2-29 魔王の実験は禁忌
「おーい、エド。ひさしぶりだな!」
「ウィリー!なぜここに?」
ここはグレンヴァイス王国の海岸線に近い村だ。
ルド王国、サフラス王国それにグレンヴァイス王国の
連合軍が海岸線の魔人部隊と激しい戦闘を行っている。
「ああ、俺はギルドの要請を受けて魔物の討伐隊に加わったんだ。
立場は兵士じゃないぜ。冒険者だ。
そんなわけで前線には行かずに軍が
取りこぼした魔物を狩っているのさ。
エドは?」
「俺も同じだ。魔人軍のテイマーが連れてきている魔物担当だな」
ウィリーは腰にぶら下げてあった水筒を取り出し一口水を飲む。
何も言わずに水筒をエドに手渡した。
エドも何も言わずに飲む。
「冒険者も徴兵されて人数減ってると聞いたが?」
「ああ、おかげでソロ活動が増えたが
今回は俺がリーダーでパーティを組んできた。
紹介するよ。バリーとクリスだ」
二人がエドに挨拶する。
「エドさん、俺たちのことは覚えてないですよね」
「すまん、どこかで会った気はしてるんだが」
「エリックと同じ家の使用人をやってました」
「ああ、あの時の。そうか冒険者になったのか」
「シェリー・・・・姫様やエリックはどうしてる?」
「姫様はスフィーアの生き残りの情報を集めている。
いまはルドアニアにいるよ。
エリックは勇者として大活躍中だ。
今は殿下と一緒にウーファを奪還に行っている」
「そうか、じゃあアケミも元気なんだな?」
「元気であることを祈っている。
今魔人の国に拉致されているんだ」
「なんだそりゃ?なぜアケミが」
「あの剛力は元々魔王の能力だったそうだ。
魔王は剛力を取り戻したいがためにアケミをさらったらしい」
「そうだったのか。気の毒に・・・・」
しばらく世間話をしたあとエドは
軍と連絡を取るため行ってしまった。
バリーがウィリーに話しかける。
「リーダー、凄いパーティにいたんだね」
「凄いのは俺以外全員さ。
さて、俺たちも仕事にいくぞ」
三人は連れだって海岸線を目指した。
連合軍とは言え最前線で活躍したのはやはり
ルド王国魔王討伐軍の魔道銃部隊であった。
掩体の少ない海岸ではスコープ付きの魔道ライフルが活躍した。
中には1kmもの長距離狙撃に成功する凄腕も現れた。
連合軍はグレンヴァイスとツイーネの国境まで進軍した。
国内から魔人軍を駆逐することに成功した
グレンヴァイス国軍は歓喜した。
連合軍の総司令をまかされたモルガノ・ド・ブラン将軍が命令を伝えた。
「このままツイーネの海岸線を確保する。
北から逃げてきた魔人軍を迎え撃つ体勢を整えろ!
冒険者達は回収した魔石を担当部署に引き渡して欲しい!」
ウィリー達は魔石の入った麻袋を担当のいるテーブルに置いた。
「こんなに!お疲れ様でした、えーと・・・」
「『常に優しい猪』のウィリーだ」
「ぷっ、なぜそんな名を?」
「ああん?カッコいいだろが!
いいから札をよこせ!」
前線では魔石は現金での引き替えではない。
討伐証明の金属プレートを貰い帰国した際に
ギルドにて換金する仕組みだった。
今回の遠征は食事や寝場所は軍が用意してくれている。
あまり生活にカネはかからないので
このシステムでもやっていけるのだ。
「なあバリー、どう思う?」
「なにがだい?」
「お前の危機察知能力はたいしたもんだ。
危なくなったら逃げろという信念は俺も同じだからな。
これ以上ここにいていいものかどうか迷っている」
「ああ、確かにここはやばいと思う。
何というか上手く行きすぎているように感じるね」
バリーは自分で自分のことを臆病者と言っている。
だが実際には腕っ節が強いし見かけによらず器用なので
貴重な戦力だ。
しかしその評価におごることなく危険だと判断したらさっさと逃げる。
その危機察知の能力をウィリーは高く評価していた。
「明日の朝には適当な言い訳を考えてルド王国に戻ろう」
バリーもクリスもうなずいた。
「その前にエドには伝えておこうと思う。
ちょっと飲んでくるから先に寝ててくれ」
バリーとクリスは少し酒を飲んだ後自分の寝袋に入り寝てしまった。
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魔人の国に一報が入る。
「全滅?ヴァレリ中将の部隊が全滅だと!」
十二人会議でブランカが報告をした。
「はい。ルド王国の討伐軍は新兵器を多数投入してきました」
ブランカは魔道銃に魔道障壁の事を報告した。
魔王が静かに立ち上がった。
全員に緊張が走る。
「ふうん。人間共も案外やるわね。
勇者はそこにいたの?」
「確認は取れてません。
が、討伐軍の大部隊を一気に運んだのは勇者でしょう」
「わかったわ。
本格的な対決の前にちょっと小手調べに行ってくる。
留守は頼むわね」
十二人会議の1人の大臣が提案する。
「魔王様、では護衛の部隊を整えます」
「いらないわ。足手まといだもの。
でもそうね、ブランカ。あなたが案内して頂戴。
今日から私の副官をやってもらうわ」
「魔王様、恐れながら私目はタダの中級尉官に御座います。
魔王様の副官であればもっと階級が上の者がよろしいかと」
魔王はにやにやしながらブランカを見つめた。
「ちゃっかりしてるわね。
いいわ、今日からあなたは下級佐官に昇進よ。
二階級特進で我慢してね。
軍担当大臣、辞令を出して。
明日出発するわ。ブランカ副官よろしくね」
「はっ!御意に!」
せめて一日くらいのんびりしたいけど
昇進させて貰ったから我慢しようと思うブランカであった。
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魔人の国では嫌な噂が飛び交っている。
魔王城では金髪の魔人が実験台にされているらしい。
居酒屋では数人の男が小声で噂話をしていた。
「罪人を使ってなんかやってるらしいな。
別に金髪である必要はないよな?」
「へっ、黒髪が魔人の証じゃねぇか。
金髪なんざ全員魔王様の実験台になりゃいいのさ」
「そうなると町中が随分すっきりするよな」
「違ぇねぇ」
魔王城の地下にある一室では金髪の魔人が1人
サルグツワをはめられ拘束されていた。
「この者の罪状は?」
「火付け強盗殺人です」
「あら、じゃあ死刑確定ね。裁定は降りたのかしら」
「はい、死刑で確定してます、魔王様」
「じゃあ実験に使わせてもらうわね」
魔王は罪人の胸に手を当て魔力を込めた。
「はっ!」
息と同時に魔力を絞り罪人の胸部に集中させる。
すると罪人の胸に穴が開き魔石が露出した。
その魔石を魔王が掴み取る。
再び胸部に手を当て傷口を一瞬でふさいだ。
罪人はあまりの痛みに耐えきれずに失神していた。
「どう?まだ生きてるかしら?」
「はい、息はしてます。後遺症があるかどうかは
経緯を観察しましょう」
「そうして頂戴。実験は成功ね」
魔人が体内に持つ魔石は魔物が持つそれとは
比べものにならないほど凝縮されている純度の高い物だ。
魔王はこれを集めているらしい。
なんのためかは本人しか知らない。




