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1-15 スフィーア最後の日 その2 ロウ老師とカミーラ嬢

「人間相手の戦争なんてこんなもんなのかしらねん?

戦争と言うよりも一方的な虐殺だったわ」

「伝令は出したか?国王陛下に知らせねば!」

ノースタウンの市長が声を張り上げる。

「駄目です。街道が封鎖されており誰も通れません!」

「なにか・・・・打つ手はないのか・・・」


 南の街道が唯一他の街へ通じる道である。

左右は密林に阻まれ人が通るのは厳しい。


 市庁舎は逃げてきた住民でごった返していた。

その中にはこの町の筆頭魔法使いであるハリエク・ロウ老師と

その弟子の少女カミーラが居た。

「カミーラよ。隣の街そして王都まで伝令に行けるかかね?」

「老師様、私より老師様の方が・・・・」

「ワシは体力が保たん。魔力はあってもな」

まだ10才になったばかりのカミーラは悲しそうな顔で老師を見上げた。


 ハリエク老師はカミーラの手を引き市長を探した。

「おお!老師殿、生きておられたか!これは心強い」

「市長、ワシのような老いぼれをあてになさるな。

とは言ってられん状況じゃが」

カミーラを自分の前に立たせ市長に紹介した。

「ワシの弟子じゃ。カミーラという。この子を伝令に行かせよう」

「噂は聞いておりますぞ。老師をしのぐほどの天才が居ると。

そうか、君か」


 市長は自分の孫とさほど変わらぬ年齢のカミーラをじっと見た。

本来なら年端もいかぬ子供に頼るわけにはいかないのだがそうも言ってられない。

それに筆頭魔法使いのハリエク老師のお弟子さんだ。


「すまん、カミーラ君。行ってくれるか。この手紙を王に届けて欲しい」

封書を手渡しつつ市長が言った。


 警備隊隊長と数名の兵士が市長室に呼ばれた。

老師が皆にカミーラの能力を明かした。

「この子は、くうの魔法使いじゃ。

自分一人なら空間をつないで移動できる。

ただし、自分が見えてる範囲内に限定されるんじゃ。

距離は100メートル単位。姿が見えなくなるまで数回は空間をつなげなければならない。

その間の時間稼ぎを頼む」


 隊長が作戦をたてる。

「わかりました。夜のうちに行動を起こしましょう。

警備隊が南の街道に陣取る敵の注意を引きつける間にカミーラ殿は街を脱出してくれ。

俺たちも魔法使いだ。時間稼ぎなら問題ないはずだ」


「カミーラ、隣町についたら警備隊の詰め所に事情を説明しなさい。

その際このメダルを見せれば信用されるはずじゃ」

手渡されたメダルには老師が気に入っている狼の彫り物が刻印してあった。

「手短に伝えてすぐさま王都を目指しなさい。気をつけて行くのじゃぞ」

「老師様はどうされるのですか?」

「ワシはここを死守する。なーに、警備隊も居るしバリケードも築いた。

血気盛んな兵士達がおるしワシの出番はないじゃろう。

心配せんでもまたここで会える。行っておいで」


 胸の内側から黒い泡が膨らんでくるような不安を感じカミーラは泣きそうになった。

老師は何も言わずひらひらと手をふり満面の笑みを浮かべるのみであった。


 南の街道の入り口付近まで来た。

兵長が指示を出す。

掩体えんたいを確認しろ。左右に散れ。攻撃は同時に行くぞ。

カミーラ殿は右の建物の外側から廻り街道と密林の際を行ってくれ。

では幸運を。よし、行くぞ!」


 カミーラは思った。

幸運は私よりもあなたたちに必要だわ。

それも大量に。


 最初の攻撃は巨大なファイヤァーボールだった。

周囲をこうこうと照らし出す真っ赤な火球は一瞬敵の目をくらます。 

戦闘が始まった。


 それを見届けカミーラは敵の後方につなげた空間をくぐる。

振り返ると兵士の一人が巨大な岩塊に押しつぶされ絶命する瞬間だった。

すぐさま向き直り数回空間をつなげ、カミーラは隣の街を目指して街道を進んで行った。


~~~~~~~~~~~~

  

