1-31 スフィーアの生き残り その4 エリック、カミーラと出会う
午前中に助祭一行は司教に面会をする予定だったが、
司教様は急な会議が入り面会は午後の予定に変更された。
助祭は待機室で待たねばならないが、
カミーラは思わぬところで自由時間ができた。
教会内なら護衛の必要はない。
冒険者ギルドでエド達の情報を聞いてみよう。
数日前から王都入りしているとの話はエドからの手紙で知っている。
ギルドに行き冒険者カードを提示する。
一応カミーラも冒険者登録だけは済ませてあった。
A級冒険者のエドならよほど特殊な依頼をこなしているのでなければ、
どんな依頼を受けているのかは教えてくれる。
「えーと、パーティ名『常に優しい狼』のエドさんですね。
昨日はパーティメンバーが分かれて依頼をこなしてましたよ。
今日はまだ来てないです。そろそろ来るんじゃないですかね」
受付のお姉さんが教えてくれた。
カミーラはロビーで待つことにした。
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ウィリーとギルバートは受けた依頼でひどい目に遭ったようだ。
ボアに撃たれた小石で二人とも顔に青あざが出来ている。
それでもボア二体をやっつけるなんてさすがだ。
エドとシェリーは疲れていたのか口数は少なかった。
俺が知り合いになった老人が探している人なのかどうかは
明日のミーティングで尋ねるとしよう。
アケミはウサギとボアの肉を満喫し、
おなかがふくれたらさっさと寝てしまった。
俺も疲れていたし魔法と剣の練習を一通りこなして寝てしまった。
~次の日~
「おはよう、エリック。疲れは取れたか?」
先に起きていたエドが声をかけてきた。
「おはよう、エド。ところでエド達が探していた人なんだけど」
「ああ、見つからなかったよ。王都の広さをすこしなめてたな。
まあそっちはプライベートの話だしパーティには迷惑かけない程度に探してみるよ」
「うん、実は俺が昨日会った老人なんだけど名前がロウさんだったんだ」
エドが俺に向き直り真剣な眼差しで聞き返してくる。
「なに?どんな老人だった?特徴は?」
「えーっと、背丈は俺くらいかな。
見た目は老人だけど背筋がシャキっと伸びてて
かくしゃくとしてたよ」
「髪とか髭は?」
「髪は短く刈り揃えた白髪。髭はなかったよ」
エドは腕組みして何かを考えてる。
「うん、俺たちが探してる人物かどうかはわからないが可能性はあるな。
どんな経緯で知り合ったんだい?」
俺は昨日の状況を説明し、
たまに空の魔法を教えて貰うために
家の場所も聞いたことを伝える。
「ありがとうエリック。
今日の依頼をこなしたら夕方一緒に行ってくれないか?」
「もちろんいいよ」
皆が食堂に集まりだした。
朝食を取ってからギルドに行く。
今日は皆で出来る依頼があれば受けるつもりだ。
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ハリエク・ロウ老師は日課である朝の散歩に王城の門前広場にやってきた。
今日も勇者の剣は掴めなかった。
衛兵はニコニコ笑いながら言う。
「もう最近はじいさんと立ち話するのが唯一の楽しみでね」
「昼間は人はこないんかの?」
「多少は来るよ。だが一目で冷やかしとわかる連中ばかりだよ」
「そうかい。ま、ワシもその一人じゃがの」
世間話をしていると門が開いた。
嫌な気配を感じた老師は衛兵にお礼を言い足早に広場を立ち去る。
建物の陰から門を見るとクレイグが
取り巻きを連れて馬に乗って出てきた。
「奴め。堂々としたもんじゃの」
精神操作の大規模魔法を仕込んでいるのはわかっているのだが、
本体は王城内にあるらしいし、今のところ手出しはできない。
「そろそろなにか動きがあってもよさそうなもんじゃが。
クレイグの部下の動きも探らないとのう」
老師は一度長屋に帰ることにした。
昨日会ったエリックとかいう若者を仕込めば
勇者の剣を掴み取ってくれるだろうか?
「ふうむ。あの間抜け面ではあまり期待できんじゃろうて」
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「へっくしょん!」
「エリック、風邪か?」
エドが聞いてくる。
「いや、誰かが俺の噂してるんだろ」
「なんだそりゃ?迷信か?」
「うん、そんなようなもん」
俺たちは連れだって冒険者ギルドへ向かった。
ウィリーとギルバートは無理しなくても良いのに
青タンこさえた顔面で依頼をこなすそうだ。
「ねぇねぇ、私は今日はなにをすればいいの?」
アケミがエドに尋ねている。
「依頼を見てみないとわからないが、まだ見学扱いだな。
おいエリック、ちゃんと面倒見ろよ」
「えー」
「えー、じゃないの。
リーダーの命令なんだからちゃんとアタシの面倒みなさい」
「むー」
「むー、じゃないの。
私がオカネ貯めない限り一生つきまとう事になるわよ」
ウィリーとギルバートがにやにや笑っている
「「いいねえ、若いって」」
むー。
ギルドに到着した。
依頼の張り紙を見ようと掲示板に行く。
するとロビーで本を読んでいた女の子が立ち上がりエドの袖をひっぱった。
二人はハグしてる。
女の子は次にシェリーとハグをした。
「すまん、ちょっと依頼を見ていてくれ」
そう言うとエドは女の子とシェリーを連れて
ロビーのテーブルに行ってしまった。
「ねぇねぇ、エリック。あの女の子誰?」
「いや俺も知らない」
「そうなんだ。お人形さんみたいにかわいいね」
栗色の髪をツインテールにしたその女の子は
年の頃、俺と同じくらいかな?
「ところでエリック、今日は大きな依頼はないわね」
「うん?あるぞ。これなんか人数揃えなきゃできないだろうな」
二級街道の魔物掃除だ。
周辺都市、街や村をつなぐ導線の安全確保は
ここのところ重要な依頼となっている。
報償は安いが国の仕事なので取りっぱぐれる事はない。
回収した魔石は取った者が所有権を主張できるので
F級からC級冒険者にとっては人気のある依頼だ。
だが時折予想外の中型、大型の魔物が出るので
数名はB級以上の冒険者を入れたチームを組むのが一般的である。
すなわちウチが受けるのには最適な依頼だと言えよう。
エド達が立ち上がった。話が終わったようだ。
「おい、みんな来てくれ」
ロビーに皆が集まる。
「俺とシェリーの友人、カミーラだ。教会で働いてる」
「みなさんはじめまして、カミーラです」
俺たちもそれぞれが名前を言い自己紹介をした。
ギルバートが気を利かせて提案する。
「そういうことなら今日の依頼は俺たちだけで行くぜ?」
「いや、カミーラはそろそろ教会に戻らなくてはならないんだ。
皆で依頼を受けよう」
カミーラは手を振って冒険者ギルドから去っていった。
アケミがまた俺の脇腹をつっつく。
「なんだよ」
「ねぇねぇ、友人って言ってたけどそれ以上に親しげに見えたわよ。
どんな関係かな?」
「だから詮索するなって。
エドが友人と言ったら友人なの。
それでいいじゃん」
「ふうん。カミーラさんすごくかわいかったから
もっと興味を示すと思ったのに」
「そんなワケないだろ」
アケミは気がついてないみたいだな。
だが俺にはわかる。
さりげない身のこなしに俺たちとの物理的な距離の取り方、
それに視線。
そうとう修羅場をくぐってる印象を受けた。
確かに興味をそそるが、アケミにも釘を刺した手前詮索する事は出来ない。
ま、そのうち色々わかるでしょ。