1-18 スフィーア最後の日 その5 姫と従者とカミーラ
スフィーア最後の日最終話です。
王都は至る所にバリケードが築き上げられていた。
強力な魔法部隊を編成する魔人達相手には気休めでしかなかったが、
やらないよりはましだ。
老師は王都の境界付近にかなりの数の罠を仕掛けた。
空間固定という技術は空の魔法使いの中でも最高レベルに達した者しかできない。
敵が現れるであろう箇所に目星をつけ空間の入り口を固定する。
出口はすべて町外れにある石材の切り出し場につないだ。
ここに敵が現れた瞬間に待機している魔法使いが
数人がかりで一気に焼き尽くす作戦だった。
「罠を仕掛けた区画は立ち入り禁止じゃぞ。徹底してくれ」
港からは最後の船が出発した。
沖に出れば海流にのって北の大陸までたどり着けると聞いている。
そこには人間が支配する国がたくさんあるという。
北の山脈越えルートはある程度体力がある者でないと無理だ。
体力のないものは優先して船に乗せられた。
この国は外洋に出られる大きな船はなく、沿岸漁業用の小型船しかない。
嵐に遭遇したら耐えられる船は少ないだろう。
それでも逃げる手段が限られているため小型の船に命を託すしかなかった。
陸路を選択した集団も決して安全ではない。
中央部にあると言われている魔人の国を避けて海岸沿いを北上し北の大陸を目指す。
今スフィーアの王都に残っているのは時間稼ぎの部隊に過ぎない。
残った者は誰もがわかっていた。
国民と王以外の王の家族さえ無事ならいつの日かこの国が復活する機会も
巡ってくる可能性がある。
全滅したらそれもなくなるのだ。
戦闘が始まった。
スフィーアの残存勢力、魔法部隊約300名。
侵攻してきた魔人の部隊約200名といったところか。
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ほんの一時ではあれカミーラは老師に再会できた時は嬉しかった。
自分も一緒に戦うと申し出たが老師には却下された。
「王の言いつけに従い姫様をお守りしなさい。
なに、最後にはワシが王を連れて脱出するさ。先に北の大陸までお行き」
非戦闘員である一般国民を優先的に逃がし、
カミーラと姫とその従者数名は最後に王都を後にした。
ルートは山脈越え、その後陸路で海岸沿いを北上する。
姫もカミーラも老師に作ってもらった空間収納バッグを肩からかけている。
かなりの食料とサバイバルに必要な道具類が収納してある。
一日かけて山脈の尾根までたどり着いた。
そこからは遠くに王都が見える。
数本の黒煙が立ち上っている。
それに王都の象徴でもあった中央部の小高い塔も倒壊してしまっている。
その光景を目に焼き付けた一団は尾根を超えて行った。
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「やはりな」老師は思った。
前回とはまるで動きが違う。
各個撃破の個人戦闘スタイルを変え魔人の部隊は組織だって行動していた。
相手も3~5人一組で行動している。
それでもスフィーアの魔法部隊は善戦した。
罠に追い込み少しずつ敵の数を減らしていく。
しかしそれ以上に味方の数も減っていった。
老師は開けた通りを堂々と歩いている三人の魔人を、
生成した土壁で囲い空間をつなげて巨大なファイァーボールを送り込んだ。
複数の魔法を同時に発動出来る老師だからこそできることである。
魔人は何がおこったか理解せぬまま灰と化した。
三人一組にし連係した戦闘方法を教えてあるが、
よほど息を合わせないと老師のように上手くはいかない。
感づかれ返り討ちに遭う味方も多かった。
刻一刻と終わりの時間が近づいてくる。
生き残った者は皆、王の屋敷に撤退してきた。
無傷のもはいない。
生存者は王と老師を含めわずか12名だった。
王は全員を集めた。
「ここまでだな。降伏しよう。私は投降する。
皆よく頑張ってくれたな、礼を言う」
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国王と生き残りの連中は王都の中央にある広場で処刑した。
最後まで抵抗し王を守ったスフィーアの魔法部隊はなかなかに優秀だった。
が、俺と俺の部隊の敵ではなかったな。
処刑されたのは王も含めて11名。
クレイグはハリエク・ロウという名の老人を捜したがいなかった。
「クレイグ上級尉官殿、流石でした」
「ブランカ君、君もお疲れだったね」
前衛部隊のブランカ隊長をねぎらう。
が、この無能女め。
どれだけ時間を費やしたと思ってるんだ。
時間だけではない。貴重な兵を多数失った。
「ブランカ下級尉官。今回のレポートには君の視点での改善点を添えて提出したまえ。
わかったら下がれ」
「はっ!」
例え失敗してもなにがしかの教訓を引き出せればその失敗は無駄でなくなる。
これが最後のチャンスだと思って欲しいね。
もちろん俺も人のことをとやかく言ってはいられない。
今回は勝利できたが自分の指揮にも無駄が多かった。
考えることはいくらでもある。
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大海原を行く1隻の小型船は海流に乗り北を目指していた。
一ヶ月の間に二度ほど大きな嵐に遭遇した。
数十隻いた船団はちりぢりになり沈んだ船もある。
食料も尽きかけている。
このままでは大海原で全員餓死してしまうだろう。
左手の遠くに海岸線がうっすらと見えてきた。
嵐で折れてしまったマストを応急処置で繋ぎ帆を張った。
風は大陸に向かって吹いている。
船は遠浅の砂浜で座礁した。
船を放棄し全員歩いて陸地に足を踏み入れる。
後でわかったことだがここはガウンドワナ大陸の北部にある
人間の国ガウンムア王国の国境付近だった。
近くの村にたどり着き施しを受け生き残った者はわずか8名の男女だった。
姫とカミーラの一団は山脈を越えた。
山を下り海沿いに入り江を探す。
すでに到着した一団と話し合い、海路を行く者と陸路を行く者に分けた。
船は小さく全員乗せるわけにはいかなかったのだ。
姫とカミーラと三人の従者は陸路を選択した。
陸路は密林と崖に阻まれてる箇所もあり大きく迂回せねばならないところも多々ある。
密林では巨大な熊やライオンのような四つ足の魔物、
それにゴブリン、オークといった人型の魔物と遭遇した。
カミーラは魔法で、従者は剣で立ち向かい魔物を屠った。
魔物の肉は貴重な食料になる。
魔石は回収し姫とカミーラの空間収納バッグに納めた。
過酷な旅を続けること1年以上。
三人いた従者のうち一人は崖から転落して死亡。
一人は魔物に殺された。
姫とカミーラそして男性の従者一人は大陸の西側の北の果てに到着した。
三人は海峡を越え北の大陸に渡る手段を探した。
黒髪の美しい姫の名はシェリー・デ・フィリアス。
壮年の男性従者の名はエドという。