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1-39  クレイグと魔人の国 

 俺の立場は国王の補佐だ。

次代の国王である俺がついて回り国王の仕事をつぶさに観察する。

なんの不自然さもない。


 だが実際の所俺が直接任されている案件はそんなにないのだ。

決定権は国王にあるし俺はただもっともらしい意見を述べて賛成、

あるいは反対するだけのポジションなのだ。


 王の執務室での定例報告はここのところ重要さを増してきている。

アレックスは仕事が増えきゅうきゅう言ってるが知ったことか。

お前はこのまま運命に翻弄されておけ。


 国王がアレックスと打ち合わせを続ける。

「各国との安全保障条約の調印はどうなっている?」

「はい、父上。前回の打ち合わせ通りに各国の大使と連絡を取り合っているのですが

、反応がにぶい国がいくつかあります。

大使も連絡が遅くなっているので困っているみたいですね」

「原因はわからんのか」

「目下調査中であります」


 それはな、各国に潜入している魔人部隊の暗躍のおかげだ。

もちろんそんなことは言えないが。

その後予定の打ち合わせをしてお開きとなった。

さて、俺は俺でしっかりと『暗躍』しないとな。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 魔人部隊との定例会を行う場所は定期的に変えている。

基本的には繁華街が多い。

木を隠すなら森に隠せ、の理屈で人が多い場所の方がかえって目立たずにすむ。

今回は居酒屋の一室を借りている。


「反政府組織の編成はどうなっている?」

俺は本国から連れてきた副官のニナ・ノヴァクに尋ねた。

「少しずつですが人数は増えております。

意外とこの国の体制に不満を持つ者は多いですね」


「例えばどんな連中だ?」

「爵位を取り上げらられた元貴族、没落した商家や豪農とその末裔などです」

「気取られてないだろうな」

「いえ、しょせんは間抜けな人間共です。国に感づかれて戦闘になってるケースもありますね」

「ほう。どうやって処理してる?」

「口を割られる前にこちらで処分してます。敵ごと」

「大変よろしい」


 各都市に潜ませた支部隊の報告が続く。

順調のようだな。


「諸君らの活動はすべて記録している。正式な書類として本国に送るぞ。

ここで手柄を立てて出世して欲しい。諸君らの奮闘期待する」

「「「「「はっ」」」」」


 全員が怪しまれないように時間差で居酒屋の個室を出て行く。

最後に残ったのは俺とニナ・ノヴァク上級尉官だ。

ニナは最後の部下が出て行くとドアの鍵をかける。

長椅子に座っている俺の隣に腰掛け、俺の肩に頭をもたれてきた。

「ねぇ、もういいわよね?」

「ああ、俺たちだけだ」

長いキスのあとお互いの服を脱がせあった。


♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡


 ニナは姓のある家系の出だ。

だが髪の色では一族共に苦労している。

本来なら姓のない俺など格下に見られるのだが、

ニナの家族は皆好意的に接してくれている。


 俺が出世を果たしルド王国への任務が決定した時、

家に俺を招いてパーティーを開いてくれた。

幼い頃に両親と死に別れた俺にはとまどうほどに幸せな一時だった。


「クレイグ、魔王様のご様子は聞いてるの」

ニナは身支度を調えながら聞いてきた。

「ああ、肉体を手に入れたが馴染むまでもう少し時間がかかるみたいだな」

「今までは精神だけの存在だったのよね。想像つきにくいわね」

「だが俺たち魔石持ちはその強大な存在を感じ取れるだろう」

「そうね、怖いほどの圧迫感だったわ」

「ニナは感受性が豊かだからかな。ところで別の調査任務は?」


 この国では金髪が主流なのでニナは自由に街を歩いている。

変装する必要がないのだからこの任務にはうってつけだ。

 

「ええ、食生活の調査が仕事になるだなんて本当にいいのかしらって思うわ」

 美味しい物を食べ歩いてるみたいだな。

「ちょっと太ったんじゃないか?」

「な!そんなことは!」

「嘘だよ」 

ポカポカと肩を殴られる。

さて、身支度を調えたら俺も城に帰ろう。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 王城内では変わった動きはないようだが警戒と観察は続けなければならない。

最近は王妃の動きが活発だ。

軍人や高官を招いてのお茶会を頻繁に開催している。

一度俺も北の塔でのお茶会に参加した。

庭園の芝生で花を愛でながらの雑談だった。


 意外だったのはモルガノ・ド・ブラン将軍が

薔薇の品種改良に力を入れている事だった。

彼の領地クルトフは薔薇の栽培が盛んに行われている

香りを抽出する技術を確立してるため

薔薇のフレグランスが特産品となっている。


 お茶会では嬉しそうにウンチクを披露するその姿は

無骨な軍人らしさなどかけらも感じさせない、

単なる薔薇好きのオッサンだった。

集まったメンツは軍人がやや多かったのが気になるところだが、

王妃の権限などたかが知れている。

彼女は直接軍を動かす権限など与えられていない。

当面は心配ないだろうな。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 今日の執務室会議では『謎の反政府組織』が議題にあがった。

軍務調査室の報告を聞く。

奇跡的に生還した兵士から報告を受けたそうだ。

敵は強力な魔法を使う。フードマントをかぶっていたので

顔は確認できなかったそうだ。

報告をした兵士は治癒もむなしく報告後絶命したそうだ。


 国王が命じた。

「その兵は二階級特進で処遇せよ」

「ありがたきお言葉。兵も浮かばれます」


 敵ごと殲滅したと言っていたがしぶといのが一匹いたようだな。

だが報告を聞く限りでは重要な部分は漏れていない。


 国王が俺に話を振ってきた。

「クレイグ、お前はどう思う?」

「そうですね、今のところ決定的な情報が何もないんですよね。

だが念のため王族、貴族の護衛は数を増やした方が良いのでは?」

「そうだな。各貴族は自前で増やせるだろう。

文官など重要な位置にいる役人も対象にしたほうがいいだろうか」


「いや、そこまでやると返って警戒されるでしょう」

「ではそうしよう。

クレイグ、マチルダ、アレックスの三人は護衛を増やしてくれ」


 余計な監視が増えたか。

まあいい。事態は面白いように我々に有利に動いている。


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