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2-3 前に進めない


「ん?どうした?」

「えっ・・・・い、いや。名前覚えてるんだ」

「セシリアは覚えてないのか?」

「う、うん。いろいろ忘れてる・・・・みたい」

「そうか。まあ完全にすべてを記憶してるほうが不自然だもんな。

まあいいや」


 嘘をついた。

完全にすべて記憶してます。ハイ。

というか、なんだこのモヤモヤは。

鈴木め!もう、さん付けでは呼ばないぞ!


 それからエリックは前世ではこんな音楽が好きだったみたいな話をしてきたが

それ全部知ってるから。

エリックが、カイトが、そうあなたが。

好きなバンド。好きな食べ物。好きな映画。それから。

全部覚えてる。

どうしよう、泣きそう。


 でも前世では私のせいで手ひどい別れ方をしているだけに

本当のことは言えない。

私があなたの元女房ユカリよ!なんて言えない。

言えるかー!

鈴木め!わざとだろ、絶対知っててやってるだろ!


 でも、もしかしたら何時かゴメンねって言える機会がやってくるかな?

いや、自分で強引に機会を作らない限り無理だろうな。

すでに嘘付いてる現時点では良い考えなんて思い浮かばない。


「どうしたんだよ、さっきからなんか変だぞ」

はっ、と現実に引き戻された。

「懐かしくて、ね。それよりラヴェイルってどこかしら?

東の果てってなんかあるの?」

「確か名前の付いてない小島群が地図の隅っこに描いてあったがそこかな?

わからん」


「そうね。疑問が増えてきたわ。ところでアケミさんって誰?」

「そうか、まだ紹介してなかったか。

最初の集まりでは腐ったトカゲ肉に当たって休んでたからな」

「はい?トカゲって食べられるの?」

「コモドオオトカゲくらいのでかい奴なんだと。

うまいらしいぞ」


「まあトカゲは置いておいて。アケミって思い切り日本人名じゃない」

「その通り。アケミは『転移者』なんだ。俺たちとは違う。

偶然出会ったんだが俺はアケミが日本に帰れる手段を探してあげたいと思ってる」

「そうなんだ。じゃあこのラヴェイル、がもしかしたら答えかも」

「うん、でも1000年前の勇者自身も確信があるような書き方じゃないよな」

「そうね、そこは気になるわね」


 その後エリックも魔法部隊の訓練に顔を出すと言っていたので彼の部屋を出た。

お互い転生者だと言うことはしばらく内緒であることに念を押した。


 私は前世で死ぬ間際に後悔をした。

自分のやりたいことを優先しすぎたあまりに、

身近な人を傷つけていた事に。

元旦那であるカイトに謝りたいとそう願ったのだ。


 なんとかしたいと思ってはいるのだけど。

今のままでは前に進めない。


~~~~~~~~~~


「殿下、馬車の準備が整いました」

伝令が呼びに来た。

「ご苦労、今行く」

 

 私達は王都に向けて移動を開始した。

まずは王都の南側の都市サザーネに向かう。

王都に帰る前にここでサフラス王国の特使と面会する予定だ。


 安全保障会議に参加した国々の中で独立を保ち続けているのは我が国を含めて

三つである。

 そのうちの一つ、サフラス王国はローレルシア大陸にある中央山脈の中腹に位置する山岳国家だ。

この国は魔人の侵攻を受けていない。

さらに南にあるグレンヴァイス王国もその一つだ。

海岸沿いは魔人の攻撃を受けたがそれ以上内地には追い込んで来なかったらしい。


 地形が要因なのかそれ以外の要素があるのかを調べてみたい。

いまは藁にもすがる思いでどんな小さな可能性もつぶさに試してみたいのだ。


 サザーネに到着後すぐに特使と会談を始めた。


「アレックス殿下のおっしゃるとおり地形的な要因は大きいでしょうね。

魔人の軍勢は吸収したガウンムア王国で調達したテイマーを連れてます。

テイマーは多数の魔物を従えその餌代も馬鹿になりませんからね」

「なるほど。だから平野続きの大陸の西のパールバディアと東のツイーネを先に落としたのだろうな」


「はい、それと考えられるのは我が国は魔物が少ないんです」

「それは聞いている。単に山岳地帯には住みにくいからじゃないのかね?」

「それもあるでしょうけど、我が国は魔素が少ないみたいですね。

正確に検証したことはありませんが」


 サフラスは魔物が少ない。それと同時に魔法使いも少ない。

それは『魔素』が少ないのが原因と言われているのだ。


「魔人は体内に魔石を持っている。彼等は魔素の補給を必要としないが

連れ歩いてるテイマーや兵站を担う部隊はそうではないからな。

なるほど」


 それからいくつか情報交換をし、ガウンドワナ大陸に向かうルートの一つとして

サフラスからグレンヴァイスに抜けていく道の開拓にも了解を得た。

我が国の土木建築の分野は多数の先進的な技術を抱えているのだ。

平時なら外交の取引材料にもなるだろうが今はそんな事言ってられない。


~~~~~~~~~~


 王都に到着し、すぐに女王である母に報告に行った。

「ただいま戻りました」

「アレックス、お帰りなさい」

軽くハグする。薔薇の香りがした。

「久しぶりにこの香りを嗅ぎました」

「ええ、残念な事に手持ちの在庫がなくなったらもうおしまいなのよ」

 

 薔薇のフレグランスはクルトフの特産品だ。

かの都市が魔人軍の勢力下に入っているため商品が入ってこないのである。

「母上のためにもクルトフは奪還しないと」

「ふふ、そんな理由じゃ兵はついてこないわよ。

さて、呼びつけたのはいくつか理由があるの。

まず一つ。あなたは働き過ぎです。

戦線が膠着している今は部下に任せて少し休みなさい。

もう一つ。あなたの王位継承の時期の相談」


 やはりその話か。

国王であった父亡き後本来ならば私が王位を継ぐのが筋だった。

しかし自軍を率いて自ら王城奪還の指揮を執った母の功績は大きい。

父が殺されクレイグが魔人であったことがバレたその時は

一刻も早く誰かが王位を継承し国全体の指揮をとる必要があった。

私が前線から戻ってくるまで待ってはいられなかったのだ。


「私はあくまで暫定の女王なの。王の血をひくあなたがなるべきね」

「解ってます。が、今は戦時下であり私は父から仰せつかった

魔王討伐をまっとうしたい。

国王になったら王城から動けなくなるでしょう。

内政問題も山積みなわけですし」

「そうね。軍費の捻出も含めて経済的な部分は頭を痛めてるわ。

これだけでも大変な仕事量だものね。

その辺の話はまた後で詳しく話すわ。

今は休みなさい」


~~~~~~~~~~


 アレックスはおやすみなさいを言い私の部屋を出て行った。

できればさっさと王になって貰い王城から出ないで欲しいとも思う。

だがそれをやれば兵士の士気は落ちるだろう。

今は母としてよりも女王としての判断が優先される。


 日々逞しく成長していく我が子を頼もしく思う。

顔が父親に似てきた。

アレックスを見ているとどうしても彼のことを思い出してしまう。


そして『あの日』の事も。


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