表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/149

2-2 元旦那とか?聞いてないよ


 二週間が経過した。

パトロールに出掛けた小部隊の小競り合いがあるほか大規模な戦闘は行われていない。

こちらも援軍が到着するまで大規模な作戦行動は取れずにいた。

俺は毎日前線付近を飛び回りえーちゃんの俯瞰ふかん能力を駆使して警戒を続けていた。


「エリック、ダニエル率いる援軍が到着したぞ」

昼飯を食ってるところに殿下がやってきた。

「予定通りですね」


 エスタンの防衛はダニエルに引き継ぐことになる。

ダニエルの情報では西の都市クルトフの戦線も膠着しており、

大規模な戦闘はおこなわれてないようだ。

「勇者殿が張り巡らした土壁が効力を発揮してますよ」

「だといいだけどね。アチラさんも強力な魔法部隊を抱えている。

本気出したらあんな壁すぐに突破されるね」


 ダニエルの故郷はクルトフだ。

最初の侵攻が行われ、我々が駆けつけた時はクルトフの街はすでに廃墟に近い状況だった。

たまたまダニエルの家族はアレックス殿下の誕生日の式典に王都へ呼ばれていたので無事だったが、

多くの市民領民が犠牲となった。


「殿下、女王陛下がお呼びです。王都に戻ってください。

ここの防衛は任されました」

「わかった。エリックはどうする?」


 俺は基本的には軍の命令系統に縛られない。

魔王を倒すため自分の都合を優先させて良い事になっている。

「俺も一緒に行く。師匠やエド達とも話合わなきゃならないし」

「セシリア嬢はどうするか・・・侵攻が始まったら聖女部隊は必要だし」


 ダニエルが発言する。

「教会からのお達しで別の聖女部隊が派遣されてきました。

セシリア様達は一度王都に戻られたし、との事です」

殿下が答える。

「そうか、じゃあ王都に帰る連中に伝えないとな。

ちなみに別の聖女は誰が来たのだ?」

「ビアンカ様です」


「げ、まじかー。俺苦手なんだよなー」

俺はつい口に出して言ってしまった。

殿下が笑っている。

「ビアンカ嬢は勇者殿の大ファンだからな。追っかけてきたのだろう」

「勘弁してくださいよ殿下」

あの逞しい体格の聖女にグイグイ来られるとかなりの威圧感を感じる。

俺食べられちゃうかも。


~~~~~~~~~~


「セシリア、久しぶり!」

「ビアンカ、コッチに派遣されたのね!」

私達は再会を祝した。


「ねぇねぇ、セシリア。もう殿下は落としたの?」

「・・・・・はぁ?」

「なにトボケてんのよ」

「なにか凄い誤解が生じてるみたいだけど」

「だって王城に居るときはいつも殿下と二人っきりで図書館デートだったじゃない」


 まじかー。そんな風に見られてたのかー。

「アレは過去の記録を調べるのを手伝ってただけよ。

それに二人きりなんてことはなかったわよ。

必ず司書さんがいたし、ああそうそう、エリックも居るときあったし」


 ビアンカの眉がピクリと反応。

「へ、へー、勇者様と」

やばい、ビアンカはエリックの大ファンだった。

「いやいやいや、過去の記録調べはむしろ勇者様のためだからね?

私は『勇者の呪文』の研究を続けてるだけよ。

あー、ほら。勇者様は殿下と一緒に居るわよ。

着任の挨拶してきなさい」

「あっ、そうね!勇者様に伝えなきゃ!」

「マジかボケかが解らないから冷静に突っ込んでおくわ。

殿下に報告しなさい!って、聞いてないし」


 キャーとか言いながらエリックに向かって突進して行くビアンカを

ため息をついて見送った。


~~~~~~~~~~~~


 殿下達と過去の記録を調べるついでに私の目的でもある

ウーファの教会で偶然見つけた勇者の呪文。

その完全なる全文が王城にあったのだ。


そこにはこう書いてあった。

『この文字が読める者、我と同郷である君よ。東の果てのラヴェイルへ向かうと

日本に帰れる手段があると聞いた。帰りたい者はそこを目指すべし』


 ついに全文を見つけた。だがラヴェイルってどこだ?

そんな地名は聞いたことがない。

なにより問題なのは私が日本語を読める事はまだ誰にも教えてない。

誰かに聞くわけにもいかない。


 カミングアウトすべきかどうか迷っているとエリックが近寄ってきた。

「セシリアはなに読んでるんだ?」

「これは勇者の物語の原本よ」

「へー、内容はどうだった?軍の編成とか書いてあったかい?」


 そうだった。それが本来の目的だった。

「内容は一般的な勇者本と変わらないわね」

「そうか、記録と言うよりも物語だもんな。うん?なんだそれ?」

呪文のページを開きっぱなしだった。


 エリックは勇者の呪文を凝視している。

「セシリアはこれ読めるのか?」

「え?えーと・・・」

「だよね。これ日本語だもん」

「・・・・・・・はい?」


 私は近くに誰もいないことを確かめてエリックの腕を掴んで小声で言った。

「後で二人きりで話がしたい」


 殿下が呼びに来た。この後会議があるので自分はもう行くとのことだった。

私とエリックも一緒に図書館を出る。

殿下を見送った後、エリックが思い切り不審そうな顔で聞いてきた。

「なんだよ、話って」

「さっきの『勇者の呪文』の事。

ここじゃなんだからエリックの部屋に入れて貰っていい?」

「お、おう」

今考えると赤面ものなのだがその時私は新たな疑問を解くのに夢中だった。


 エリックの部屋に入れて貰う。

装飾品の類がほとんどない殺風景な部屋だった。


「他言無用をお願いしたいんだけど。

図々しいのはわかってる。でもお願い」

「わかった。誰にも言わない。というかさっきの日本語の事か?

まさかここで漢字とひらがなにお目にかかれるとは」

「そう、それ。なぜあの文字が日本語だってわかるの?」


「あー、そっか。これはアケミにしか言ってなかったか。

いつかは皆に話す機会もあるだろうと思ってるんだが、

積極的に言いふらす事でもないとも思ってるから誰にも言わなかったんだ」

「うん」

「俺は前世の記憶を持っている。以前は日本人だったんだ」


 いたのか。私以外の転生者。

鈴木さんは勇者のサポートをしろ、という話をしただけで

勇者の素性などはいっさい語らなかった。

まさか勇者が元日本人だったとは。

なら私も言っていいだろう。


「セシリアは呪文の内容が知りたかったんだろ?教えるぞ」

「それは大丈夫。私も日本語読めるから」

「はい?お前も転生者なの?」

「そうよ。お互い聞きたいことだらけでしょうね。

エリックはどうやってコッチに来たの?」

「ああ、トラックにひかれた。享年29才だよ。セシリアは?」


 交通事故で死んだ29才の男性か。

真っ先にカイトを思い出してしまった。

「私は癌よ。同じく29才で死んだわ」

「へー、同い年だったのか。今も同い年だし奇遇だな。

俺の前世の名前は本山カイトっていうんだ。

もしかして知ってる?そんなワケないか」


 頭が真っ白になった。


エリックの前世を知ったセシリア。一方勇者は?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