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2-19 終わりなき攻防戦 その4 エリック編 セシリアと・・・


 帰りは速かった。

というか急いで帰った。


 空中で空を繋ぐのもだんだん慣れてきたが、やはり魔力を大量に消費する。

特にサフラスからグレンヴァイスは魔素が少ないため補給が困難だ。

途中一度休憩を入れ殿下達がいるグレンヴァイス臨時政府がある温泉地に戻った。

急いだつもりだが、かなり夜遅くなってしまった。


「ただいまー」

ゲストハウスに入るがロビーには誰もいなかった。

夕食はとっくに終わっているらしい。


 執事さんが出てきた。

「お帰りなさいませ勇者様。

お夕飯はお済みですか?」

「いや、まだなんです。なんかありますかね?」

「もちろんです。食堂にてお待ちになってください」

「遅くにすいませんね」


 えーちゃんが話しかけてきた。

『もう夜も更けてるね。報告は明日でいいんじゃない?』

『うん。でもアケミが生きていることは早く伝えたいんだけどな』

『あせるなよ。エリックも疲れてるし明日にしな』

『だな。メシ食ったら温泉入って寝るわ』


 肉とシチューとパンという簡単な夕食だったが温かい食べ物は落ち着く。

ごちそうさまを言い食堂を出る。


 部屋に帰るとそのまま寝てしまうだろうと思い

露天風呂に直行した。


 脱衣所で全裸になりタオルを一枚取って肩にかける。

こんな時間だし誰もいないだろ。

「おー、月明かりで結構見えるな。新月じゃなくて良かった」

独り言をつぶやくと湯煙の向こうから声がした。


「えっ、エリックなの?」

この声はセシリアだな。


「あちゃー、先客が居たか」

「別にいいわよ。私ひとりだし。

冷えるから入りなさいな」

「じゃ遠慮なく」

軽く湯を掛け体をタオルでゴシゴシしてから湯に浸かる。


「ねえ、もう南の大陸まで往復してきたの?」

「ああ、強行軍だったので疲れたよ」

「さすがだわね」

「それほどでも。って実はさっさと皆に報告したいことがあってさ。

アケミが生きてたんだ。今魔人の国に捕らわれている」


「そうなの!?どうやってわかったの?」

「アケミがドワーフに手紙を託しておいたみたいだな」

「手紙」

「そう手紙・・・あっ!」

「な、なに?」

「その手紙、日本語で書かれてあったんだ!

どうしよう、そろそろ皆に転生者である事を伝えるか?」


 セシリアがバシャっと湯を飛び散らせ

近づいて俺の腕に抱きついてきた。

「ちょっと、それまずいんじゃない?」


 う、腕になんか柔らかい物が当たってる。

湯浴み着は着てないみたいだな。

「ま、まずくはないだろ。なんでだ?」

「いや、だって・・・・」


 肩にそっと手を置きやんわりと引きはがした。

「秘密にしておきたいんだっけ。だったら黙ってるけど」


 セシリアは返事をせず黙ったまま俺に抱きついてきた。

「おわっ!な、なんだ突然!」

「・・・・・・エリック・・・・ごめんね」

「なに謝ってんだよ。なんか悪いことしたのか?」


 また返事をせずにさらに力を込めて抱きついている。

さらになんかイイ香りまでしてくる。

これは・・・・やばい。

主に男の子的な理由で。


 どうしていいかわからない俺は腰を引いたまま軽く彼女をハグした。

「なあ、のぼせるからそろそろ上がろう」

セシリアが力を緩め体を離し俺もふっと体の力を抜いた。

隙が出来たその瞬間に彼女は俺の唇に自分の唇を重ねてきた。


 軽くパニくる。 


 今は戦争中でアケミがさらわれたけど生きていて

殿下はたぶんセシリアに惚れていて

シェリー達はスフィーアを再建したくて・・・ああ。

なんか現実がどんどん遠くなっていく感覚。


 もう・・・・いいや。

俺達は夢中でお互いの唇の感触を確かめ合った。


 露天風呂を出て体を拭き着替える。

セシリアは黙って俺の腕にしがみついてきた。

そのまま二人で俺の部屋に入った。


 魔道ライトの淡い光が部屋を覆う。

二人とも無言で服を脱ぎベッドに腰掛けた。

そして。


♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡


 朝だ。起きなきゃ。

セシリアはもう居なかった。

 

