1-4聖女転生
私の名前は宇都宮ユカリ。年齢は29才。間もなく死ぬ。
死因は癌。
いたるところに転移してるので
元がどこだったかなんてもはやどうでもいい。
大学を卒業し就職してしばらくはそう忙しくもなかった。
土日祝日は確実に休めるし有給もバッチリ取れた。
ホワイトな企業に勤めることができてほんとラッキーだったと思ってた。
しかし数年たち部署を変わってからは生活が激変した。
同じ会社でこうも違うのか、と言うくらいの目が回る忙しさ。
そんな日々を過ごしてるうちに少しずつ体調が悪い方向へと変化しいく。
けだるい感じは睡眠不足から来るモノだろうし、
胃がキリキリ痛むのはストレスが原因だろうと思っていた。
そのたびに栄養ドリンクを飲んだり、あるいは胃薬を飲んで我慢してきた。
医者には行ってなかった。
血尿が出た時も先輩達から話は聞いていたしそんなに驚かなかった。
少し休めば元に戻る、と思っていた。
食欲が無くなり急激に痩せてきた時はさすがにやばいかな?
と思い、無理に半休を取って医者に行った。
精密検査を受け点滴を受けてその日は帰宅。
翌日検査結果を聞かされ即入院、闘病生活。
両親が呼ばれ私の病状を医者が説明した。
しばらくは単なる過労と聞かされていたのでそれを信じていた。
やり残した仕事が不安だったが、
上司が見舞いに来た際に体を治して早く復帰して欲しい、
今は心配するなと言ったのでお言葉に甘えることにした。
そして告知された。認めたくなかったが癌だった。
しかも転移が思いのほか速く、治る見込みは少ないと言われた。
例え少なくても治る可能性があるなら治療してください、と医者に告げた。
ただ漠然と自分が死ぬはずが無いとも考えてたので治療に賭ける事にした。
結果は無駄だった。
もはや手の施しようがなかった。
どうしてこうなった?
今病院のベッドの上で思うことはいろいろある。
後悔先に立たずとはよく言ったもんだなぁ。
今となってはすべてが手遅れなのでもうどうでもいいけど。
もし生まれ変わることが出来たらもう一回自分をやる?
嫌だ。痩せ掘り骨に皮がひっついてるだけの手を眺める。
うん、嫌だ。
放射線治療の影響で無惨に髪が抜け落ちた頭を触ってみる。
絶対嫌だ。
鏡に映ってるのは・・・映っているのは。
手鏡をサイドテーブルに伏せて置いた。
こんな鬱々とした気分で死ぬのはもっと嫌だな。
私の人生嫌なことばかりだったろうか?
楽しい事だってあったよね。
覚えてる限りの楽しかった事を思い出そうとするが
真っ先に思い浮かんだのは仕事の事だ。
成果が出たときの達成感、上司やクライアントに誉められた時の高揚感。
あれ?他には?私って仕事しかやってこなかったの?
そんなわけないじゃん。
他にほら、もっとこう、あるでしょう!
