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2-25  魔王、アケミから能力を取り戻す


「では魔王様、ツイーネのヴァレリ中将に命令を伝えます」

「そうして頂戴」


 ここは魔王城の会議室。

巨大な円卓には12人の魔人と魔王が席に着いていた。

魔王が肉体を得るまでの間、魔王が座るべき立派な椅子は空席のままだった。

だが今は若々しい黒髪の少女の姿をした魔王が強大なオーラを放ちながら座っている。


 政治に関してはほぼすべて十二人会議にまかせてある。

自分が留守中に魔人の国を維持発展させてきたシステムだ。

ないがしろには出来ないどころか彼等無しでは国が廻らない。

基本的に魔王は彼等が決めた事に対し承認をするだけである。


 アケミから剛力能力を戻して貰う作業は難航したが

最近になってようやく成功した。

これでいつでも勇者と対峙できる。


 すぐにでも勇者と対決をしたいところだが、

1000年前の敗北を思い出すと

慎重にならざるを得ないのであった。


 まずはヴァレリ中将にルド王国への侵攻を命令する。

食料だの人員だのと問題が多かったみたいだが

正直あまり興味はなかった。

だが、魔人と言えど食わねば餓死する事実を

無視するわけにも行かない。


「肉体とは時に不便なものね」

「魔王様、何か言いましたか?」

十二人会議の議長が怪訝な顔で尋ねる。


「なんでもないわ。会議は以上ね?」

「はい、それと確認なのですが」

「なに?」

「『なまくりーむ』増産のためメスの牛を増やせとの事ですが

それはいったい、いかような物なので?」


「む、あなたは『なまくりーむ』を食した事がないのね?

帰りに厨房に寄って行きなさい。

あれはイイ物よ」

「さようで。

それと砂糖の方は天然のサトウキビを栽培できるように

研究依頼をしておきました」

「うん、順調ね。よろしく頼むわ」


 アケミはニナ・レポートの解析に尽力しこの魔人の国に

新しい食文化を広める役割を担っている。

食事だけでなく衣服の改革にもいそしみ魔人の着る物は華やかになってきた。

 

 私もアケミに言われるがままの格好をしている。

黒を基調としたフリルのたくさんついたブラウスや

フレアタイプの短いスカート。

髪型も大切だそうで今はポニーテールにしている。

自分ではよく解らないが皆が誉めるので似合っているのだろう。


「そろそろ私も北の大陸に行くわ。次期は未定だけどね」

十二人会議は了承した。

会議が終了したので会議室を出る。


 小腹が空いたのでなにかおやつでも持ってきて貰おうかと考えたが

自分で厨房に行くことにした。


「これはこれは魔王様、アケミ姫はあちらです」

見るとアケミが厨房の隅でなにかを頬張っている。

「う・・ぐも・・もごもご」

「姫様、お水を」

コックの1人が水を差し出す。

「ごくごく、ぷはー。あ、ごめんね魔王ちゃん。

今スコーン作ってたんだ!食べる?」

「そうね。一つ貰おうかしら」


 ハチミツをかけたスコーンとやらは美味しかった。

「パンとは違うのね」

「そうね、元は小麦粉だけどね」

もう一つ貰おうと手を伸ばすとアケミに怒られた。

「駄目よ、みんなの分とっておかないと。

それにもうすぐ夕飯だから。ね!」

「それもそうね」


 1000年前なら魔王が厨房で御菓子を食べながら

誰かと和やかに会話するなどあり得なかった。

いや、この魔人の国でも最初のうちはそうだった。

私は地上のすべてから畏怖される存在。


 だがアケミが来てからは私やこの国は変化してきた。

生活様式が明るくなり国内の生産性も

向上してきたとの報告も上がっている。

結果として私自身の評価も高くなってきているのだ。

ただ恐怖でひれ伏せさせるだけでなく

こういうやり方もあるのかと感心している。


 だが勇者を殺すという私の目的は変わっていない。

人間と魔人の争い事などついでの話なのだ。


 夕食後にアケミと話をした。

「どう?今日のお茶は」

「うん、いいわね」

アケミが淹れてくれた今日のお茶は薄い褐色をしていた。

「発酵させるのに試行錯誤してようやく紅茶っぽい物ができたわ」

少し渋みがある紅茶とやらはさっぱりとしていて美味しかった。

 

「ねえ、魔王ちゃん。結局私から剛力を取り戻した方法ってどんなだったの?

