1-21 勇者、王都へ行く その3 エリック、アケミを買う
エリックくんの『成人式』はまだ先・・・・なの?どっち?
もろ日本人じゃねぇか。
いや、偶然日本人っぽい名前のアジア人っぽい外見だけなのかも。
「どこの国出身なの?」
「東の・・・・島国よ」
警戒してるな。
だがストレートに聞いてみよう。
「なあ、間違ってたら申し訳ないんだが。お前日本人だよな?」
アケミは薄い目をやや大きく開き俺を見つめた。
「日本・・・という単語を初めてこの世界で聞いたわ。
むしろコッチが聞きたいわね。どこで知ったの?」
「その前にお互い秘密厳守という約束をしないか?」
俺は黙って右手の小指を突き出した。
アケミはおずおずと自分の小指をからめてきた。
「わかった、約束する。
ところで指切りゲンマンってこの世界でも普通にやるの?」
「いや、やらないな」
「じゃ、どうして知ってるのよ」
「正直に言うからお前もしゃべれよ。
俺は前世が日本人だったんだ。いわゆる転生者だな」
「そう、顔がコッチの人だからわからなかったわ。
私は簡単に言うと転移人ね。気がついたらコッチの世界にいたの」
「なにかきっかけがあったんじゃないのか?」
「あったわ。学校からの帰り道にトラックが突っ込んできたの。
その瞬間目の前が暗くなって気がついたら麦畑の真ん中に立っていたわ」
俺の時と似たような状況だが結果が違う。
俺は死んでこの世界に転生した。
だがアケミはそのままこちら側に転移してきたらしい。
「転移してきたときの格好は?」
「学校の制服よ。セーラー服」
杉山アケミ、17才高校2年生。
日本人的には可愛い部類に入る顔立ちだが、この世界では地味だ。
「麦畑から出た所に地主の家があったの。そこで数日お世話になったのよ」
「うん、言葉はそこで覚えたの?」
「あなたにはこの国の言葉に聞こえているのよね?
実は私ずっと日本語でしゃべっているのよ。なぜか会話は成立してるわね」
「理解しがたいが、自動的に翻訳されているのかな」
「そんな感じ。あなたの言葉も日本語で聞こえているわ」
それからいろいろと情報交換した。
「転移するとき誰かに会わなかったか?
会議室みたいな部屋でオリエンテーション受けたとか」
「なにそれ?ないわね。この世界の予備知識は一切無しでこっちに飛ばされたわ。
数日お世話になった農家の人が、明日からこの人の世話になってくれと
紹介された男がいわゆる置屋のスカウト?みたいな人だったの。
それが一週間前。
この店で接客するようになったのは3日前よ」
農家のおっさんにやっかい払いついでに売られたのか。
「ふーん、で、客がついたのは俺が初めて?」
「そうよ。チェンジの声は聞き飽きたけど、
体を売らずに済んだ事にほっとしてもいるの。
でもさすがに三日もお茶を引くとオカネがないし・・・」
「そっか。大変だったな。そういう事情なら抱けない。けどカネは払うよ。
朝まで一緒にいればいいんだろ?」
アケミは目に涙をためていた。
知らない土地で誰にも頼れず気丈に振る舞ってきた緊張が解けたのだろう。
「どうしてこんな事になっちゃったのかな。日本に帰りたい」
俺の胸でさめざめと泣く女子高生。
まだ子供じゃないか。
って、ちょっと待て!
俺中身はオッサンだけど肉体年齢14才じゃん!
俺の方が子供でしたスイマセン。
ほぼ15才だからオッケーというエドの理屈は置いておこう。
涙をぬぐったアケミが俺に向き直る。
「でもちゃんと仕事はするわ。今後この世界で生きていく上で必要な事だし」
「あのさ、体売らなくても普通のウェイトレスやるとか他にも仕事はあるだろ」
「うん、でもここを辞めるのにもオカネが必要なの」
そうだよな。身請けする大尽が現れれば話は別だが。
ん?身請け?
「なあ、身請けはどうだ?いくらかかる?」
「確か、金貨100枚って聞いたような」
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二日後。
俺たちは王都に向かって出発した。
護衛馬車は一番後ろだ。
アケミは昨日街で買った普通の冒険者用の服を着ている。
着替えとかを入れるバッグも買ってやった。
手持ちのセーラー服を見せて貰ったが確かにこれはこの世界でお目にかかれない物だ。
「なんなら今着てみせようか?」
「い、いいよ別に」
「ふふーん♪赤くなっちゃってかわいい。笑」
こいつ、俺が年下だと知るや否やでかい態度にでやがって。
「言っておくがカネ出したのは俺だからな」
「わかってるわよ。なんなら御主人様って呼ぶ?」
「・・・・・エリックでいいよ」
「ふふふ」
「ふふふ」
なぜシェリーまで笑う。
女性でしかも髪の色が同じだった事もあり、
シェリーとアケミはすっかりうち解けていた。
結局あの夜アケミが俺に対して『仕事』をしたかどうかは秘密だ。
言わないぞ。
朝になってから世界樹の支配人と話をし、
金貨100枚とアケミがお茶を引いている間に出来た借金
プラスアルファを払ってそのまま宿に連れてきた。
皆に事情を話すとエドは渋い顔をした。
が、首都で住むところと仕事を見つけたらそこでサヨナラするよ、と説明したら
それまでの間は一緒に行動することを了承してくれた。
アケミは立場上、俺の所有物ということになる。
あくまで俺の物、という理屈でゴリ押ししたのだ。