あ、あった。
そうだ、私たった1年程度だったけど結婚してたんだ。
別れ方が最悪過ぎて記憶から消し去ってたわ。
部署変わりをして仕事がハードになってすれ違いが多くなり、
どうでもいい理由で口げんかが増えて会話もなくなりそして離婚。
仕事に専念できるようになってむしろせいせいしてたんだった。
でもね、もちろん好きだから結婚したのよ。
結婚後半年位まではそれなりにラブラブで幸せな新婚生活送ってたのよ。
思い返せばすれ違いが多くなったのは私の都合。
いつも仕事のことばかり考えてイライラして険悪な雰囲気を作ってたのも私。
例えば子供作って会社辞めて専業主婦って道もあったはずなのに、
なんだかそれは逃げのような気がして仕事頑張っちゃったのも私
ああ、そうか。そうだったのか。
全部私のせいだった。
謝りたいな。彼に。
久しぶりに共通の友人に彼が今何してるのかメールで聞いてみた。
返信は短く『彼亡くなったよ。知らなかったの?』だった。
慌てて電話し、詳しく教えて貰った。
会社帰りに交通事故に巻き込まれたそうだ。
葬儀に出席した友人は私の姿が無くても、
離婚した旦那の葬儀には普通来ないだろうと思い、
当時私に連絡しなかったそうだ。
私より先に死んじゃったんだ。ショック大きいな。
あの世に行ったら会えるかな。いや、無理。
会わせる顔がないとはまさにこのこと。
病室の白い天井に向かって絶対に届かない
謝罪の言葉を口に出して言ってみる。
「ごめんね・・・・カイト・・・・」
~~~~~
だんだん意識が保てなくなってきた。
透明で濃密な液体の中に閉じこめられ少しずつ
圧迫感が増してくるような感覚。
ああ、もう間もなく死ぬんだろうな、
と思った瞬間突然意識がはっきりした。
なんだこれ?不思議に思っていると、
スーツ姿で中肉中背の中年男性が病室に入ってきて
話しかけてきた。
「宇都宮ユカリさんですね?初めまして、私鈴木と申します」
「・・・・・ど、どうも」
誰だろう。
「えー、私この度ヘッドハンティングに参った次第でございましいて」
ニコニコしながら鈴木とやらが言う。
頭おかしいのかな?
誰がどう見ても死にそうな人間をヘッドハンティング。
はぁ。
「あなたは間もなく死にます。
その後の話なんですよ、ヘッドハンティングは。
通常通りですと死後、この世界で輪廻転生します。
しかしあなたの場合は予定されてなかった死を迎えるわけでして。
いやいや、あなたに非があったわけではないんです。ちょと上の方の
ごたごたに巻き込まれたというか、そんな感じです」
なに・・・・言ってるんだろ・・・
「わかりません」
「はい、当然ですね。ふふっ」
え、今の笑うとこ?
「要は我々の世界に転生していろいろお手伝いをしていただきたいんですね。
通常よりも良い待遇でお迎えいたします。
まずはあなたの同意が必要です
詳しい説明は死後いたします。
いかががいたしますか?」
なんかのいたずらかな。
ドッキリとか。
まあ面白そうだしいいか。
「同意するわ」
再び意識が重くなりあたりが真っ暗になり何も聞こえなくなって・・・
気がついたら白い部屋に居た。
ここが死後の世界か。白い部屋?空間?
すると突然目の前の空間がドアのように開いた。
お入りくださいというアナウンスに促されてドアをくぐるとそこは殺風景な
会議室のような部屋だった。
折りたたみ式のテーブルの向こうにさっき会った鈴木が座っている。
「どうぞおかけください」
背もたれの裏側がちょっとへこんでるパイプ椅子に座った。
~~~~~~
一通り鈴木の説明を聞く。
「うーん、わかったようなわからないような。
要はそっちの世界で生まれ変わる。
前世の記憶を持ったまま。
特典として魔法が使える、だっけ?
いろいろインチキっぽいんだけど
信じるしかなさそうなので信じるわ」
「ありがとう御座います。
そしてあなたのジョブですが。
聖女というポジションですね。
癒し系の魔法はLV・EXですので余裕です」
「EXってチートすぎじゃない?」
「最初からEX全開で使えるわけじゃありません。
ある程度あちらの世界で訓練して到達出来るレベルが限定解除、
という意味なんです」
「なるほど。自分の頑張り次第ね。
まあいいわ、あとは現場で試行錯誤した方がよさそうね。
で、聖女になったら傷ついた人々を癒しまくればいいのかな?」
「基本あなたが救いたい方を救えばよろしいのですが、
大きな目的が一つあります。
勇者とパーティを組んでをサポートしてください」
・・・・・勇者?
「まさか魔王を倒して世界を救うとかそんなベタな展開じゃぁ・・・」
「そのまさかです」
「あはは、わかりやすくて助かるわ」
なんか久しぶりに笑った気がする。
よくわからないけど、どうやら転生するらしい。
もう一回人生やるのか。
まあ、今生・・・前世?が、わずか29年だったので
語れるほどの人生をすごしていないのだが、
それなりの教訓は得ているに違いない。
次は若死にしないように頑張ろう。
うん、ちょっとワクワクしてきた。
説明が終わり会議室を出るとそこは・・・・・・