 食堂に行ってみる。

みんな集まっていた。

「おはようございます」


 殿下が驚いている。

「エリック、いつ帰ってきてたんだ?」

「昨夜遅くにです。いろいろ報告することがあるので朝食後に話をしましょう」

セシリアが黙って熱いお茶を入れてくれた。

「お、ありがと」

 

 彼女はまるで昨夜何事もなかったかのように接してきている。

尊敬するわ。

俺は殿下にばれやしないかと気にしてるのに。

はぁ、小さいな、俺。


~~~~~~~~~


 殿下が腕組みしながら難しい顔をしている。

「今の話が本当ならアケミ殿は魔人の国で無事、

しかし脱出はできないということなんだな」


 俺は結局手紙の事は黙っていた。

ドワーフから聞いた話と言うことにしておいたのだ。

いろいろ突っ込まれたらボロが出そうだが。


「殿下、アケミは俺の従者です。この件は俺が解決すべき事です。

なにか思いついたらその時は助力を要請しますよ」

「うん、その方がいいか。わかった。

それでミスリル鋼は?」

「はい、発注書に書いてあった以上の量を入手できました。

カネは俺の方で立て替えてあります」

「そうか、悪かったな。帰ったらすぐに返そう。

私はまだ会議が長引くと思う。滅多に来られないからな。

エリック達は先に帰ってくれるか?」

「了解しました」


 老師が発言した。

「帰りは空間トンネルを繋ぐから速いぞ」

「何ですかそれ?」

「文字通りじゃが」


 一度目視した場所は例え見えていなくとも空を繋ぐ事が出来る。

まあ老師レベルでの話だが。

空間は術者が使用すると同時に閉まる仕組みだが、

魔石を燃料に使えば一定時間開きっぱなしにする事が出来るそうだ。

開いている間は誰でも通れるらしい。

「敵も通れるようになるから戦場ではあまり使いたくないがの。

こんな時はいいじゃろ」


 これは自分も学んでおかないと。

「さすが老師様、後で教えてください!」


 エド、シェリー、そして殿下以外の俺たちは

老師が繋いだ空間トンネルでルドアニアまで一瞬で帰ることが出来た。


~~~セシリア視点~~~


 アケミさんが生きていた。

エリックは嬉しそうに話をしている。

それはそうだ。丸一年音信不通だったわけだし。


 お互いが転生者である事を確認した日以来、

私達は接触する機会が増えた。

会うのは主に図書館だったが。


 前世では自分のせいで別れてしまっていたために

後ろめたい気持ちがずっとあった。

が、ビアンカがエリックの追っかけを始めたり

エリックがアケミさんの話を嬉しそうにするのを見る度に

複雑な思いが胸にしこりのように凝り固まるようになってきたのだ。


 自分ではその気持ちの悪い状態が嫌で

ずっと脇に置いておく事にしていたのだがもう限界だった。


 今目の前にエリックがいる。

ずっとカイトに謝りたかったけどきっかけすら作れず

もやもやしたままの私。

ビアンカやアケミさんには悪いけど私は手を触れられる位置にいる。


 いろんな思いが絡み合って感極まってしまった。


 カイト・・・・いやエリックは優しかった。

何も言わず、いや言えないまま唇を重ねてしまったけど

受け入れてくれた、と思う。

もうここまで来たら止まれない。

エリックの部屋で抱き合っている間は夢中でなにも考えられなかった。


 エリックが寝てしまったのを確認して自分の部屋に戻った。

ベッドに腰掛けて頭をかきむしる。

「うわぁぁぁぁ!なにやってんだ私ぃぃぃぃ!」


 と、とにかく明日の朝どんな顔して会えばいいのか?

さんざん考えたあげくの果てに

「そうだ!何事もなかったように接しよう!」

という事にした。


 私の悪い癖。

問題の先送り。


 でも、本当にどうしていいかわからなかったんだもん。



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