1-44 四人の聖女と勇者の事務手続き
聖女候補4人全員が司教室に呼ばれた。
「国からの要請で4人全員を聖女認定することになりました。
認定の儀は後ほど執り行います。あなた方は教会が派遣する治癒部隊の
長として働いて貰うことになります。なにか質問は?」
クロエが手を挙げた。
「配属先は具体的にはどこになるんでしょうか?」
「はい。軍になりますが、一人はアレックス王子率いる
魔王討伐軍の所属になります。
これはまだ誰を推挙するかは決めておりません。
追って通達があるかと思いますよ」
それから実務的な手続きをするため
いくつかの書類に目を通して全員がサインをした。
司教様の部屋を退出して私達は大食堂に併設されてるサロンに集まった。
ビアンカが腕組みしてしかめっ面してる。
「どうも様子が変ね。4人全員が認定されるなんてたぶん歴史上初よ」
イヴィンヌも今日は妙に真剣だ。
「そうね、私もこの中の誰かが聖女になって
残り三人は普通のシスター扱いに戻るだけかと思ってたわ」
クロエもうなずいている。
私は皆に質問した。
「皆さんは聖女になりかったのよね?」
ビアンカが答える。
「私は別にどうでもいいのよ。シスターにすらなる気はなかったし。
単に能力があったからスカウトされただけ。
時期が来たら村に帰って結婚して普通の農家の奥さんになりかったわ」
イヴォンヌも言う。
「私は普通の町娘だし、そんなに敬虔な信徒ってワケでもないからね。
ビアンカと一緒で割とどうでもいい」
「そうなんだ。クロエは?」
「私はなれるならなりたいです。
正確に言うと私個人の意志よりも家の格が上がるから、
という生臭い理由ですが。セリシアは?」
「うん、笑わないでね。私は聖女になって勇者のパーティに入ることが目標なの」
イヴィンヌがわざとらしい笑顔で聞いてきた。
「あらー、勇者ねらいなの?志高いわねー」
「いやいや、そういうんじゃなくて。
うーん、なんて言えば良いのかな。
お告げ?みたいな夢を見たので」
「そうなんだ、別に笑わないわよ。
ただお告げのことは伏せておきなさい」
「なぜ?」
「教会はお告げとか予知夢とかの話が大好物なの。
布教活動のダシにされるわね」
「忠告ありがと。それは面倒くさいわね」
ビアンカが話を元に戻した。
「ともかく聖女を増やして軍に派遣すると言うことは
戦線が拡大することを想定してるからだと思う。
ウチの村にも徴兵がくるかもしれないわ。
ねえ、せっかく私達タメ口聞ける仲にまでなったんだ。
なにかあったときは連絡取り合って助け合いましょうよ」
全員が賛成した。
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衛兵は伝令を呼びに門に走っていった。
「エリック、お前は今から王城内に連れて行かれるじゃろう。
その前にいくつか言わねばならんことがある」
老師は簡潔に要点だけを伝え、俺はすべてを了承した。
さっき駆けていった衛兵が戻ってきた。
老師の言うとおり俺は王城内へ案内されたのだった。
「それではこの用紙に名前、年齢、出身地、現在の職業などを
記入してください」
事務室みたいな一室に通されて一枚の用紙を手渡された。
なんか思ってたのと違う。
言われるがままに記入し担当官に手渡す。
「はい、結構です。それではそのドアから出て廊下を右に。
突き当たりを左折して右側二つめのドアをノックしてください」
「あのー、そこではなにやらされるんっすか?」
ちょっとやさぐれて聞いてみた。
担当官は顔色一つ変えず
「健康診断です」
と言った。
なんだこれ。
衛生室と書いてある部屋に入る。
ハゲあがったオッサンに全裸になるように指示される。
「はい、じゃあそこのテーブルに手をついて」
「う、うおっ、おっおっ!」
肛門まで調べるのかよ。
もうオムコに行けない。
『にやにや』
『わざわざ言葉にするの?それ?』
『いやー勇者も大変だねー』
『とにかく聞きたいことが山ほどある。が、今は黙ってろ』
『はいはい』
『はい、は一回でいいんだ』
『ハーーーーーーーイ』
この剣むかつく。
健康診断が終わると着替えを出された。
今から王族に会うから少し清潔な服に着替えて欲しいとの事だった。
臭かったんかな、俺。
小綺麗な服を貰い着替える。
案内され再び廊下に出た。
スタスタと歩く担当官の後をついて行く抜き身の剣を持った俺。
これ思いっきり不審者だろ。
到着した部屋は控え室だと言われた。
呼ばれたらそのドアを開け王の執務室に入れば良いそうだ。
王に謁見するときの作法を教えて貰った。
老師がシェリーにやってたのと変わらないな。
これなら出来そうだ。
呼ばれたので部屋に入る。
執務室には国王と第二王子のアレックス殿下がいらっしゃった。
片膝をつき挨拶をする。
「当代の勇者、アリックよ」
「エリックです」
「・・・」
「・・・」
「当代の勇者、エリックよ」
なかった事にしやがった。
さすが国王。
「よくぞ勇者の剣を掴み取った。自分の役目はわかっておるのか?」
「はい。魔王を倒せばいいんですよね」
「うむ。まだ14才なのに冒険者として生計をを立ててきたのか。
その年でC級冒険者とは才能あふれる若者と言えよう。
だが勇者にふさわしい実力があるかどうかは試させて貰うぞ」
「当然ですね。仰せの通りにいたします」
「勇者エリックよ。私が第二王子のアレックスだ。
魔王討伐軍を預かっている。
実力の程を査定させて貰うのも私の役目となる。
場所や方法についてはなにか提案があるか?」
「そうですね、魔法の類を披露するならば
どこか郊外の荒れ地などありましたらそこで」
「軍の練兵場があるぞ」
「広いですか?地形変わってもオッケー?」
「む、そんなに凄いのか。さすが勇者殿」
「殿下、エリックと呼び捨てにしてください」
「わかった、エリック。練兵場の予定を確認し次第連絡をする。
それまでは待機していて欲しい」
「了解しました」
執務室を出ると廊下で先ほどの担当官が待っていた。
「ではついて来てください」
まだなんかあんの?