 隣町の衛兵詰め所には常に人がいる。

カミーラはドアをノックした。

中から眠そうな顔した兵士が一人顔を出した。

「誰だ、こんな時間に」

「あの、ノースタウンから来たカミーラと申します。

あ、あの、ノースタウンが何者かに襲われて壊滅状態で、その・・・」

「お嬢ちゃん、それは本当かい?」

カミーラは答える代わりに老師から預かった狼のメダルを見せる。

「これは?」

「ハリエク・ロウ老師から預かった物です。これを見せればわかると」

「ちょっと待っててくれ」

兵士は一度奥に引っ込みすぐにもう一人連れて戻ってきた。


 兵長だと紹介されたやや年配のがっちりした体格の男はメダルを手に取った。

「確かにこれは老師の物だ。俺も弟子の一人だからわかる。

もしかしてお嬢ちゃんが噂のカミーラかね?」

カミーラはこくんとうなずくとノースタウンの現状を説明した。


「わかった。この街もやばいな。おい市長と警備隊長をたたき起こせ!」

兵士が街の中央に向かって駆けだした。


「カミーラ君、君も安全な所に避難した方がいいな」

「ありがとうございます。でも、市長からの手紙を王に届けないと」

「そうか、わかった。すぐに行くのかね?ちょっと待ってな」


 兵長は湯気が立ち上るカップをカミーラに手渡した。

「ハチミツをお湯に溶いただけのものだが少しは疲れが取れるぞ」

「はい!いただきます」

飲み終えるとカミーラは礼を言い開いた空間に姿を消していった。


 兵長がつぶやいた。

「そうか、彼女が天才カミーラ嬢か・・・・」

そこへ先ほどの兵士が息を切らして帰ってきた。

街中に鐘が鳴り響いている。


 迎撃態勢を整えるのと同時に住民は王都に向けて避難させねばなるまい。

兵長は部下達に指示を出した。

「おい、二人ほど斥候に行ってくれ。残りは装備を倉庫から全部出せ。

俺は中央広場に指示を受けに行ってくる」


~~~~~~~~~~~~


 森をぬけ丘を越えカミーラが王都に到着した頃には

東の空が白んできた頃だった。

石造りの塀に囲まれた王の城を目指す。

ノースタウン市長の蝋印が押してある封書を見せ

門番をしている衛兵に事情を説明した。


 スフィーアは小さな国である。王の居城も大国のもの程大きくはない。

町中にある建物よりも少し大きめのお屋敷である。

カミーラはその中の一室で待っていると王が執事を伴って入って来た。

王に謁見するのは初めてだったカミーラはすこしあせった。

こういうときはどんな作法をとればいいのだろうか?


「楽にしなさい。緊急事態だ、変にかしこまらんでもよろしい」

カミーラは王に手紙を手渡す。

王は手紙を読み終えると執事にいくつか指示を出した。

「カミーラ君、だったかな?夜通しの伝令疲れたろう。大儀であった。

部屋を用意するから少しやすみなさい。おい、誰ぞいるか」

メイド服姿の年配の女性が部屋に入って来た。


 カミーラは食堂でパンと暖かいスープを貰い、

食べ終えると急激に眠気が襲ってきた。

メイドに案内された部屋のベッドに横になるとすぐに眠ってしまった。


「疲れてたのね。まだ小さいのにたいしたもんだわ」

メイドはカミーラに毛布を掛けながらつぶやいた。


~~~~~~~~~~~~


 すでに日は高く昇っていた。

腕を組み廃墟と化したノースタウンの市庁舎を眺める一人の女に近寄る一人の男。

「ブランカ隊長、制圧完了しましたさー」

「レオン軍曹、お疲れちゃん。あんたにしてはてこずったわね」

「髭面の老人に多少引っかき回されたんでさ。ちょこまかと逃げやがりまして」

「ふーん、で状況は?」

レオン軍曹は男は皆殺しにし、妙齢の女性は一カ所に集めていることを報告した。

老人に逃げられた事は言わなかった。


「人間相手の戦争なんてこんなもんなのかしらねん?

戦争と言うよりも一方的な虐殺だったわ」



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