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1-7勇者、エドと再開する

 宿場町に着きここで一泊。

食事無しの素泊まりで銅貨3枚。

すきま風の吹き込む掘っ立て小屋に

毛が生えたようなボロ屋に案内される。


 中は薄暗く、二段ベッドが左右に3つづつある。

一番奥の下の段が開いていたのでそこに陣取る。


バリーから貰った干し肉をかじり、木製の水筒から水を飲む。

今日はさっさと寝よう。


 次の日朝早く宿を出る。

宿場のあたりから合流する道が増え街道も少しずつ賑やかになっていく。


次の宿場は宿屋も多く居酒屋もあり前の宿場町よりも大きかった。

集落のハズレにある安そうな宿を見つけ値段交渉。

素泊まりで銅貨5枚。


 都市に近くなると値段も上がるのだろう。

メシは隣の居酒屋でここに宿泊してる事を伝えれば

少し値引きしてくれるそうだ。

銅貨1枚じゃ何も食わせて貰えないかな。


 女将さんに聞いてみると

イモの入ったスープぐらいしか出せないと言われた。


しかし薪割りを手伝ってくれたら

腹一杯食わせてやるよとも言われた。

どうやら昨日からご主人が腰痛で寝込んでるそうだ。


 喜んで提案を受ける。

早速裏手に廻り薪割り開始。

いつもやってたからな。お手の物だ。


 しばらく精を出してると女将さんが呼びに来た。

テーブルに付くと料理が出される。

黒パンの大切りスライスが3つと

肉と豆の入った暖かいスープが出された。


ありがたく頂戴しよう。いただきます。


 食いながらあることを思いつく。

鈴木が言っていた癒し系の魔法の事だ。


なるべく秘密にしておこうと思っていたので村人には試せなかったし、

自分もたいした怪我などしなかったので検証できなかったのだ。

親父さんにマッサージするという名目で試してみよう。


「ごちそうさま、女将さんおいしかったよ」


「そうかい、そりゃ良かった。

たくさん薪を割ってくれたからね

こっちこそありがとうね」


「いえいえ。ところで親父さん腰痛なんだって?

おれのオヤジも腰痛持ちでね。よくマッサージしてたんだ。

ちょいと揉んであげるよ」


「なんだか悪いねぇ。お願いしようかしらねぇ」


 オヤジさんのベッドまで連れていってもらう。

「あんた、この子マッサージが得意なんだってさ。ちょいと揉んでもらいな」


「おっ、そうかい?いっちょ頼むか」


 オヤジさん意外と元気な口調です。

「腰以外は元気だぜぇ。

そりゃもうビンビンなんだがおかーちゃんが・・・いてて」

ぐっ、と右腕を立てるポーズを取ったところで女将さんに殴られた。


無視しよう。


「それじゃあ、うつぶせになってください」


両手を腰に当て軽く押してみる。

それと同時に癒し系魔法を発動。

やったこと無いけどたぶん体の中央からわき上がる何かを

手のひらからじんわり出すイメージでやってみよう。


「お、なんだか腰のあたりが暖かくなってきたな」

効いてるのかな?

