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1-45 勇者認定としゃべる勇者の剣


担当官は一番最初に書類を書いた部屋に入っていった。

俺も後をついて行く。

再びデスクを挟んで着席。


「それでは待遇面での説明をさせていただきます。

まず現在は確実な勇者認定を・・・」

「ちょ、ちょっと待って。勇者って職業なの?」

「違うんですか?」

「愚問でした。続けてください」

黙って説明を聞いた方が良さそうだ。


 要約すると勇者の活動は国が全面的にバックアップするらしい。

生活面での心配はせずに魔王を倒すことに専念して欲しいからだそうだ。

現在の俺の立場は仮認定みたいな状態だ。

アレックス殿下の査定を受けてはじめて勇者として国民にお披露目されるらしい。

給与や福利厚生の話は認定を受けてからになります、と言われた。


 勇者様が現れた!バンザーイ!

国民は熱狂の渦に包まれた!みたいな?

ファンタジー的な展開を想像してたのだが現実はこんなもんか。


 そりゃそうだよな。

お役所的にもいろいろ書類揃えなきゃ予算だって都合つかないだろう。

前世でのお役所やゼネコン関連の書類揃えてる時の気分を思い出し、

すこし担当官に対して優しい気持ちになれた。

妙なところで前世の記憶が役に立つ。


「他になにか質問はありますか?」

「そうですね・・・・」


『おい、俺はいつまで抜き身のままなんだ?』

『そういや鞘とかないの?』

『千年前の皮製の鞘なんざとっくに朽ち果ててるよ。

新しいのクレクレ』


「この勇者の剣に合う鞘が欲しいのですが」

「わかりました。見たところ量産品の類と変わらないみたいなので

なにかあるでしょう。サイズを計って装備担当者に書類を廻しますね」

「で、いつ頃になります?」

「そろそろ夕方ですからね。明日でいいですか?」


『だとよ。明日でいいか?』

『つかえねぇなあー。まあいいか。

今日の所は長い布切れで巻いて革紐で縛って背負っておいてくれ』


「だ、そうです」

「はい?」

あ、俺以外には剣の声は聞こえないんだったな。なかなか慣れない。

剣のリクエストを伝えるとそれならすぐなんとかなります、と言い

隣の部屋の総務部に掛け合ってくれた。


 呼び出しの住所はエド達と借りてる借家にしてある。

練兵場の都合がついたら連絡が来るそうだ。

次回はもっと簡単に入場できるように通行パスを貰いやっと解放された。


 さて、まずは老師の部屋に帰って作戦会議だ。

その前でも後でもいいのだが。

『お前には聞きたいことがある』

『ぐぅ・・・・』

『寝たふりすんなよ。鈴木とはどんな関係だ?それに・・・』

『わかったわかった。質問には答えるさ。だが結構長い話になるぞ』

『おう、それじゃ仲間と打ち合わせしてからな』


「ただいまー、あー疲れた」

老師の部屋に入った瞬間皆から質問攻めにあった。

肛門まで調べられたことは黙っていよう。


「今は仮認定なので正式に認定されたら殿下にお願いしてみる。

スフィーアの亡命政府の樹立、それにはルド王国の承認が必要。

こういうことだよね?」

エドがうなずく。

「ああ、そうだ。ギルバートも謁見の話を殿下に伝えてくれるよう

妹に頼んでいる。チャンネルは複数あった方が心強い」


 老師が口を開いた。

「まずどうやって最後の要素に気がついたのじゃ?」


 電源ボタンの話してもわからないだろうな。

それに誰が押してもいいわけではなかったようだ。

あの剣は明らかに俺を待っていた。


「信じて貰えないかもしれませんが。この剣は俺を待っていたみたいです」

「なんじゃと?」

「ここを見てください」


 剣のつかじりを見せる。

『いやん』

『黙ってろ』


「この紋章が起動の仕掛けになっていました。

そしてこれは俺以外が触れても起動しないみたいです」

「触っていいかね?」

「どうぞ」

『あふん』

『そういうのいらないから』


「何もおこらないな」

「はい、もう一つついでに言います。この剣はしゃべります」

はいはい、予想はしてたけど皆さんそんな目で見ないで。


「念話というのだそうです。俺としか会話は出来ません」

「ふむ、にわかには信じがたいが、検証のしようがないな」


