2-17 終わりなき攻防戦 その2 エリック編 こ・ん・よ・く
ドワーフがミスリル製魔石入りワイヤーを作ってくれた。
被覆は軽く布を巻いただけだ。
実験は成功し試作品だがハンドガンタイプの障壁発生装置と石弾を発射する
文字通りの『銃』が出来上がった。
後はここから発想を広げる。
ハンドガンはグリップの弾倉を入れる部分に魔石を仕込んだカートリッジを
着脱できるように頼んでみた。
見た目はオートマチックのハンドガンにどんどん近づいてくる。
俺は調子にのってワルサーP38っぽいデザインを注文してみた。
「もみあげ伸ばそうかな」
携帯しやすいサイズで取り回しも楽になるが
弾数が限られてくる欠点もある。
ワイヤー式の物と両方作ることにした。
それに強度を確保するために大量のミスリルが必要だそうだ。
同時にライフル状の物も図を書いて説明する。
出来上がった物は遠距離射撃が可能な魔道ライフルだ。
うろ覚えの形を図に書いて使いやすいように皆でデザインを決めていった。
「M1カービンのパクリっぽくなっちゃった。ま、いいか」
さらにマリアンやドワーフと共に研究を続けた。
各パーツを作る鋳型を作ってしまえば大量生産が可能となる提案をしてみる。
えーちゃんがあきれていた
『これまんま近代兵器だよな』
『うん、ちょっと調子に乗りすぎたとも思うけど
命かかってるからね』
『ま、お前を見てると飽きないよ。
ところで銃ができたら俺はお払い箱か?』
『まさか。これは魔法が使えない一般兵士用だ。
俺は今まで通り剣と魔法で戦うさ』
『そうかい。この調子で大砲や戦車も作ってしまえ』
『戦車は無理だと思うが大砲はイケルかな?』
ハンドガンにバリヤーにライフルか。
たぶん戦争の形態が変わる。
今までは討伐軍の魔法部隊に頼りきりだった部分も一般の兵士が担えるようになってくる。
それに各兵士の装備も変わる。
重い鎧よりも動きやすさ重視の軽い軍服も作らないとな。
ホントにこんなことやっていいのかな?
とも思うがそんなもん俺を転生させた鈴木が悪い。
うんそうだ俺は悪くない!ということにしよう。
と、ここで問題発生。
ドワーフが言うにはミスリル鋼が足りないそうだ。
「それはどこで採取できるんだ?」
ドワーフの親方は地図を指さして説明してくれた。
「サフラスのこのあたり、ツイーネとの国境付近の鉱山でちょと取れール」
「ちょっとなの?」
「含有量が少ないアルね」
「ふーん、他には?」
「ここ」
親方が指さしたのはガウンドワナ大陸のガウンムア王国の国境線を越えた密林にある山だった。
「戦争おこてから取りに行けなくなたアルよ。
在庫ないーね」
「魔人の国が近いな。それにガウンムアは魔人軍に占領されている。
どうしたものか」
「生成したミスリル鋼の延べ棒を持てきてくれたら作るアルよ。
鉱山の近くにはドワーフが精錬所を運営してるので買えるネ」
「わかった、方法を考えてみる」
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アレックス王子に相談してみた。
「現在サフラスからグレンヴァイスに抜ける街道が整備されつつある。
まずはグレンヴァイスまで行ってみるか。
海岸まで安全に行けるルートがあればそこから空を繋いで南の大陸までいけるだろう。
ガウンムアの人気がない場所を選んで横断すれば行けるかもしれん」
「なかなかの難ルートですね。
でも行ってみる価値はある。
ガウンムア大陸のミスリルは俺が空間収納バッグを使って
運んできましょう。
サフラスにある分はドワーフにまかせましょう」
「そうだな。もちろん護衛はつけさせよう。
グレンヴァイスの王とも会ってみたいし私も行こう」
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数日後俺たちは馬車に揺られていた。
「で、アレックス殿下が一緒に行くのはわかるんだが
なぜアナタ達までいるのかなー?」
俺が乗っている馬車にはエド、シェリー、セシリアがいる。
他の馬車には老師にカミーラと聖女のクロエが乗っている。
「クロエは貴族だからまあわかるんだが」
セシリアがニコニコ笑っている。
「まあまあ、エリック。
グレンヴァイスの臨時政府は温泉地にあるのよ。
あとはわかるわよね?」
「そういうことか」
サフラスとの国境に差し掛かる。
ここからは山道のはずだ。いや、山道には違いないが。
「なんだこれは」
馬車が余裕ですれ違える程の道幅が確保されてる長いつづら折りが出来ていた。
ターンパイク?いろは坂?
