2-6 『あの日』 クレイグと魔人編 その3 ルドアニアのクーデター
「伝令!国王に直伝である、ここを通せ!」
伝令兵が王城の門前に馬で乗り付けた。
背中には天を駆けるペガサスが描かれた小さな旗がはためいている。
門番は急いで門を開けた。
ルド王国国王ウォルター・ボ・ルドゥインは執務室で知らせを受け取った。
「パールバディア王国が魔人の侵攻を受けた。
それと同時に我が国のクルトフまで攻め込んで来ているそうだ。
アレックス、行けるか?」
「もちろんです!速やかに!」
アレックスは執務室を駆けて出て行った。
「クレイグ、お前も正規軍を率いて出立してくれ」
「それは結構ですが父上。対魔法使い戦闘の訓練を受けていない正規軍は今回足手まといですぞ?
アレックスの魔王討伐軍と勇者のパーティに任せた方が良いです。
いたずらに損害を増やす必要はないかと」
「うむ、しかしだな」
「父上、アレックスが心配なのは私も同じです。
が、ここは身内としてではなく国王としての判断を優先させるべきかと」
「わかった。しかし正規軍もいざと言うときはいつでも出られるようにしておけ」
「わかりました、父上」
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王城の門前に立つ衛兵は眠気をこらえながら歩哨に立っていた。
時間は深夜。夜明けまでまだかなりの時間がある。
クルトフで戦争が始まった知らせは国中に駆けめぐっていた。
戒厳令など出さなくても深夜に出歩く市民などいない。
歩哨は何度目かのアクビをしている最中に意識を絶たれた。
物陰から射出された石弾が彼の額を貫いたのだ。
同時に門前広場には人が集まり出す。
皆それぞれ武器を持っていた。
魔人の一人が門を派手に破壊する。
轟音と共に倒壊した門にめがけて人々は雄叫びを上げながら殺到した。
「やってしまえ!王を殺せ!」
「「「おおおおおおおおおおおお!!!」」」
城の中から異変に気がついた兵士が駆けだしてくる。
正規軍は郊外で待機中、討伐軍はクルトフに行っている。
しかしかなりの数の衛兵が城には残っていた。
襲いかかった連中は武器を手にしているとは言え
大半は戦闘訓練を受けていない素人の集団である。
衛兵は問答無用で侵入者達を斬り始めた。
が、陰から様子を伺う数人の魔人達はピンポントで衛兵を倒し始める。
クーデターの集団全員が王城に入り込んだのを確認した魔人の一人が
開きっぱなしになっている門に土壁を生成、誰も入れなくする。
正門だけではなく出入りできる箇所はすべて封鎖した。
誰も逃げられないし誰も入り込めない閉鎖環境が整った。
城に入り込んだ集団は始めて来るのにまるですべてを知っているかのように王の居室を目指す。
クレイグが持ち出した城の見取り図を丸暗記させられていたからだ。
邪魔だてする兵士は集団に紛れ込んだ魔人が屠っていく。
「くそ、王はここにいない!どこかに隠れているはずだ、探せ!」
王の居室の隣にある寝室のベッドはもぬけの殻であった。
集団は次に謁見の間を目指す。
兵の数が増えてきた。間違いなく王はそこに居るはずだ。
通路を守っていた衛兵はすべて殺された。
その死体を踏みつけクーデターの集団は謁見の間になだれ込む。
中にもかなりの数の衛兵が玉座に座る王を守っていた。
が、魔人の攻撃にはなすすべもなく全滅した。
王は落ち着いていた。
「こんな夜更けになにか用かね?
見たような顔も混じっているな。そこにいるのは元男爵ではないか。
不正に増税し領民を苦しめたかどで爵位を取り上げられた事に対する逆恨みか?」
元男爵は王を指さして叫んだ。
「誰でもやっていることではないか!なぜ俺だけが咎められなければならぬ!」
「とっくに片づいた問題だ。不正を働き罰を受けたのはお前だけではないと知っておろうが」
「うるさい!うるさい!うるさい!爵位を取り上げられた後、妻は子供を道連れに心中した。
親類縁者からは絶縁状を叩きつけられた。
財産はすべて没収され着の身着のまま放り出された俺の気持ちがわかるか!?
今解らせてやる!覚悟!」
元男爵が振り下ろす剣を王は自分の剣で受け、相手がひるんだ隙にみぞおちにケリを入れた。
咳き込みながら倒れ込む元男爵に王が言い放つ。
「ふん、相当なまっているな。せめてもう少し鍛え直してから出直せ」
周りにいた数人が一斉に王に襲いかかる。
王は体をひねり半回転させながら一人の喉をかき切った。
一人の足をかけ地面に転がしてから玉座を盾に防戦する。
だが多勢に無勢だった。
剣を振り廻す数人の陰から長槍が突き出る。
数本の槍が王の体を貫いた。
玉座の横にがっくりと膝をついた王は体中から血を流していた。
「私を殺したところでなにも変わらないぞ。
お前達も生きてここから出られるとは思っていまい」
不正に奴隷を売り買いした罪で取りつぶしにあった元豪商の一人が笑いながら答える。
「くくく、王よ。ここまで我々はほぼ無傷でたどり着いたのだぞ。
無傷で出て行けるさ。余裕でね」
王は何も言わず無言で集団を睨んだ。
振り下ろされた剣は容赦なく王の首を胴体から切り離した。
「勝ったぞおおおおおおおお!!!!!」
「「「うおおおおおおおおおお!!!!!」」」
反乱者達の雄叫びが謁見の間にこだました。
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「クレイグ上級佐官殿、クーデターは成功。王を抹殺しました」
「よろしい。郊外の正規軍を向かわせる。
お前は先に行って我々の部隊だけを撤収させろ」
「はっ!」
俺は非常事態宣言を出し、正規軍の将兵をたたき起こした。
「王城が何者かに襲われたと連絡があった。
全員フル装備で集合!点呼が終了し次第、王城に向けて走れ!」
騎兵が装備を調え終わると同時に城に向けて馬を走らせた。
俺も馬を駆りついて行く。
正門には土壁が生成されており行く手を阻んでいた。
「攻城兵器を持ってこい!進入経路を確保せよ!」
巨大な丸太が数本持ち込まれた。大人数で土壁を叩き始める。
数合でひびが入り土壁は崩れ去った。
「賊はすべて討ち取れ!王の安否を確認しろ!」
王などとっくに死んでいるのだが、ここはこう言っておかないとな。
正規軍は次々と賊を倒し謁見の間に到着。
そこで首をはねられていた王の亡骸を発見した。
首謀者は元男爵とうい事だ。
夜が明けてきた。
王城内は静けさを取り戻している。
おびただしい死体を運び出す作業と同時に
兵士には市内の警戒と残りの賊の捜索に当たらせる。
北の塔に閉じこめておいた王妃を出してやる。
不安そうな表情の王妃が駆け寄ってきた。
「クレイグ、これは・・・・・」
俺はもっともらしい説明をし王位を継ぐことを王妃に宣言した。