あまり痛くならない程度に力を加えてもみほぐしつつ魔力を注ぐ。


「どうですか?」


「おいおい、まじかよ。嘘みてぇに痛みが引いたぜ!」

ベッドからおきあがったオヤジさんはスクワットのまねごとを始める。

効いたみたいだな。

今の感覚を忘れないようにしよう。


 翌朝。朝食代は無料にしてくれた上にパンに肉をはさんだサンドイッチを渡された。

「いいんですか?遠慮無く頂きますけど」


「ホントは腰痛治療のお金払わなきゃならないのに

こんなもんでわるいねぇ」


「いやいや、ありがたいです。

ところでザクレムまであとどれくらいですかね?」


「そうだねえ、若者の足なら夕方前には着くと思うよ。

身分証はあるのかい?」


村で貰った粗末な木の札がある。


「そうそう、それと入場料に銀貨1枚必要だよ」


むむ、カネ取るのか。

銀貨1枚はきついが持っている。


「はい、あります。お弁当貰ったおかげで

無駄な出費が抑えられました」


お礼を言い宿を後にする。

オヤジさんと女将さんが見送ってくれた。


さて、地方都市ザクレムまであと一息だ。


 道すがら食べたサンドイッチは少しきつめの塩味がちょうど良く、

とてもおいしくいただきました。謎の肉だったけど。


昼を過ぎてから小一時間ほど歩くと高い壁が見えてきた。

街道は門に続いている。

このまままっすぐ行けばいいんだな。


 入場者の列に並び順番を待つ。

槍を構えた衛兵が門前に無表情で立っている。


門の前にある小屋の受付の窓口に身分証と銀貨1枚を出す。

特に怪しまれもせずに門の前に並べと言われた。


 受付を終えた数人が門の前で待っていると

衛兵の一人が大声でオリエンテーションを始めた。

要は問題起こしたら即退去させられる、

あるいは殺されても文句言うな、と言うことらしい。


 これでやっと入れるのか。

門をくぐるとそこは今まで見たこともないような

大都市が広がっていた。


 見ただけでわかる。

いかに自分が時代遅れの村に住んでいたかを。


平らに敷き詰められた石畳。

石壁でできた頑丈そうな綺麗な家屋。


家々はほぼすべてが二階建てで

中には4階建てほどのビルのような建物まである。

見ると道路脇には側溝があり下水につながっているようだ。


 数十メートルおきに水場があり新鮮な水が常時あふれている。

あふれた水は側溝に流され

道路の清潔さを保つのも兼ねているようだ。


 おそらく各家庭の台所にも上水道が配管されているのだろう。

道路の中央には金属製のレールも設置されている。


道路に溝を掘り設置されたレールは道路面と同じ高さだ。

市内を循環する軌道馬車のレールらしい。

これは市が運営しており市民カードを見せると

誰でも無料で乗れるらしい。


 鈴木には地球でいうと中世くらいの文明度と聞いていたが、

産業革命直前くらいの文明度なんじゃないのかな?


 賑やかな通りを歩き人に道を尋ねながら

お目当ての場所にたどり着く。


『冒険者ギルド』と看板が掲げられた建物をみつけ、

入り口をくぐる。


ここで冒険者登録をしてレッドボアの魔石を売るのだ。

なんせ入場料を払ってしまった俺は今やほぼ文無し。

銅貨2枚に鉄貨5枚しかない。


 カウンターのお姉さんに聞いてみよう。

「すいません、冒険者登録をしたいのですができますか?」


「はい、すぐできますよ。身分証があったら提示してください。

それとこの用紙に必要事項を記入してくださいね」


 手渡された用紙に名前、年齢、出身地等を記入してお姉さんに渡す。

「はい、大丈夫ですね。ちょっと待っててくださいね」

記入事項を確認しカウンターの奥の部屋に入っていった。


 数分後、チェーンの付いた金属製の小さなプレートを手に

お姉さんが帰ってきた。


「このプレートが冒険者の証明になります。

首からかけておけばなくしませんよ」


 その後プレートはなくすと再発行に金貨一枚必要な事や

ギルドの規約などを簡単に説明してくれた。


ギルド規約の詳細は入り口付近にある小冊子に書いてあるそうだ。

閲覧は自由だが持ち出しは厳禁。

ギルドのロビーで読んで読み終わったら返却すればいいらしい。


「ところで魔石を買い取ってくれると聞いたのですが」


「ハイ、買い取りますよ。

って今ですか?登録したばっかりですよね

すでに魔物を狩っていたってことですか?」


 怪訝そうな顔をされてしまった。

エドが言ってたように冒険者でなければ魔石は買い取って貰えない。


ならば登録してから売れば良いだろうと

安直に考えていたのだが、

通用しないのかもしれないな。

ここは正直に話そう。


 俺は住んでた村で魔物討伐隊に加わり、

まぐれでレッドボアを倒した事を話す。


ついでにエドが書いてくれた証明書を見せた。

「あ、エドさんが一筆書いてくれてたんですね。

サインも入ってるしこれなら大丈夫です」


 ん?エドって有名なの?

「え。知らないんですか?

S級間近のA級冒険者のエドさんと言えば有名人ですよ」

そうなんだ。知らなかった。

ちょっと尊敬。


 無事魔石を買い取って貰えた。

金貨10枚は大金だ。


しかし、遊んで暮らせる程の金額ではない。

拠点も決めなきゃならないし、

生活必需品も買いそろえなければ。


しばらくは依頼をこなし生活費を稼ぎつつ

魔法と剣の腕を磨くことにしよう。

カウンターの右の壁には

依頼がかかれた紙が張り出されている。


 自分は登録したばかりなのでF級冒険者だ。

F級向けの依頼を受けるのが筋だが、

階級を飛び超えて依頼を受けても良いらしい。


ただし、死んでも自己責任。

そりゃそうか。


 スライムやグリーンキャタピラ(芋虫みたいな魔物の正式名称を今知った!)

