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1-17 スフィーア最後の日 その4 老師とクレイグ

「ま、あんたとおしゃべりできて楽しかったよ。それではの。王都で待ってるぞ」


「ブランカ隊長は何をやってるんだ?この小さな街を落とすのに何日かけてる」

「はっ!申し訳ありません、クレイグ上級尉官殿!」


 第一陣のブランカ隊が最初の街をたやすく落とせたのは

奇襲が功を奏したからにすぎない。

体制を整えた軍を相手にするのは初めてであろうが、

座学で戦術も学んでいるはず。怠慢だな、この女。


「ブランカ隊は我が隊の指揮下に入って貰うぞ。戦闘可能な兵を集めておけ」

俺の部隊は精鋭だ。

家柄ではなく実力でのし上がってきた者を中心に集めている。


 俺自身が金髪なせいか黒髪でない者が多い。

容姿で差別的な扱いを受けたことがある奴は他の部隊では出世できないと考えるのだろう、

俺の部隊に志願する奴が多いのだ。


 夜明けと共に攻撃を開始した。 

部下を伴い戦闘を見に行く。

街のはずれにある物見櫓ものみやぐらに登り観察した。

「連中は三人一組で行動してるな。連係が上手く取れてる」


「クレイグ隊長、あそこを」

部下の一人が少し離れた建物の角を指さす。

白髪の老人がウチの兵の首をはね飛ばした所だった。

「む、あの老人妙だぞ」

気配に感づいたのだろうか、その老人はこちらを睨んだあと建物の陰に姿を消した。

「あの魔力は尋常ではないな。ここからも感じ取れた」


 昼頃にはかなり敵の数を減らした。

生き残りは撤退しながらこちらの兵も確実に仕留めている。

さっきの老人が指揮してるのだろうな。


「良し、一時こちらも体制を整える。兵をひかせろ」

街の手前にある平野に陣を張ってある。

ここで兵に休息を取らせた。

「夜襲をかける。それまでに少しでも寝ておけ」  


~~~~~~~~~~~~~~~


「半数減らされたか。ま、ここで5日も持ちこたえられたのは立派じゃな」

ハリエク・ロウ老師は生き残りの部隊を集め新たに指示を出した。

「我々も撤退するぞ。王都を目指せ。夜通し走れ。

攻撃が止んでる今が最後のチャンスじゃ。

敵にも増援部隊が駆けつけた。これからもっと増えるじゃろ。

さあさあ早く!行動に出ろ!」


 皆が一斉に王都に向かって移動を開始した。

弟子の数名が老師の廻りに集まる。

「老師様、お師匠様!我々も行きましょう!」

「うむ。ワシは後で行くぞ。お前達、スマンがしんがりを頼む」


 弟子の一人が答える。

「もちろんです。老師様は先にお逃げください!」

「うんにゃ。ワシは疲れたからちょっと寝る。敵が来るのは真夜中すぎじゃろ」

「なぜわかるんですか?」

「続けて攻撃をせずに一時撤退したのはアチラさんもそれなりに疲弊しとるのじゃ。

じゃが、さすがに朝までは休ませてくれまい。

間を取って真夜中くらいと見当つけたまでじゃ」


 老師はあくびをしながら長椅子に横になった。

「はっきり言うぞ。ワシ一人ならどんな状況でも逃げ延びられる。

ワシ一人ならな。お前達までかまってやれる余裕はない。

それにな、お前達。うぬぼれるなよ。敵の強さはすでにわかっておろう。

死んでしまったらそれまでじゃ。逃げて生き延びろ。

生きてさえいれば国を再建する機会もやってくる。

王都までたどり着き王族を、民を逃がしてやれ。

ワシもあとで追いかけるよ。行きなさい」

一気に言うと老師は目を瞑り寝てしまった。


~~~~~~~~~~~~~~~


 おかしい。静かすぎる。

偵察に出た兵が帰ってきた。

「クレイグ隊長、すでに街はもぬけの殻です」

「やはりな。まあいいさ。日が昇ると同時に街道を進むぞ」

「はっ!」

「俺はちょっと散歩してくる」


 月明かりに照らされた夜道は意外と明るい。

気配を察知しながら通りを街の中心に向かって歩き始めたのだが

本当に人っ子一人いないな。

街の中心街を過ぎ、家屋がまばらになってきたあたりで立ち止まる。

ここいらで引き返すか。


「お若いの、散歩ですかな?」

びっくりして振り返ると昼間に見かけた老人が立っていた。

「ふ、気配を感じなかったぞ。ついでに殺気も感じないが」

「ま、やる気はあまりないね。だってあんた強そうじゃもん」

「さてどうしたものかね。とりあえず名を聞こうか」

「ハリエク・ロウと申す。あんたは?」

「クレイグ上級尉官だ」

「姓はないんじゃの。平民出身で上級尉官とは相当気張りなさったな」

「ふん、今わかったぞ。あんた魔石持ちじゃないか。

魔人のくせに人間に肩入れしているとは驚きだよ」


 しばしの沈黙後老師が口を開いた。

「ワシが密林の奥からこの国に逃げてきてから40年がたつ。

髪の色では相当苦労したからの。あんたもそうじゃろ」


 クレイグは元々金髪であったであろう老人の白髪を眺めた。

「まあな。だが俺は逃げずに戦ったぞ。あんたとは違う」

「偉いのう。どこまで出世するか見物じゃな」

「あんたは見届けられないだろうね。

数日逃げ延びたとしても俺たちはこの国を滅ぼすしあんたも殺す」

「おぉ怖っ。その様子だと魔王が復活したとき金髪組が

どんな目に遭わされるのかまでは知らないようじゃの」

「ほう、今以上の差別があるとでも言うのか?」

「あるさ。黒髪以外は皆殺しじゃぞ」

「ふん、根拠のない脅しだな。現に俺は実力で出世している」

「ま、いいさね。信じなくても」


フッと何かがクレイグの頭をかすめ髪を数本切り落とした。

クレイグは身じろぎもせず落ち着いている。

「予備動作なし、気配無しとは恐れ入った。俺より遙かに強いだろあんた」

「そりゃそうじゃ。最終階級は上級佐官じゃぞ。ま、あんたとおしゃべりできて楽しかったよ。それではの。王都で待ってるぞ」

老人は自分の後ろに空間を空け後ずさりして消えた。


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