1-19 勇者 王都に行く その1 護衛任務
ここから数編はエリック編です。王都に行きます。
エド達がザクレムに借りてる一軒家はあくまで仮の住居。
定期的に都市を移動しているそうだ。
それには理由がある。
貴族の護衛任務が定期的に舞い込んで来るのだ。
護衛任務も一般の依頼と扱いは同じでギルドに依頼が出され、
受ける冒険者が居れば契約成立である。
が、護衛任務の場合は名指しでの指名も多い。
実力がある有名冒険者ほど指名は多くなる。
エドもその一人だった。
「今回はここザクレムの領主が王都に行くまでの護衛だ。
基本的には一級街道を通るので盗賊や魔物などの心配はさほどない」
俺は早速質問した。
「ハーイ!エド先生!
それなら腕っこきの冒険者雇わなくてもいいんじゃないですか?」
「エリック、全く持ってその通りだ。
受ける理由は単純に報酬が良いから。
貴族も有名冒険者を雇うとハクがつくからな。
ま、それ以外にも情報収集のためには一カ所に留まるよりも移動した方がよい」
俺たちは借家を掃除して不動産屋に返却し、集合場所に移動した。
馬車は十両以上ある。俺たちは最後尾だ。
周囲が見渡せるように幌はたたんである。
天気は晴れてるし、スピードは出さずゆっくりなので割と快適。
出発する前にエドから忠告を受ける。
盗賊や魔物の類が出てきても俺は魔法を使っちゃ駄目だそうだ。
魔法の援護はシェリーに任せて、俺は剣だけで戦うように指示された。
ザクレムにいる間は魔法の訓練と共に
ウィリーとギルバートが剣を教えてくれた。
ウィリーは戦士でギルバートは剣士。
最初は違いがわからなかった。
戦士は得物は剣に限らず槍でも斧でもなんでも使う。
各自が得意な物を使えばいいそうだ。
ウィリーの場合は素手の戦闘もこなす。
格闘家が剣も使えるといった感じ。
剣士は剣の道を究める人らしい。
ギルバートの教え方はまず基本的な型から入り
次第に動作を複雑にしていく。
理屈があり筋道を立てて教えてくれた。
最初の宿場町までは何事もなく到着。
しかし護衛は一緒になってぐーすか寝るワケにはいかない。
他の護衛の兵士達と交代で睡眠をとり周囲の警戒にあたる。
夜中にはぐれの魔犬が出たそうだが兵士がやっつけたそうだ。
朝方死体を見たがどう見ても野良犬です。
ちーん。
「今日は森を抜ける。一級街道とは言え魔物が出やすいので警戒は厳重になる。
今日の俺たちは先行して安全の確保を行う。露払いだな」
本隊より先に出発する。
とはいえ首都に通じる一級街道は人通りも多く、
安全の確保と言ってもあまりやることはない。
森に踏み込んでいけばなにかに遭遇する事もあるだろうけど、
ここいらも定期的に魔物の駆除は行われている。
はずだった。
エドが急に立ち止まった。
「止まれ。なにか変だ」
森の中の街道は道幅も広く見通しが良い。
だが言われてみれば確かに違和感を感じる。
風がない。鳥の声もしない。
エドは一緒についてきた新米兵士数名を伝令に出した。
「出立を後らせるように伝えてくれ。走れ!」
見ると10mほど先の茂みがざわざわ動いている。
エド。ウィリー、ギルバートは黙って剣を抜いた。
俺もロングソードを抜く。
「散れ!来るぞ!」
茂みから現れたのは・・・・・・
「にゃーん」
なんだ猫か。
「はいはい猫ちゃーん、こっちおいでー」
「ば、バカ!エリックそいつは・・・」
エドが言い終わらないうちに茂みからもう一匹出てきた。
「ん?なんかデカくない?」
ブラック・サーベル・キャット。
子馬ほどもある巨体の割には俊敏な動きが特徴。
長い牙で得物を刺し強靱なあごで振り回す。
ツヤのある黒い毛並みは刃物を通さない強力な毛皮。
そして極めつけ、こいつは火を吹く。
「子連れは凶暴だぜ!うかつに近寄るな!」
巨大な猫は姿勢を低くし俺たちに飛びかかってきた。
ギルバートがかわしながらも横なぎに剣を入れるがはじき返された。
「くそっ!やっぱり刃が立たねぇ!」
魔法を使うのを禁じられてたがそんなこと言ってられないよね?
とにかく訓練通りにやってみよう。
剣に魔力をまとわせ風の魔法を準備。イメージしたのは鋭利な刃物。
カマイタチ・ブレードだ。
「うお!火を吹きやがった!」
収束されたかのような火炎は一直線にこちらに飛んでくる。
が、さほど速くはないので横に飛んでかわす。
こちらがひるんだと見た巨猫は俺に向かって飛びかかってきた。
俺は左に回転しながら剣を振りかぶり、すれ違いざまに上段から振り下ろす。
切っ先から伸びたカマイタチは巨猫の首をスパっと切り落とした。
死体の廻りに皆が集まってきた。
いつの間にかさっきの子猫が切り離された親の頭をペロペロなめていた。
ウィリーが子猫に剣を突き立てる。
「あっ!」
俺は思わず叫んでしまった。
「エリック、見た目に惑わされるな。
こいつもあと一年もしたら親と変わらない大きさになる。わかるな?」
俺はなにも言わず、いや、言えずにコクンとうなずいた。