1-29 スフィーアの生き残り その2 エリック、老師と出会う
依頼主の牧場までは小一時間で到着した。
俺たちは牧場主に牧草地帯まで案内された。
「見てくれ、穴ボコだらけだ。
草食いに来た牛がはまっちまって大変なんだ」
確かに穴ボコだらけだな。
「わかりました、出来るだけ狩りますよ」
アケミが柵の辺りを指さす。
「あそこにいる。あ、アッチにもいる!かわいい!」
「おいおい、愛玩動物じゃないぞ、害獣だからな」
「えー」
「えー、じゃないの。
冒険者になったらウサギくらいサクっと殺せるようにならないと」
「むー」
「むー、じゃないの。
ウサギの肉って柔らかくておいしいんだぞ」
「ほんと!じゃあイッパイ狩るね!」
食い気優先なんだな。助かった。
早速アケミが脅威の身体能力でウサギを追い回す。
最初は逃げられてばかりだったがだんだん
ウサギの跳躍を見切れるようになってきた。
「お、タックルした」
草むらから起き上がったアケミは満面の笑みで
ウサギの耳を掴み上げていた。
「やるじゃん。俺もがんばらないとな」
~30分後~
ぜいぜい。全然捕まらない。
アケミはすでに5羽くらい狩ってるな。
「エリック、魔法使えるんでしょ?楽しなさいよ」
いや解ってるんだけどね。
風にしろ炎にしろ水にしろ土にしろ、
俺の魔法は物理的に強力すぎるので
ウサギをほぼ無傷で捕らえるのはかえって難しいのだ。
傷が付いたウサギの皮は買いたたかれるのよ。
少しでも高くさばければアケミの借金も早く返せるだろうという俺の気遣い。
依頼こなしただけじゃ報償なんてあまり高くないE級依頼だからね。
あ、そうだ。、空を使えばいいのか。
ボケーっと草を食ってる奴の背後に現れてひょいって・・・・
「駄目だ、また逃げられた」
ウサギめ。勘が良いな。
「ほっほっほっ、お若いの、あんたアホの子か?」
「うおっ!びっくりした!じいさん、どこから現れた?」
「あんた空使いじゃろ?ならこうしてみ」
突然現れた老人は自分で作り出した空間に腕を突っ込む。
空間から引き出した手にはウサギが耳を捕まれてぶら下がっていた。
俺はがばっ!と土下座し、
生きているウチに一度は言ってみたい名台詞第69位を叫んだ。
「弟 子 に し て く だ さ い !」
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平民街の長屋、と言っても王都は広い。
中央区画の貴族や金持ち商人が住む区画以外は
ほぼすべて平民街と言っても過言ではない。
エドとシェリーは魔道具屋を中心に探して廻ったが
見あたらなかった。
翌日皆と一緒に依頼をこなすつもりだったが、
無理を言って老師の捜索に出てきた。
不動産屋で長屋の場所を尋ねてみたが
長屋なんてたくさんありすぎて手がかりにならない事が判明した。
それでもあきらめずに日が暮れるまで
平民街の長屋を見つけては聞き込みをして廻った。
が、手がかりは皆無であった。
「手がかり無しか、さすがに王都は広いな。
姫様、今日は帰りましょう」
「エド、誰に聞かれるかもわからない。
二人だけの時も呼び捨てにしてって言ったでしょ」
「・・・すまん。帰ろう」
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助祭一行は無事中央教会へ到着した。
途中森の中で賊に襲われた。
5人いたがすべてカミーラが息の根を止めた。
実際に戦闘したのは3人。逃げた2人は追いかけて殺した。
情報を持ち帰られては困るのだ。
襲ってきたのは単なる物取りではない。誰かに雇われた殺し屋の類だが
相当カネをけちったのか程度の低い盗賊崩れだった。
おそらく本気でこちらを殲滅する気はないのだろう。
単なる嫌がらせだ。
問題なのはこんな嫌がらせをしているのが同じ教会内の他派閥である事だ。
具体的には誰の指示なのかはわからない。
賊を尋問しても本当の依頼主など知らないだろう。
助祭一行はいつものことなので馬車の中でおとなしくしていた。
「終わりました」
カミーラが報告をすると
何事もなかったかのように馬車は動き出した。
到着したのが夕方であったため、司教に会うのは明日になった。
カミーラは中央教会内にあるシスター見習いが使用する寮の一室を与えられ、
そこで休むように指示された。
狭い部屋だが一人部屋だ。
ここは街の喧噪も聞こえてこない巨大な教会の敷地内にある寮だ。
いつもなら同室のセシリア嬢が隙あらば話しかけてくるので、
勉強するフリをしてしのいでいた。
ここは待望の一人部屋。
静かな環境を望んでいたはずなのだが。
「静かすぎるのもかえってさみしいわね」
不思議と鬱陶しい同室の女の子が急に懐かしくなってしまった。
帰ったら少しおしゃべりに付き合ってあげよう。




