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1-41  王妃マチルダの事情 その2 ニセのマチルダ

 話は我々がこの星を発見した頃にさかのぼる。


 我々の船が発見した新たな星系の第三惑星には住人が居た。

姿形は我々人類となんら変わらず、そしてある程度の文明を構築していた。


 潜入し持ち帰った住人の遺伝子サンプルを調べた結果、

やはり前史宇宙航行時代の移民の末裔である可能性が高そうだ。


 もっとも前史時代の記録など大規模な星間戦争により

ほとんどが失われてしまっているのであくまで予測でしかないが、

遺伝子パターンの解析では我々の遠い親戚であることが予想される。


「ふむ。数万年前の移民の子孫か。

移民時のテクノロジーは失われてしまったみたいだな。

ま、親戚かどうかは今となっては

完全に証明することはできないが否定も出来ないね」


 ボイパ船長がこの話は終わり、と言うように話題を変える。

「さて、この『魔石』の実験結果だがこれは凄いね。

星間連合の勢力図を塗り替えられるシロモノだよ。

コレを大量に安定供給できる手法を確立するのが我々の新たな任務となる」


 私は挙手して発言した。

「魔石はこの星の魔物と呼ばれる生物の体内で生成されることがわかってます。

魔物を大量に、しかも目だつ事なく狩る手段を探してみては?」


 計測班の一人が発言した。

「地上をサーチした結果魔石はある場所に集積されてるらしいですね。

例えばここです」


 衛星写真の一点にマーキングがしてある。

「この星の住民にとって魔物は危険な生物らしいです。

それを狩る専門の集団がいるみたいですね。

回収された魔石はここの施設に集められてるようです」


 船長がスクリーンの衛星写真を眺めながら言う。

「なるほど、ならばその魔石を買い取る正当な取引ルートを開拓する方法もあるな。

まずは集められた魔石がどのように利用されてるのか調査しようか」 


 計測班はこの世界の言語を解析し翻訳機にデータを蓄積し始めた。

インセクト・アイで集めた会話を元に語彙を増やしていく。

ある程度貯まったところで翻訳ソフトを開発。

調査員には脳内インストールが行われる。

寝ている間に知識だけを覚えさせる即席学習マシンだと思えばいい。


 調査班は冒険者ギルドと呼ばれる組織が

冒険者と契約を結び魔石を回収している事を突き止めた。

回収された魔石は魔道具と呼ばれる生活機器、

あるいは武器の燃料として使われているらしい。


「魔石のエネルギーを利用できるだけのテクノロジーが残ったってことなのかな?

不自然じゃないかしら」

私が疑問を口にすると調査班が答えてくれた。


「いいか、驚くなよ。これは技術じゃない『魔法』だ」

「からかってるの?」

「いや本当だ。

この星の住人の全員ではないが魔法を使える個体がかなりいるんだ。

魔法の定着化を魔石を利用して行ってるみたいだね」


 にわかには信じられないが信じるしかなさそうだ。


 船長が言う。

「ともかくギルド経由で魔石を買い取るルートも開拓すべきだな。

なにか良い方法を考えねばならん」


 計測班が騒ぎ出した。

「船長、スクリーンを見てください」

司令室にいた全員がスクリーンを見る。


 地上の様子をかなりアップで捕らえたリアルタイム映像だ。

森の中を抜ける街道の真ん中に馬車が横倒しになっている。

それを引いていた馬が数頭死体となって横たわっている。

数カ所で戦闘が行われていた。


「剣を振っているのは人間のようだが何と戦っているんだ?」

調査班が答える。

「魔物の一種ですね。

顔が豚のように見えるのがこの世界でオークと呼ばれている魔物です」


 見ると人間側は数を減らされている。かなりの劣勢だ。

倒れた馬車を守るように残った数名が剣を構えている。

オークは数で優勢だ。見えてるだけで10個体いる。人間は5人。

今3人殺されたから2人。


 二人が剣を振り回している間に他のオークが

馬車の中から一人の女性を引きずり出した。

オークはその女性を軽々と片手で持ち上げ地面に叩きつける。


 剣をふるう男が介入しようとしたが

振り向いた瞬間別のオークに羽交い締めにされ首の骨を折られた。

もう一人も奮闘むなしく殴り殺されていた。


「うっ・・・・」

私はスクリーンを見て吐きそうになった。

オーク達は殺した人間の服を引きちぎり肌に噛みつき始めたのだ。

「食べて・・・るの?」

「どうやらそのようだな」


 食事を終えたオーク達は森の奥に消えていった。

船長が計測班に指示を出す。

「おい、食われた女をアップにしてくれ」

主に内蔵を食われ絶命してる裸の女の上半身がアップで映し出された。

顔はほとんど傷がついてない。そしてこの顔は・・・。


「i886R909にそっくりだな」


 船長は何を思いついたのだろう。

地上に居る調査班に連絡を取っている。

「座標は送った。行けるか?なら急行してくれ。

女の死体を3Dスキャンして出来るだけ写真も撮ってきてくれ。

ほくろの位置まで詳細にな、頼んだぞ」


 地上班はたまたま近くの都市にいたため

1時間以内で駆けつけられるそうだ。

現場は今夕暮れ時だ。人通りはない。

「日が昇ると同時に人が集まり出す。それまでが勝負だ」


 調査班から連絡が入る。

どうやらこの馬車は貴族の娘が乗っていたらしい。

なぜ夕暮れ時に森を抜けようとしたのかは解らない。


 データが送られてきた。

「うん、やってみるか。i886R909号、命令だ。

この娘になりすませ」


 その瞬間船長の考えてることがわかった。

「しかしこの女の詳細な素性など不明な点が山ほどありますが」

「ショックで記憶喪失。これで押し通せ」


 ここまで無茶振りされると笑うしかない。

「いざという時の脱出ルートさえ確保できればやりましょう」

「よし、では細かな整形手術を行う。

基本顔はそっくりだからあまりいじる必要はないと思うぞ。

すぐにとりかかれ!」


 私は手術室に行き全裸になり全身を消毒してから手術台に横たわった。

欠損部分を予測で補った3Dデータに合わせて施術される。

驚いたことに予想肉体年齢はほぼ一緒だった。


 背丈や体重、3サイズもほぼ同じ。

顔のほくろを入れたり消したりすること以外は

あまりやることはなかったのだ。

施術はすぐに終わった。


 その後小型艇で大気圏に突入し現場に急行。

ちぎれかかった服も3Dデュプリケーターで再生済み。

適当に破って血糊を付着させる。


 娘の死体は回収した。

娘になりすました私は睡眠薬を飲み馬車の近くに横たわる。

この星の住人が通りかかるまで調査員は森の中で監視を続けた。


 最初に通りかかったのは娘の親が出した捜索隊だった。

私は眠ったまま貴族の館へと運ばれたのだ。

眠りから目覚めて名前を呼ばれた。

死んだ娘の名前はマチルダというのだそうだ。


 さてここからが腕の見せ所ね。

私の名を呼ぶ母とおぼしき年配の女性の顔を見つめ、言った。


「あの・・・・どちら様でしょうか?」

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