「殿下、これ作っちゃったんですか?」
「左様。我が国の土木建設技術の粋を集めた」
まだ工事中のポイントにさしかかった。
少し見学させて貰う。
土木工事専門の土魔法使いが道路に敷き詰める定型サイズの長方形の石を作っている。
曲がり角や傾斜地用の特殊な形はその都度現場を見ながら作り
敷き詰めるときに細部を整形していく。
敷き詰めたらつなぎ目を魔法で繋ぎ頑丈にしていく方式らしい。
これから道を広げる部分は測量班が地図を作り
切り土あるいは盛り土する部分を書き出していく。
三角測量が行われているので測量士の話を聞いてみた。
角度と距離の関係は一覧表になっており現場では簡単な計算で済むそうだ。
正弦定理についてはまだ正確に言うと確立されてないらしいが
経験則に基づいた一覧表はかなり正確だった。
条件をすべて検証するのは大変だったろうな。
大規模な土砂の移動も土魔法使いの出番だ。
だが細部の仕上げは手作業で行っている。
魔法と人力が混在した工事現場は実にユニークだった。
サフラスを横断するのに一週間かかった。
サフラスの王族に挨拶してグレンヴァイス入りをする。
「やっと着いたー!おんせーん!」
セシリアがはしゃいでいる。
そりゃそうか。
前世での記憶があるわけだし日本人なら温泉好きが多いもんな。
殿下が俺に尋ねる。
「ここで今夜は泊まる。
私は明日からここの王族と色々話し合わなければならない。
エリックはどうする?」
「俺もここで一泊します。
明日海岸まで行って様子を見ます。
行けそうだったら海を越えてみます」
「そうか気をつけて行ってきてくれ」
「はい、それはまあ明日の話という事で。
俺はまずは温泉に入ります」
なんのかんの言って俺も温泉を楽しみにしていたのだ。
指定された宿泊所は王族が使用するゲストハウスだ。
ちょっとしたホテル並みの大きさで各自部屋が与えられた。
ゲストハウス専用の露天風呂があるみたいなので行ってみた。
「おお、ザ・温泉!」
俺は腰にタオルを巻いた格好でガッツポーズ。
「ちょとエリック、はしゃぎすぎ」
「おう、わりーね。ってセシリア!?」
振り返ると湯浴み着を着たセシリア、クロエ、カミーラが立っていた。
「ざんねーん、湯浴み着着用でしたー」
「べ、別にがっかりしてないし」
「いいから早く入ろう!」
セシリアに背中を押されてお湯に浸かる。
「ふいー、かなり白濁したお湯。これぞ温泉って感じだね!」
セシリアが満面の笑みで言う。
ちょっと熱めのお湯、高原の涼しい風。
うん、いいね。来て良かった。
クロエがなんか騒いでる。
「ちょ、ちょっとセシリアなにするんですか!」
「大丈夫よ。こんだけお湯が濁ってれば見えないって」
セシリアがクロエの湯浴み着をはぎ取っている。
セシリアはすでに全裸だ。背中しか見えないが。
「と、殿方がいるんですよ!ふえええええ!」
「エリックなら大丈夫よ。安全パイだから」
「おい、13面待ちだぞ」
「嘘つけ」
クロエがひんむかれた。
カミーラは被害が及ばぬよう端っこに移動している。
「ほらね、裸だと気持ちいいでしょ!」
「た、確かにそうですけど」
露天風呂からは湖が見える。
連なる山々は緑に覆われている。
ここは戦禍に飲まれていない平和な観光地だ。
クルトフでそしてツイーネ国境で。
俺もセシリアも、そしてクロエもカミーラも戦場を駆け回ってきた。
数多くの戦死者を見てきた。
蹂躙された村々を見てきた。
たまにはこういう息抜きも必要だよな。
と、その時。
どぼん、と音がした。
見るとカミーラが湯に沈んでいる。
近寄ってみた。
「うわ、目を回してるよ」
お姫様だっこで抱き上げてお湯から上げる。
「おーいセシリア、脱衣所まで運ぶから介抱してやってくれるか?」
「はーい。先に行って。湯浴み着着るから」
脱衣所の長椅子にカミーラを寝かせる。
セシリアが来た。
濡れた湯浴み着はぴたりと肌に張り付いて体の線が丸わかりだった。
「こら、ガン見するんじゃない」
「み、見せてるのはそっちだろ。いいから早く介抱してやって」
セシリアはカミーラに両手をかざし癒している。
「じゃ、俺はあがるから」
着替えて部屋に戻った。
いかん、セシリアの立ち姿が頭に焼き付いてしまった。
意外とオッパイ大きかった。
ウエストなんか結構くびれてて・・・・
夕飯時に顔を合わせるのが気まずいなあ。