私寝てたからわからないのよね」

「簡単に言うと一回死んで貰った」

「えっ!まじで!」

「仮死状態にして魂と肉体を剥離しやすい状態にしたの。

もちろん私も能力を受け入れやすいように同じく仮死状態になったわ」

「なるほど、そうやって能力だけを受け渡しやすいようにしたのね」

「そうね。上手くいって良かったわ」

「失敗したらどうなってたの?」

「最悪あなたが死ぬだけね」

「ひどっ!まあ成功したからいいけど。

で、私ってこれからどうすればいいのかな。

できればルド王国に帰りたいんだけど」

「なぜ?あなたは魔人の国のお姫様としての地位を獲得してるでしょ」


 アケミが急にもじもじしだした。

「う・・・うん。エリックに会いたい」

「ほう、私の前で勇者の名前を出すとはね」

「ごめんね。ここでの待遇には不満はないわ。

でも強引に拉致されたのは事実よ。

やっぱり帰りたい。私が日本に帰れる手段も探してくれてるし」


 アケミを拉致したのはなぜかアケミに行ってしまった

剛力能力を取り戻すためだ。

そしてそれは達成された。


 用済みになれば殺せばいいだろうと気楽に考えていたのだが、

今殺せば国民から反感を買うのは必至だ。

それほどまでにアケミは『魔人の国のお姫様』

の地位を確固たるものにしている。


「能力は取り戻したし私の用事は済んだわね。

でも今あなたが出て行ったら国民が悲しむわ。

せっかく上がった生産性が落ち込むことも考えられる。

この件はちょっと保留にさせて」


 アケミは残念そうにわかった、と答え

オヤスミを言い部屋を出て行った。


 私一人で気ままに戦えたらどんなに楽だろう。

魔王と勇者が全力で戦うだけの単純なストーリー。

だが現実はそんなに甘くない。


 私に付き従う魔人達もそれぞれの生活がある。

生活を支える衣食住の充実と維持発展も重要だ。

人が増えれば社会ができる。


 社会をスムーズに運営するための法整備や役割分担、等々、

やらねばならぬ日々の仕事は人口が増えるに伴いどんどん増えていく。

今のところ十二人会議やアケミのおかげで楽をさせて貰っているが

逆に言えば魔王である私が居なくてもこの国はやっていけるのだ。


「1000年は長かったのね」


 もはや1人の絶対君主が国を治める時代ではないのかも知れない。

人も魔人も少しずつではあるが成熟してきていると認めねばならぬのだろう。


 十二人会議では度々意見が割れる議題がある。

それは、人間を滅ぼすかあるいは共存していくか。

魔人の国の人口がこれだけ増えたのは

さらってきた人間の女に魔石持ちの子を産ませてきたからだ。

そういった意味では人間も魔人の国の発展に貢献している。

人間との共存派はそれなりの数を揃える派閥となっている。


 グレイン少将にはパールバディアで共存の実験を行わせ

ヴァレリ中将には人類殲滅派の旗柱として

ガウンムアやツイーネで暴れて貰っている。


 どちらが正しいかなどは解らない。

魔人達が良かれと思い提案してきてることは

出来うる限り聞いておいてやろうと思っている。


「めんどくさいわね。でも私は私の目的を達成できればそれでいいし。

魔人も人間もどんな方向に行こうとも見守るだけね」


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