなかったが、俺は大きめの障壁を展開し

同時に大量の水蒸気を発生させた後空くうを開く。


 眼下に手のひらを広げた魔王が見える。

大量の石弾を発射した直後だった。

俺も魔王めがけて同じように石弾を射出する。


 当たった。目の端で確認し草原に降り立つ。

だが魔王は首をコキコキひねり平然としている。

「あら、手加減してくれたの?意外と紳士ね」


 関所での会談には武器の持ち込みが出来なかったので

俺はいま勇者の剣を持っていない。

えーちゃん無しでやるしかない。

魔王も得物は持ってないし魔法での勝負になる。


 魔王が視界から消えた。

どこから現れるか予想が出来ない。

こんな時一番安全なのは魔王が元居た場所だな。

すぐさま移動すると案の定魔王は俺が居た場所に

上空からふうじんをぶつけている。


 魔王の位置を確認。背後に躍り出る。

「捕まえた!」

後ろから羽交い締めにすると魔王が叫んだ。


「きゃぁぁぁぁ!エリックのすけべぇぇぇぇ!」

「う、うわ・・・・あ、アケミ?」


 驚いて拘束をゆるめてしまうと魔王はスルリと抜けだした。

「なーんてね」

振り向きざまに俺の顔面にストレートパンチ。

のけぞりショックをある程度吸収したつもりだったが

凄い威力だった。


 空中で一瞬気が遠くなるがこのまま落下するわけにもいかない。

必死に意識を集中してくうを開き草原に降りた。

降りた瞬間膝が笑う。

やばい、効いてる。


 魔王は間髪入れずに大量の石弾を発射してきた。

「またそのパターンかよ!」


 今度は上空500m程の高さにくうを繋ぎ自由落下を始める。

空中に居る間は膝が笑っていてもいい。

意識さえ失わなければ。


 太陽を背にした俺は魔王の視界から消えたはずだ。

巨大なファイアートルネードを大量に生成、

草原を焼きながら魔王を包囲する。

その中心に向かって大量の石弾を発射。

石弾にも火を纏わせているので通常の物より威力は高い。


 地上に降り立つと同時に膝をつく。

息が苦しい。

「ぜいぜい・・・やったか?」

「誰が何を?」

俺の背後から魔王が答える。

とっさに横に転がり魔王のパンチをかわした。


「うーん、どうも調子でないなー」

魔王はすっとぼけた口調で頭をひねっている。

お互いくうを繋いでの追いかけっこが始まった。


 数度同じフェーズを繰り返したところで魔王の放ったカマイタチ

が俺の左腕を持って行った。

不思議と痛みはあまり感じない。

自分の癒し系能力を使い血止めを行う。


 俺が放つ魔法もまったく当たってない訳ではない。

俺の風刃も魔王の頬をかすめザックリと傷口を開かせた。

だが、そんな程度はすぐに治癒できてしまうみたいだ。

「くそっ、反則だろが!」


 魔王がファイヤーストームをぶつけてくる。

障壁を生成し防いだつもりだが防ぎきれなかった。

焦がされた前髪が嫌な臭いを発している。

 やばい、まじでやばい。

もう魔力が保たない。


~~~~~~~~~~


 私はエリックの指示に従いすぐさま部隊に向かって走り出した。

「全員抜刀!銃の安全装置を解除!エリックを助けに行く!」


 今回はクルトフ方面軍を待機させておいた。

私直轄の討伐軍ではない。

だが魔道銃部隊だけは二回目の会談に間に合うよう

クルトフに移動させておいたのだ。


「私の装備を!早く!」

装備ベルトを巻く。

銃を納めたホルスターと換えのカートリッジが装備されている。

私専用に作られた銃身のやや短い短小銃を抱える。


 全員で関所内になだれ込む。

すぐさまグレインとワッツが立ちふさがってきた。

二人に向かい私は怒鳴った。

「なんのつもりだ!さっそく協定を無視するつもりか!」


 グレインが叫ぶ。

「違う!これは魔王様と勇者の戦いだ。

魔人と人間は直接は関係ない!」

「なにを都合の良いことを!」


 私は返事を待たずにトリガー引き絞る。

シュッ!という発射音と共にグレインが消えた。

見るとパールバディア側の門の近くに移動している。


「魔道障壁担当は前に!障壁を盾に全速前進!」

部隊はパールバディア側の門を目指す。

グレインとワッツの攻撃はすべて魔道障壁が防いだ。

二人は門の外へと消える。


 門をくぐるとパールバディア側に出る。

左手の草原が焼けていた。

見ると魔王がエリックと対峙している。


「魔道銃部隊は三班に別れろ。二班は右から、三班は左から。

一班は私と共に中央だ。撃ちながら走れ!剣士は一班に続け。突撃!」


~~~~~~~~~~


 魔王がなにかブツブツと独り言を言っている。

「思ったより体が重く感じるわね。

もうちょっと馴染ませないと無茶できないかなあ」


 最初に見かけたもう一人の女が魔王の傍らに姿を現し

魔王の耳元になにかささやいている。


「邪魔が入ったわね。私も本調子じゃないけど

あんた弱いわ。1000年前の勇者はもっと強かったわよ。

また殺し合いしましょう。じゃあね」


 魔王はくうに消えていった。

もう一人の女が俺のちぎれた左腕を手渡してくる。

俺が無言で受け取るとその女も姿を消した。


「エリック大丈夫か!」

遠くから殿下の声がする。

もう立って居られない。


 俺は地面に膝をつき仰向けに地面に寝転がった。

魔力はほぼ残っていない。

今更ながら左腕の切り口が痛み始める。

めまいがすると同時に意識が保てなくなってきた。

泣きそうな顔のセシリアがぼやけた視界にはいってくる。


「エリック!すぐ直すから!」

「たの・・・・・む・・・・」


 俺は意識を失った。


~~~~~~~~~~ 


 パールバディアの王城の一室では魔王とグレインが話をしていた。

「あのあとルド王国の王子をなだめるのが大変でしたぞ」

「そう、悪かったわね。

でも小手調べするのにはあのタイミングしかなかったのよ」


 グレインはそのことには答えず話を進めた。

「予定通り国交断絶でお互い不可侵としました。

今後はツイーネ側、あるいはグレンヴァイス経由の

サフラス方面からルド王国に攻め入るルートを確保しましょう」


「わかったわ。どのルートを取るにしても私はまだ完全な状態じゃない。

討伐軍の相手は引き続き魔人の軍に任せるわ」


「魔王様は一度国へ帰られますか?」

「そう、そのつもり」

「わかりました。この国パールバディアとガウンムアは

引き続き生産活動に力を入れます。

食糧供給のゆとりが出るのは早くても半年後、

あるいはそれ以上見てください」


「うん、わかったわ。

ところでこの国の特産品はなに?主に食べ物で」

「そうですな。酪農家が作るチーズがあります」

「じゃあそれを少しちょうだい。アケミへのおみやげにするの」

「さようですか。すぐに手配します」


 部屋を出たグレインはため息をついた。

もう魔王様は勇者との戦いよりもチーズに意識が行ってしまっている。

少し観光でもさせておみやげを持たせ気分良く帰国してもらおう。


「それにしても勇者は気の毒だったな。

だがまあ、あれくらいじゃ死なないだろ」


*第二章完*

第二章終了です。章管理を行ってから第三章に入りたいと思います。

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