 それからいくつか打ち合わせをしその日は解散した。


~~~~~~~~~~~~ 


 夜も更けて皆寝静まった。


『さて、お話しようじゃないか』

『うぃーっす』


『鈴木とはどこで会った?』

『会議室みたいな部屋だったね』

『そこで鈴木に色々説明を受けたんだな』

『イエス』

『と言うことはお前は人間だったのか?』

『イエス。君と似たような状況で死んだ元日本人だよ。本山カイト君』

『今はエリックだよ。名前を教えてくれ』

つるぎ栄次朗えいじろうだ。えーちゃんと呼んでくれ』


 えーちゃんは元警察官。

定年退職をして年金ををもらい悠々自適の生活に入った次の年に

心不全で倒れてそのまま亡くなったそうだ。

その時に鈴木と会い勇者の剣に入り込んでくれないかとの

お誘いがあったらしい。


 面白そうだったので二つ返事でオッケーしたそうだ。


『えーちゃんか。わかった改めてよろしくな。

で、えーちゃんは何ができるんだ?』

『俯瞰』

『ふかん?』

『そう。今俺はこの部屋の天井あたりから部屋全体を見下ろしてる』

『なるほど、わからん』

『おれもメカニズムはわからん。

そんでもって俺の目に映る物はお前の頭の中に転送できる。

こんな感じで』

『うおっ!これは新感覚だな』


 自分の目に映るものはそのまま見えてるが、

えーちゃんが送ってくる映像も

頭の中で直接再生される。

『目が四つあるみたいだ。これは慣れないと酔っぱらうかも』

『邪魔ならこの機能は切っておくよ。

俺が見た状況をしゃべって伝えてもいいわけだし』


『なるほど。例えば壁をすり抜けてこの建物全体を

俯瞰ふかんすることもできるのかな』


 突然頭の中にこの借家の屋根が見えてきた。

『こんな感じだね。ちょっと調子に乗ってみようか』

借家の屋根がどんどん小さくなっていく。

やがて見えなくなり月明かりに照らされた雲が見えてきた。

その雲を通り越しさらに上がる。さらに上がって・・・・


『この惑星・・・なの?地球とは大陸の配置がまるで違うな』

『地球じゃないっぽいね。この世界に名前はないのかね』

『そういや聞いたことないな。

ざっくりと世界ワールド、という言い方しかしかしてないね』

『まあいいや映像切るぞ。

考えようによってはなかなか使える機能だと思うが』

『うん。集団戦闘の時は威力を発揮するね』


『あー、それからな。あんまり俺のこと酷使するなよ。

眠くなっちゃうからな。』

『え、寝るの?肉体ないのに?』

『精神も疲弊するんだよ。

人間が言うところの睡眠とはちょっと違うが疲れたら休まなきゃならん』

『わかった』


 それからえーちゃんはチャンネルを切って寝てしまった。

ある程度訓練して連係取れるようにしないと。

 

~次の日~


 朝食を食べ終わると王城から使いがやってきた。

練兵場に案内してくれるそうだ。

仲間を連れて行っていいかと尋ねたら大丈夫ですよ、とのこと。

勇者のパーティになら俺も入りたいっすよ!

と軽口を叩かれてしまった。


「いや、エド、今のこの兵隊さんの勘違いだからね?」

エドが苦笑してる。

「勇者のパーティか。それもありだな」


 小一時間で郊外の練兵場に到着。

 アレックス殿下と初めて見る軍人さんが多数いる。

アチラもギャラリー引き連れてるな。


「ではさっそく始めますね」

出来るうる限り練兵場の範囲内で収まるように調節しながら

魔法を次々に披露。

高さ100mクラスの巨大なファイァートルネードは

少し離れたところに生成したのだが結構熱かったのでさっさと消した。

 

 岩塊を射出して1km程先にある岩山の頂上付近を

吹き飛ばしたらさすがにストップがかかった。


 木剣を使った模擬戦闘は殿下の選んだ相手との対戦だった。

剣技はギルバートに教わっているし、毎日素振りも欠かさない。

習熟度はギルバートのお墨付き。

風魔法によるブーストも普段から練習してるので前後左右上下の動きは

あまり人間っぽくない。

二人と剣を交え模擬戦終了。


 その他にも色々披露し、殿下からの認定を受けて晴れて勇者となったのだ。


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