1-33 聖女、王都へ行く その1
出張から帰ってきたカミーラさんにおずおずと尋ねてみた。
「王都ってどんなところなの?」
「ウーファの街も大きいけどもっと大きいわ。
教会も大きくて立派な建物がいっぱいあって人も大勢いるわね」
「そっか、中央教会に行ってたんだっけ」
「そう。ここはシスター見習いが20人くらいでしょ。
中央は就学年齢のシスター見習いだけで30人のクラスが4つあるの」
「120人!すごいね!」
「15才以上の人も入れるともっと居るでしょうね」
カミーラさん、なにか良いことがあったのかな。
こんなにおしゃべりに付き合ってくれるなんて珍しい。
「ん、なに?」
「いや、なにか良いことでもあったのかなーって」
「うん、友人に会えたわ。ほんの少しの間だったけど」
「そうなんだ、良かったね!」
いるんだ、友人。
って、失礼だな私。
それからカミーラさんはレポートを書き始めたので
私も勉強をしてその日は就寝。
もっと仲良くなれたらいいな。
~~~~~~~~~~~~
助祭が司祭室で報告をしていた。
司祭は助祭が預かってきた書類に目を通している。
「ふむ。セシリア嬢を中央によこせと言ってきたな。予想通りだ」
「いつ頃の予定ですか?」
「今月中には王都についてないとまずいな。
来月の頭には定例祭があるからそれに間に合わせたいのだろう」
定例祭は毎月最初の日曜日に行われる大規模なミサだ。
貴族や王族も集まる。
ここでセシリア嬢を当代の聖女見習いであることを
印象づけて教会の影響力を増す考えなのだろう。
「私はこちらのミサを取り仕切らねばならないからな。
一緒に王都入りしたいのだが。また旅になるがよろしく頼むぞ」
「かしこまりました」
助祭は司祭室を後にした。
シスター・サーラに話をして時期を決めなければならない。
引っ越しになるだろうし馬車の数も増やした方がいいだろう。
護衛にはまたカミーラ嬢を連れて行くつもりだ。
~~~~~~~~~~~~
シスター・サーラから呼び出された。
内容は簡単に言うと王都の中央教会に所属を移す事だった。
もちろんオッケー!
その日は引っ越しの準備もあるし一度家に帰っても良い事になった。
「ただいまー」
週末ごとに帰ってきてるから懐かしいという感覚はない。
「あれ?鍵がかかっている。出掛けているのかな?」
しばらくしてお母さんがドアを開けてくれた。
「あら、セシリア。お帰りなさい。まだ週末じゃないわよ?」
「うん、ちょっと報告があって。あれ?お母さん顔赤いよ?大丈夫?」
「な、なんでもないわよ。今お茶いれるわね」
「う、うん・・・・」
居間に入るとお父さんがソファーに座って本を読んでいた。
「お父さん仕事は?」
「うん?ああ、き、今日は早上がりでな」
見るとシャツが着崩れてるし髪も乱れてる。
ははーん、そう言うことかー。
私が居ないのを良いことに夫婦円満ですかそうですか。
私は自分の部屋に行き持って行く物をまとめる。
シーツや修道着の着替えとかはあちらで新しいのを支給してくれるそうだ。
プライベートで着る服や下着は自前で用意しなければならないが、
王都にはお洒落な服屋さんがいっぱいあるみたいだし、
女性の下着専門店まであるんだって。
お給金は使わずに貯めておいたので、王都で時間が出来たら買い物しよう。
すごく楽しみ!
そう考えるとあまり持って行く物はないな。
さて、両親に報告しなきゃ。
「と言うわけで王都の中央教会に所属が替わりました。
今週中に王都へ行きます」
お母さんがニコニコしてる。
「あなた、それどういう事かわかってるの?大事件よ!
中央教会で働いた実績があれば貴族からも
お見合いの申し込みが来てもおかしくないわ。
大変、私もお作法を勉強しなおさなきゃ」
父があきれている。
「かーさん、落ち着いて。セシリアはまだ14才だぞ?」
「なに言ってるのおとーさん。もうすぐ成人なのよ。
イイオトコ争奪戦は既に始まっているのよ!」
父は首をすくめ両手のひらを上に向け、ヤレヤレのポーズ。
「ま、まあお母さん。まだ就学年齢だしそんなに慌てさせないで。
それに王都に行ったら素敵な出会いがあるかも」
「そうね。王都で貴族様から求婚されるかもしれないわね!素敵!」
駄目だ、完全に舞い上がってる。
「じゃお父さん、後よろしくでーす」
さっさと教会に戻ろう。
~~~~~~~~~~~~~~~
気になること2点、その1。
カミーラさんとは順調に仲良くなれてる、と思う。
一緒に王都入りするみたいだし、嬉しいな。
それともう一つの気になること。
1000年前の勇者の呪文だ。
図書室の司書さんは色々と教えてくれた。
研究本を読むことも勧めてくれた。
数多くある勇者の研究本の中には
この呪文の部分だけに的を絞った論文も数多くある。
しかしどれもこれも目新しい情報はなかった。
現存する呪文の書き写しは最初に私が読んだ以上の
文字が入っている物はなかったのである。
私は図書室にも最後の挨拶に行った。
「セシリアさん大出世ですね。おめでとう御座います」
年配の女性司書さんが祝福してくれた。
「そうそう、王都へ行くのなら暇を見つけて王立図書館へ行きなさいな。
あそこは人類の英知が集結してると言われてるの。
もしかしたらお目当ての書籍を探せるかもしれないわね」
「王立図書館ですか。それは楽しみです!」
「でも一般人は立ち入り禁止なの。教会の有力者は入館を許可されるので
まずあなたは図書館に入れる権利を手に入れるところから始めなきゃね」
司書さんは手元の便箋にサラサラと何か書き始めた。
「これは私からの紹介文。中央教会の図書室にいる司書さんに見せれば
あちらの図書室でも便宜を図ってくれると思うわ」
「これは素敵な餞別ですね、ありがとうございます!」
お母さんには口から出任せで貴族との出会いがー、とか言っちゃったけど
もし出会ったら真っ先に王立図書館への入館をお願いしなきゃ。
色恋はその後よ。