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2-4 『あの日』 クレイグと魔人編 その1魔王軍のグレイン少将


本国から指示が来た。

ガウンムア王国は既に影響下に置いたという。

パールバディアとツイーネも同時に侵攻する予定だそうだ。

それに合わせて俺もいよいよ行動を開始する。


 ルド王国に潜伏し活動している部下達の首尾は上々だ。

反政府組織の構築は既に済んでいる。いつでも動けるそうだ。

「パールバディアのグレイン少将と連絡を取れ。

侵攻が完了したらその勢いでクルトフまで攻めてきて欲しいとな」


 部下の一人が挙手した。

「それではルド王国の侵攻も少将の部隊に任せるんですか?」

「いや、わざわざ手柄を差し上げるようなマネはせんよ。

派手に国境を越えてくれれば今王都に居る魔王討伐軍はクルトフに向かう。

正規軍も行かせるつもりだ。

王都の防衛が手薄になったらクーデターを起こさせる。

それから彼等が王城を占領する。

お前達も反政府組織に混じって王城の警備兵は皆殺しにして欲しい。

王も殺せ。

そこへ俺が登場して反政府組織を一掃する。

その後俺が王位を継承してこの国全体を掌握する」


 先ほどの部下が答える。

「了解しました。しかしグレイグ上級佐官殿、

間違って我々まで一掃しないでくださいよ」

笑いがおこる。

士気は高いな。

必ず成功するだろう。


~~~~~~~~~~

 副官のワッツ中級佐官が封書を持ってきた。

「グレイン少将、クレイグ上級佐官殿からの連絡であります」

「ご苦労、下がって良いぞ。どれどれ」


 白髪交じりの黒髪は短く刈り揃えてある壮年の逞しい体格の持ち主。

魔法だけでなく剣と体術にも優れている。

頭脳も明晰で部下の面倒見が良く周りからの評価も高い。

グレイン少将はクレイグからの要望に目を通した。

「奴め、この俺に噛ませ犬をやれだと?

何様のつもりだかな、あの金髪坊やは」


 グレインはクレイグからの手紙を丸めて放り投げ、

火魔法で灰にした。

「ま、もののついでだ。

魔王様からの指示もあるしちょうどいいだろう。

おい、『対象』の居場所は掴めてるんだろうな?」


 問いかけられた副官は即座に答える。

「はい、『対象』は勇者のパーティに所属してます。

クレイグの作戦が上手くいけばクルトフまで一緒に来るでしょうな」

「なるほどなるど」


 グレインはニコニコ笑っている。

「奴は何も知らされてないんだろうな、可哀相に。

俺を噛ませ犬扱いしてるつもりが逆に俺に利用されてるは思いもよらんだろ。

副官、準備はいいか?まずはパールバディアをちゃちゃっと落とそうや」


~~~~~~~~~~


「おい、止まれ。見慣れない連中だな。

なにか用か?」


 パールバディア陸軍王都駐屯地の門に立つ歩哨が問いただす。

数人の黒髪の男達は無言のままだ。


「聞こえないのか?ここは一般人は立ち入り禁・・・」

首を落とされた歩哨は最後まで言うことができなかった。

入り口の詰め所から駆けだしてきた数人の兵士も歩哨と同じ運命をたどる。

 

 黒髪の男達、魔人の部隊はそれぞれが破壊と殺戮を開始した。

数時間後、動く者の居なくなった駐屯地の建物に火を放つ。


 同時刻、パールバディア国内の軍の要所は魔人の奇襲を受け壊滅した。


「グレイン少将、軍の壊滅作戦完了しました」

「報告ご苦労。さて俺の出番か。城を落とすぞ」


 城の門番と衛兵は激しく抵抗した。

城壁の上から飛んできたこぶし大の石弾がグレインの頬をかすめる。

「ほう、少しは出来る奴がいるんだな」

グレインはくうを使い石弾を放った魔法使いの背後に現れるのと同時に一発殴った。

ローブを羽織った青年魔法使いは気絶した。

後を付いてきた副官に命じる。

「こいつは使えそうだな。縛って転がしておけ」


 切り込み部隊の兵士が大声をあげながら城内を廻る。

「抵抗する者は殺す!抵抗する意志のない者は両手を挙げて広場に集まれ!」

近衛兵の一団は最後まで抵抗を続け王を守った。

文官や女中の類は皆手を挙げて城から出てきた。


 入り口の戸を破壊し謁見の間に進入してきた魔人の部隊は

玉座に静かに座る王を発見した。

「国王とお見受けする。貴国の軍は壊滅した。

城を明け渡して貰いたい」


 王は魔人の部隊を一瞥し口を開いた。

「貴様が部隊長か?まずは名を名乗れ」

「魔人の国、魔王軍のグレイン少将だ」

「こんな事をしてどうするつもりだ?」


 グレイン少将の話はにわかには信じられなかったがどうやら本当の事らしい。

国王は黙って説明を聞いた後城内の惨状を見る。

国王はグレインに降伏する旨をを伝えた。

「殺したのは軍人だけか。

一般市民には手を出さなかった事に礼を言う。 

王族は処刑であろう?」

「いや、殺さない。あんたにはやって貰いたいことがあるんでな」

「ほう、聞こうか」


「パールバディア王国は50年前の戦争でルド王国に負けているよな。

やり返そうとは思ってないのかね?」

「とうの昔に終わった事だぞ。いまさら蒸し返す気などない」

「それはあんたの考えだろ。

国境付近の住民達はまだ根に持っているようだが?」

「元はと言えばあの辺の住民が国境線を越えて開拓を始めたのが戦争のきっかけだ。そのおかげでルド王国とやりあうハメになった。

結果我が国は負けて不平等な講話条約に調印せざるをえなくなったのだ」

「その辺の話は既に知っている。

王の意志としては事を荒立てたくない。それでいいか?」

「そうだ」

「よろしい。我々魔人の軍はルド王国のクルトフまで侵攻する。

ついでにあんたも我々の馬のケツに乗せてやろうと思っていたんだがな」

「勝手にせい」

「ああ、勝手にするさ。

しばらくは王城で幽閉されとけ。

一段落したらあんたには少し働いて貰う」


 すでに南の港には魔人の軍勢を乗せた船が到着している。

民間人も含めて万単位の魔人がパールバディアに入る事になる。

くうを使える精鋭達はすでに国の中央にある王都に集結している。


 パールバディアの政治と行政を魔人の部隊が引き継ぐ予定だ。

連れてきたのは軍人だけではない。

各省庁の幹部はすべて魔人に入れ替わる。

グレインはこの国でとある実験を始めるつもりだった。


「魔王様の許可も頂いている。ワッツ副官、手はず通りに頼むぞ。

さて、今晩休んだら明日にはクルトフを落としに行く」

 

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