2-21 反攻作戦 その2 教授は奇才
教授が喜々として説明を始める。
「この丸い黒点は魔物が増えだしたポイントだ。
それらを繋ぐとこの線となる」
「はい、なにか法則があるように見えますが」
「君は鋭いね。まあ法則というより関連性だな」
「何と何のですか?」
「コッチの地図を見てくれ」
その地図には似たような太い点線が書かれていた。
「この点線は断層のありかを記載し線で繋いだ物だ」
「魔物が増えたポイントは断層がある、ですかね」
「その通り。ではなぜか。これには魔素が関係してくると睨んでいる。
魔素はどこから出てくるのか、あるいは出ないのか?
サフラスやグレンヴァイスには魔素が少ないと聞いたことはあるかね?」
「はい、聞いてます」
「ではこの地図を見てくれ。断層は?」
「ほとんどありませんね」
「そうだ。断層の少ない安定した地盤は魔素が少ない。
と言うことは魔素は断層を伝い地の底から這い昇ってくるのでは?
と考えたのだ。
そして魔物が増えてきたのは断層の活動が活発になってきているからだと思う」
「なぜ今になって活発化してるんでしょうか?」
「理由はわからん。
が、私の予想が正しければとんでもないことが起こる前兆かもしれんのだ」
「なにが起こるんですか?」
「大地は割れる。大陸は分割されていく」
ヴェーゲナーの大陸移動説。
これはすでに分割された大陸の海岸線が繋がるのでは?
という考えから来ている。
地球の大陸は元々一つの巨大なパンゲア大陸であった説だ。
教授が説明を続ける。
「ローレルシア大陸とガウンドワナ大陸は
かつて一つの大陸だったと考えられる」
「しかし海岸線が繋がっているように見えない部分も多いですよね」
「そこに気がついたか。皿を割るように綺麗に別れたワケではない。
長い時間をかけて隆起と沈降がおこったのだ。
それに分割されながらねじれていったようにも考えられる。
ツイーネの南端とガウンムアの中央部にある湾は繋がっていたと思うよ。
この辺りの崖に露呈している岩石層は両国とも同じ物だった」
「教授、この大陸移動説?は発表しないんですか?」
「すでに発表した。が、学会では受け入れて貰えなかったな。
そんなわけで教授の肩書きを持っているのに学校では研究室を持たせて貰えず
アルバイト講師として教鞭を取るだけだ。
国の『地図屋』に拾って貰ったおかげでここでこうやって研究ができるのさ」
いろいろあったみたいだな。
生まれる時代が違っていればもっと評価されていたかもしれない。
「教授、興味深いお話ありがとうございました。
また色々と聞かせてください。
ではサンプル採取に行って参ります」
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風が強い。
荒涼とした山々は身じろぎもせず強風を受け止め微動だにしない。
山塊という表現がしっくり来るその山の中腹に立っている俺は・・・
「ぶえぇっくし!!!さみーよ!もう少し厚着してくりゃ良かった」
草木の生えてない岩山だ。
サンプルはいたる所に転がっている。
教授から借りてきたハンマーで手頃な岩をたたき割ってみた。
「おお、これだ。確かにキラキラ光ってる物が入ってるな」
800年前の調査は正しかった。
さらに幾つかの指定されたポイントを廻りサンプルを採取。
「今回はこれくらいでいいかな。
ところで喉が渇いたな。麓まで降りて川でも探すか」
空をつなぎ標高を下げていく。
植生が見られる高度まで下がりさらに下ると沢があった。
「冷たい!だがうまい!」
一息ついて辺りを見回す。巨大な転石がごろごろしている渓流地帯だ。
小さな滝がありその下には淵があった。
淵の川縁には砂が貯まり小さな砂浜みたいになっている。
「透き通る綺麗な水。キラキラ光る砂浜。
ここはいい所だなぁ」
ん?キラキラ光るなんだって?
砂をひとすくい手に取ってみる。
「よくわからないけどこれミスリルの粒じゃないのかな」
さらに辺りを探索する。
数百mメートルほど下った先にさっきより大きめの砂貯まりを発見。
キラキラ度が高い。
これもサンプルとして持ち帰るとしよう。
研究小屋に帰り教授にサンプルを渡す。
「ふむ、報告書通りだな。含有量も変わらないだろうね。
だが熱変質を受けてないレアな岩盤のようだな」
「教授、この砂はどうでしょうか?」
取ってきた砂をひとつかみ実験用の皿の上に盛った。
「これは川の砂だね。どこで採取した?」
俺は地図を指し示した。
教授は蓋付きののビーカーのようなガラス瓶に砂と水をを入れ
シェイクしだした。
しばらく置いておくと幾つかの層に別れた。
「一番比重の高い物が下に来る。
これはミスリルだね。よく見つけたな」
「いや水飲みに行ったついでに偶然見つけたので採取してきたんです」
教授はなにか考え込んでいる。
「ブツブツ・・・・その手もあるか」
「?」
「砂金を採取する要領でミスリルを集められるかもしれんな。
勇者君、お手柄かもしれんぞ。
まずは手持ちの砂を分離してみてドワーフの所に持って行って見よう」
「でもそんなに大量の砂はありませんでしたよ」
「もっと下流の清流域まで探せば砂貯まりは多く見つかるはず。
川底までさらえばそれなりの量が期待できる。
鉱脈を見つける調査も継続して貰いたいが、
これはこれでやってみる価値はあるだろうね」
とりあえず川砂を大量に採取して何とか1kg程度の砂ミスリルを確保できたので
ドワーフの所に持って行った。
「ほほう、砂ミスリルネ?ちょと溶かしてみるね」
工房の溶鉱炉で溶かして貰った。
「純度高いネ。それに砂状だから熔けるのも速い。
もっと持ってくるアルよ」
「今採取方法も含めて検討中なんだ。
大量に取れたらまた持ってくるよ」
川砂さらいの予算を殿下にお願いしてみよう。
それと同時に鉱脈探しは難航しそうなので
出来るときにコツコツやるしかないな。
サフラスとツイーネの国境付近の鉱脈も運ぶルートを確保しなくちゃ。
やることがどんどん増えていく。
そんな時殿下が反攻作戦の概要をまとめてきたんだ。