の討伐はE級向けだが、これなら大丈夫そうだな。

 回収した魔石が討伐証明になりそのまま買い取ってくれるそうだ。

相場が変動するらしいが、スライム一匹で銅貨5枚前後らしい。


 一通り依頼を眺めていると

一番隅っこのやや黄ばんだ大きな紙にそれは書かれていた。


『求む勇者、伝説の宝剣をつかみ取れる者よ王城へ来られたし』


期限はあと1年ほどではないか。

しかしこれで目標が決まった。


魔物を倒しているうちにいつか魔王にたどり着く確率に賭けるよりも

はるかにやりがいがある。

そうと決まったらまずやるべき事は・・・


 グゥ


うん。腹へった。なんか食おう。


~~~~~~


 ギルドプレートを見せると一割引、

というふれこみの食堂が冒険者ギルドの

二軒先にあったのでそこに入った。


 メニューの中からA定食を注文。

魔物ではない普通の猪の肉、丸っこいパンが二つ。

やや大きめの器に入れられた肉野菜スープだ。


 パンが柔らかくておいしい!

見た感じ雑穀混じりのパンなのだが固くないのに驚きだよ。


猪のステーキも軽く塩を振ってあるだけなのだがうまかった。

僕はもう大満足です。


 食べ終える頃にどかどかと集団が店に入って来た。

中央のテーブルに陣取り大声で人数分のエールを注文している。

と、見たことある顔だな。うん、間違いないエドだ。


「こんちわっ!エドさんひさしぶり!」


「ん?誰だおまえ?」


「俺、エリックです!レッドボアの!」


「あー、思い出した。あのときのラッキーボーイか!

一回りでかくなったんでわかんなかったよ。

みんな、いつか話したろ?レッドボア倒しちゃった少年の話。

こいつだよ」


 へー、お前か、なかなかやるじゃん!

と話しかけてくる面子は知らない顔ばかり。


「ああ、前のパーティは解散した。

二人徴兵されて兵士になっちまった。

あと一人は結婚して故郷で親の跡ついで麦作ってるぜ。

こいつらは新パーティ『常に優しい狼』の面々だ。

なに笑ってんだよ」


「いや、かっこいいなあと思って」


「だろう?ところでエリック、

お前さんここに居るって事は村を出てきたんだよな?

これからどうするつもりだ?あてはあるのか?」


 俺は村を出てここに到着した直後に

冒険者登録をしたことを告げる。


「よし、これも何かの縁だ。

俺たちのパーティに入れよ。

なーにいきなりFランクに戦闘やらせたりはしねぇよ。

まずは小間使いからだな。どうよ?」


 うん。すごく良い提案だ。

考えるまでもないがこちらからも条件を出してみよう。


「ありがたい話だしこちらから是非!

と言いたい所なんだけどこっちからも条件出して良いかな?」


「おう、なんだ。言ってみろ」


「剣を教えて欲しい」


「なんだ、そんな事。

言われないまでも教えるつもりだったぞ。

単なる小間使いで一生を終えたいなら話は別だがな。

よっしゃ、エール追加だ!」


 飲みながらエドが面子を紹介してくれた。

まずはエド。S級間近のA級冒険者だ。


 右に居る大柄でがっちりした体格のウィリーは元兵士だ。

剣も使うが素手でも戦闘を行う。


 左に座っている細マッチョの優男が剣士のギルバート。

彼もまた王国の騎士団に所属していた元王国の剣士。

二人ともB級冒険者だ。


 そしてギルバートの隣に座っている女性。

この世界では珍しい黒髪だ。


目鼻立ちの整った美人だが化粧っけがなくすっぴんだ。

シェリーと名乗るこの女性は魔法使いだった。


生活魔法である水、火、土を扱えて簡単な治癒も出来るらしい。

冒険者ランクはC級だが複数の魔法を扱える魔法使いは貴重らしく、

どのパーティでも欲しがるらしい。


軽く首を動かし挨拶してくれた。

無口らしい。


 そのあと彼等が借りているという一軒家に連れて行かれた。

開いてる部屋を与えられる。


 案内してくれたウィリーが言う

「家賃分は働いて貰うぞ。今夜はもう寝な。

明日の朝は朝食の支度やなんかがある。

慣れないうちは誰かが教えるから心配すんな。

明日は俺の担当だからよろしくな!」


ウィリーが出て行き俺はベッドに仰向けに寝転がると

手足がじんわりと温かくなり眠気が襲ってきた。


 今日はさんざん歩いてザクレムに到着して、

それから・・・・ムニャムニャ。


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