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1-42  王妃マチルダの事情 その3 私はマチルダ

 マチルダ・ド・オリビア。これが本名である。

王都の北に位置するオリビアというこの家の姓が

そのまま名前になっている都市にすむ伯爵家だ。この家の長女として生まれ育った。


 年齢は20才。

私が船に配属されてから3年立っている。

奇しくも姿だけではなく年齢もほぼ一緒であった。


やることは山ほどあった。

記憶を取り戻すため、という名目で両親や使用人に話を聞いて廻る。

マチルダに関するエピソードを時系列にまとめ年表を作成。

話の辻褄を合わせていく。


 それと同時にマチルダの部屋や父の書斎にある書籍類で勉強する。

調査班がある程度の文字に関する情報も仕入れてくれていたので

あまり苦労することはなかった。


 逆に私が書籍類から仕入れた情報は母船に転送している。

母船内の翻訳ソフトも着実に語彙を増やしていった。


 一年もするとこの星の生活にもすっかり慣れてきた。

 ある時父の書斎に呼ばれた。

「マチルダ、あれから1年がたった。

王家をこれ以上待たせるわけにはいかん」

「はい」


 ついに来たか。マチルダは現国王の許嫁だったのだ。

オークに襲われた日も王都からの帰り道、

花嫁衣装の仕立てやその他の準備が

立て込みほんの少し王都を出立するのが遅れて

薄暗い街道を帰るはめになっていたのである。

そういった事情を汲んで王家も

『私』がすっかり回復するまで待ってくれていたのだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 北の塔から眺める庭園は相変わらず美しい。

その美しい庭園にひけを取らない輝きを持つ豪華な結婚指輪。

私は指輪と庭を交互に見る。


 思えばあの時船長はこうなることを見越していたのだろうか?

死んだ本物のマチルダと私がうり二つである事に気がついた瞬間に

計画の概要が彼の頭の中で構築されたのは理解出来る。

それにしても、だ。


 本人はマチルダが貴族の娘である点に着目しただけだと言っている。

王妃になるなんてまさか俺も思ってなかったよ、と笑ってはいだが。


「ま、今となってはどうでもいいか」


 大学院を卒業するまでは勉強漬けの日々だった。

人工子宮から生まれた私に甘えられる両親はいない。


 国が面倒見てくれるのは成人するまでである。

その後は一人で生きていかねばならぬが故に私は勉学に励んでいたのだ。

恋なんてする暇はなかった。


 国王は紳士だった。

お互いをもっとよく知るまで、と言い私を抱こうとはしなかった。

私も死んだ本物のマチルダに対し後ろめたい気持ちもあった。

が、彼を知る度に彼に惹かれていく自分の感情の変化には抗えなかったのだ。

最初の夜を共に過ごすまでに私はすっかり彼に恋をしていたのだ。

そしてアレックスが生まれた。


 ここは私の第二の故郷。

本国にいる時は知ることもなかった感情、

そして愛する人と共に過ごす夜の肉体の反応もここに来て知った事だ。

この世界にやってきて私は初めて一人の人間になれたのかもしれない。


 この美しき世界を、私の居場所を、

誰かにむざむざと破壊されるわけにはいかない。


 船長以下母船のクルー達はあくまで本国の利益のために働いている。

当然私も同じ立場だ。


 だが本音を言えば私自身は国王とルド王国と共にあると思っている。

最後の最後はルド王国の利益を優先させてしまうかも知れない。 

そんな苦渋の決断の時が来ないことを祈るばかりだ。


 庭園は日が差し、ちょうど良い風が吹いている。

「マリアン、今日はお庭でお茶を飲みましょう。用意してくれる?」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


【閑話 マリアンの事情】


 インセクト・アイはリアルタイムで映像と音声を飛ばしてくれる。

基本的には自律プログラムで動く監視カメラだ。

入ってくる情報はマチルダ王妃、No.i886R909号先輩のメインPCに直接記録される。

クレイグと一緒にいた女性との『行為』を記録したファイルは

パスをかけられ隔離フォルダに格納されてしまった。


 だ が し か し 。


 改良型のインセクト・アイは解像度が増しただけではないのだ。

転送先を複数指定出来るようになっている。

バックアップをより完全にするためだ。

サブチャンネルをあらかじめ私のPCに繋いであったので

同じファイルが記録されている。

そのことを先輩には教えてない。


 今夜は北の塔に泊まる事になった。

私の居室にもセキュリティシステムは張り巡らされている。

ここなら大丈夫。

ドアに鍵をかけベッドに寝ころびプライベートスクリーンを展開。


『・・・・んっ・・・・・あっ・・あん・・・・』


 ここから先が見たかったのよ。

うわっ、すごっ。

えー、そんなところをお口で!

あ、体勢変えた。

女の人が後ろを向くの?なんで?

そーきたかー。

これ完全に入ってるよね。


 見終わった後しばらく惚けていたら

スクリーンの右端に簡易ポップアップが。


 小さな吹き出しには

「夜更かしすんな、さっさと寝ろ by i886R909」

と書いてあった。


これ完全にばれてるよね。


♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡


「おはようマリアン、よく眠れたかしら」

「お、おはよう御座います。おかげさまでぐっすりと」

「そう。魔石の回収状況は?」

「はい、順調なんですが今母船がいないので

倉庫がイッパイにならないか心配なくらいですね」


 冒険者は回収した魔石をギルドに売る。

ギルドに集められた魔石はすべて国が買い取っている。

国は回収した魔石を問屋に卸し魔道具屋や職人は

問屋から魔石を卸して貰うのが一般的だ。

薄利ではあるが国庫を潤す貴重な財源になっている。


 王妃の仕事は社交界で愛想を振りまくだけではない。

国王に次いで大きな権限がある立場だ。

それなりに実務がある。


 王妃が任されてる部分は国王が書類に目を通し、

問題がなければ承認のサインをする手順が取られている。

その権限を利用させて貰っている。


私やi886R909先輩の仕事は我々の息のかかった

問屋に正規の値段で卸すルートを確立、

そして調整、管理して我々の組織に魔石を流すことだ。


「思えば幽閉されてる間は楽だったわね」

「その分国王の負担が増えてたんです。

それを補佐する役人もきゅうきゅう言ってたので

結局私が呼ばれて仕事してたんですよ」

「そのおかげで魔石の回収も安定してたのよね。

マリアンがここに派遣されて本当に助かってるわ」


 私も先輩にひけを取らない才女である、と自分では思ってる。

飛び級を繰り返し大学院を卒業してこの調査団に派遣されたのは18才の時だ。

先輩が幽閉される1年前に王妃様専属メイドとして王家に雇われた。

先輩のふざけた圧迫面接が懐かしい。


「マリアンもいい男見つけたら?いい年でしょうに」

「じゃあ、もっと仕事量減らしてくださいよ」

「ふふ、お使いのついでに買い食いしたり、

いかがわしいファイル見たりしてる暇があるなら

デートする時間ぐらい取れるはずよ」

「も、もういいです!」


 先輩は週に1~2度は国王と夜を過ごす。

あんなことやこんなことしてるんだ。

いいなぁ。


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