1-28 スフィーアの生き残り その1 バッグの作成者
アケミの冒険者登録を済ませ、不動産屋で借家を探す。
それなりに部屋数の多い物件は値段も高かった。
エドが俺の顔を見て言う。
「なあエリック、もうシェリーとアケミとお前の三人は同室でいいよな?」
「えー。おれのプライバシーは無視?」
「だってシェリーはお前と寝たがるしアケミはお前がカネで買った女だろ」
「う、合ってるけどもう少し柔らかい表現にしてよ」
ウィリーもギルバートもにやにや笑っている。
「「いいねえ、若いって」」
ユニゾンかよ。
不動産屋を数軒廻り借家を決める。
王都の中心部からかなり外れた場所にある元商人の屋敷だった物件だ。
地の利があまり良くないため比較的安く借りることが出来た。
部屋数もそれなりに多いので皆それぞれの部屋を確保することが出来た。
良かったね、俺。
受け渡しは明日なので今日の午後は自由時間だ。
ウィリーとギルバートは飲みに行ってしまった。
俺はアケミの足りない生活用品を買いに商店街へ行くことになった。
エドとシェリーも一緒だった。
『魔道具店』という看板の前で皆が立ち止まる。
「魔道具屋?なの?なにが売ってるんだろ」
俺の問いにエドが答える。
「以前説明した空間収納バッグもこういう店で売ってるんだ。
後は魔石を利用した明かりとかオーブンレンジとか、かな」
「へー、面白そう。見ていこうよ」
「おう、いいぞ」
皆で店内に入る。
いろんな道具が所狭しと並んでいた。
前世で見かけた古道具屋のような雰囲気だな。
エドがバッグをじっと見ている。
「これまだ新しいな。店主、これは入荷したばかりなのか?」
「へい、左様で」
「と言うことはこの辺に制作者がいるってことかな」
「あまり詳しくは教えられませんぜ。
腕の良い職人なんで他の店に取られたくないんでさ」
「そりゃそうだよな。ちょっと触っていいいかい?」
「へい、ご自由に」
エドは肩掛けタイプのバッグをいじり始めた。
中学生の学生鞄みたいなタイプだな。
「シェリー、ちょっと来てくれ」
シェリーがエドと一緒にバッグを見る。
お互い顔を見合わせた。
「この紋章は・・・・」
バッグの裏側の隅になにか家紋?のようなマークが小さく書いてあった。
「店主、このバッグの制作者を教えてくれないか?
いや、無理言ってるのはわかってる。これで」
店主になにか握らせている。おカネだろうな。
「お客さん、困りますよ。
さっきも言いましたが人には知られたくないんで」
さらに握らせる。
ちらっと見えたが今の金貨だよな?
「勘弁してくださいよ。うーん、困ったな。
他言しないって約束してくだせぇ」
「もちろんだ」
「これはとある老人が持ち込んでくるバッグなんです。
名前はロウさん。平民街の長屋に住んでるっていってましたが
詳しい場所は解りません。
いつもロウさんが気まぐれで不定期に持ち込んでくるので」
「それだけ解れば充分だ。ありがとう」
俺たちは店を出た。
「なあ、エド。さっきの話なんなの?」
「ん?ああ、ちょっとした知り合いかも知れないんでね。
俺とシェリーはちょっと探しに行ってくるよ」
「わかった。じゃあ俺はアケミと買い物だな」
「じゃあ宿で」
「了解」
エドとシェリーは連れだって足早に行ってしまった。
アケミが話しかけてきた。
「ねぇねぇ、エリック。怪しくない?」
「なにが?」
「にぶいわねぇ。なにか隠してるわよあの二人」
「それくらい俺だってわかるさ。
こういうときは詮索しないのが大人のマナーなの」
「ふん、年下のくせに」
「前世との年齢を合わせると40過ぎてるんだぞ」
「あ、そっか。中身はオッサンなんだっけ」
その後商店街をぶらつき雑貨屋を見つけて
アケミが欲しがる物を買ってやった。
「ごめんね、オカネ使わせちゃって」
「気にすんなよ。あとで稼いで返してくれるんだろ?」
「そう!それなんだけど。冒険者って稼げるの?」
「腕次第だな。アケミは登録したばっかりだからF級冒険者だ。
だが、その腕っぷしがあればC級ランクの依頼も
こなせるんじゃないのかな」
「ふーん、良くわかんないけど」
「まだ時間あるしもう一度冒険者ギルドに行って
チュートリアル読んだほうがいいな」
俺たちは再び冒険者ギルドに行く事にした。
次の日。
引っ越しと言っても一回で運べる最低限の荷物しかない。
かさばる物はシェリーのバッグに収納してある。
部屋の割り振りをしてから簡単な掃除をする。
まだお昼まで時間があるな。
「エド、今日はこれからどうするの?」
「ああ、日帰りで出来る依頼をこなそうと思っていたんだが」
「いいね、アケミの訓練がてら簡単な依頼受けてみたいんだけど」
「よし、エリックはアケミと組んで簡単な依頼をこなしてくれ。
ウィリーとギルバートは肉が取れる依頼を頼む。そろそろ在庫がない。
すまんが俺とシェリーは人捜しをさせてくれ」
どうやら昨日は探せなかったらしい。
エドとシェリーを除く俺たち4人は冒険者ギルドに行った。
ウィリーとギルバートは中型の魔物討伐依頼を探して
受付にカードを持って行った。
さて、俺たちはどうするか。
「お、これなんかいいんじゃないか?」
郊外の牧場で野ウサギが増えすぎたので間引いて欲しいとの依頼。
E級依頼だけどアケミなら余裕だろう。
王都の門まで4人で移動。そこから二人づつのパーティに分散した。
さて、ウサギさんを狩りに行きますか。