2-32 実験国家と魔人達 その2
「しかしガウンムアやツイーネ、それに我が国も
魔人の侵攻を受け被害は甚大ですぞ。
やってることに根本的な矛盾がありますな」
「おっしゃるとおりです。王子殿下。
正直に言います。絶対君主である魔王様の言うことには逆らえません。
そして元々の我々魔人の悲願は人間を滅ぼし北の大陸に凱旋することです。
だが1000年は長すぎたんですな。
人間と共存する道もあるのでは?
という意見も少なからず出てきてるんです。
今回魔王様はパールバディアでの壮大な実験に承認を与えてくれました。
そんな訳で我々はここで実験をやっている次第です」
「魔人の国も派閥があると言うことか」
「そのように受け取ってくれてかまいません」
「では、今後パールバディア王国はルド王国とは
どのように接していくおつもりか?」
「まず現状は我々魔人占領軍が支配してるとみなしてください。
パールバディアが魔王討伐軍に加わることはありません」
「ふむ。では我々がパールバディアを奪還するために
軍を送り込んでもいいのですな?」
「ご自由にどうぞ。あなた方はクルトフを奪還した後
偵察部隊を派遣してきましたよね?
どんな風に報告しましたか?」
「・・・・・いたって平和であると」
「魔人はすでにパールバディアの国民と共に生産活動に従事してます。
魔人だけを排除する具体的な方法は思い当たりますか?」
殿下は腕を組みうなっている。
「うーむ。ないと言わざるをえません。
普通に軍を送り込めば生粋の国民も傷つけてしまうでしょう」
「そこで提案です。事が済むまで国交は断絶しましょう。
この関所は封鎖してお互い不可侵としませんか?」
「なるほど。それが貴官の考えなのですな。
返答は今すぐがよろしいですか?」
「いえ、そちらの女王陛下の決定を待ちます。
しかしそんなには待てません」
「では一週間後にまたここで会談するということで
よろしいでしょうか?」
「結構です。では一週間後に」
俺は殿下に許可を求めた。
「アケミの事を質問しても?」
「いいだろう」
グレインは一通りアケミの事を説明してくれた。
内容はアケミからの手紙に書いてあった事と同じだ。
目新しい情報はなかった。
「アケミ姫は魔人の国で食生活や衣服の改善にいそしみ
国民から絶大な支持と人気を誇ってますぞ。
町を歩けばスター扱いですな」
なにやってんだよアケミは。
自分から脱出しずらい状況作ってるじゃないか。
「魔王様も当初は能力の移譲が済めば殺すつもりだったようですが
殺したら国民から恨まれて魔王様本人の人気が下がりますからね。
今のところ殺す気も返す気もないみたいですな」
「それでも何とか返して貰えないだろうか」
「魔人の国でお姫様をやってる間は安全ですよ。
事が済むまで我が国でアイドルをやっていた方が良いのでは」
「アイドルとかどうでもいい。
アケミの『願い』はそちらでかなえてやれるのですか?」
殿下が怪訝な顔をしている。
しまった、アケミの願いすなわち日本に帰る事なのだが
殿下にはアケミが転移人であることは言ってなかったな。
「エリック、その『アイドル』とは?」
そっちかよ!
「あー、いわゆる人気者の事ですね」
「さようか」
グレインが不適な笑みを浮かべている。
「少し勇者殿とサシで話がしたいのですがよろしいか?」
「俺はかまいませんが。殿下、どうします?」
殿下はすぐさま許可してくれた。
「危害は加えないのなら許可しましょう」
「もちろんそんなつもりはありません」
「では私は席を外そう」
「いえ、王子殿下。私が勇者殿と少し散歩をしてきます」
グレインが先に席をたつ。
俺も後をついて外に出た。
関所の待機所となっている広場の真ん中に行く。
グレインが周囲を見回しつぶやいた。
「ここなら誰にも聞かれないだろ。
『おい、小僧。お前は元日本人か?』」
・・・・・・日本語だった。
~~~~~~~~~
「違うわよブランカ、こうやるの」
魔王様が手本を見せてくれる。
円上の魔法障壁を横にして上に乗る。
これで空中に静止していられるのだ。
だが。
「魔王様、魔法障壁自体を上手く生成出来ないのですが」
魔王様が地面に降りてくる。
「私の手を触って。イメージが伝わればいいんだけど」
私が魔王様の手に触れている間に魔王様は小さな障壁を生成した。
「何となくわかりました。しかし私では魔力が足りないようです」
「やはりね。それじゃこれを首からぶら下げてみて」
魔王様から小さな革袋を手渡される。
革紐が着いており首にかけられるようになっていた。
「うわ、なんですかこれ?魔力がみなぎってくる!」
手をかざし先ほど伝えて貰ったイメージで障壁を生成してみた。
「出来ました!これを横にして、乗ればいいんですね?」
乗れた。
「凄い、宙に浮けました。魔王様、この革袋はなんですか?」
「魔石が入っているの。その魔石のエネルギーを身につけている者に
与えるように固定化したみた。いずれその魔石も小さくなっていって
消えるから消耗品ね」
だが若干頭がくらくらする。
そのことを魔王様に告げた。
「魔力酔いね。これは慣れが必要かもしれないわ」
「慣れ、ですか。慣れればいいんですが」
「酔い程度で収まればいいんだけど。
なにか変な副作用が出ないことを祈るわ」
「えっ。副作用ですか?」
「自分の能力値の限界ラインをちょっと超えるくらいなら問題ないわ。
でもそれを超えるとなにが起こるか予想できない」
「ところで魔王様、どんな魔物の魔石なんですか?」
「ん?魔物じゃないわ、魔人の魔石よ」
「えっ!」
どうやら私は超えてはならない一線を越えてしまったらしい。
魔人の国では同族の魔石を利用するのは
やっては行けない事と教育されている。
しかし私は今まで以上の魔力を手に入れたのは事実。
魔王様はどうやらタブー視していないみたいだし、
受け入れる覚悟を決めるべきだろう。
「消耗しきったら私に言ってね。また補充するから」
「はっ。ありがたき幸せ!」




