アケミのその後
戦後10年が経った。
クワイト共和国が国際連絡会議の仲間入りを果たし
魔人と人間が手に手を取り合って世界を発展させていく
礎が出来た。
まだ偏見や差別が多いが魔石持ちの魔法使いである魔人はどこでも
重宝され国外に出稼ぎで稼ぎに行く魔人も増えてきた。
戦争終結後に私は姫として責任をとり
処刑されても良いと考えていた。
だってエリックも魔王もどこかに消えてちゃったんだもん。
私の身体をコピーした魔王は私その物。
姉妹以上の存在だった。
エリックは私がこの世界に飛ばされてきて最初に出会った
日本からの転生者。
私が日本に帰れる手段を探してくれていた。
私はどっちも好きだったのだ。
その両方がいなくなり自暴自棄になっていたのかもしれない。
でも今は生きていて良かったな、
って思う日々を過ごしている。
旦那であるソーイチは当初パールバディアの国民として
グレイン少将と共にパールバディア国防軍に加わるかと
思っていたが危険を冒して魔人の国に帰ってきた。
~~
「姫様。パールバディアに亡命して
かの国で生活しませんか?」
ソーイチは現状を説明してくれた。
「ありがとう。でも私はこの国に残るわ。
魔王亡き後も皆私のことを姫と呼んで慕ってくれてるし
見捨てるわけにはいかない」
「そうですか」
「うん」
「・・・・・」
「なによ?」
「あの、唐突で申し訳ないんですが・・・・
結婚してください!」
「ノーサンキュー!」
「ええ・・・・・勇気を出して言ったのに・・・・」
「努力が必ず報われるとは限らないのよ」
「でもあきらめせんからね」
「ふふ、そうね。今は自分の事を優先させたくないの。
魔人の国は戦争に負けた。
これからは連合軍に債務を払っていかねばならないの。
十二人会議だけに任せるんじゃなくて私が出来ることは
なんでもやるつもりなのよ。
プロポーズは嬉しかったわ。
折りを見て再トライしてちょうだいね」
数年経ち債務履行の目処が立ち始めたので
ソーイチのプロポーズを受けて結婚した。
~~
魔人の国はクワイト共和国と名前を変えて
債務も返済が終わり国際連絡会議に加わった。
旦那に連れられて私もルドアニアで開かれた
会議に姫としてついて行った。
敗戦国の姫だし元はルド王国でエリックの片腕として
勇者のパーティにいた私だ。
ルド王国では裏切り者扱いだろうなぁ、と思っていたら
まさかの国賓扱い。
「アケミ姫、ようこそとは言いません。
おかえりなさい」
「アレックス陛下、私ごときにもったいなきお言葉です」
「エリックから言い含められてました。
アケミを温かく迎えてやって欲しいと」
「エリックが、ですか。
私は彼に借金があるんです。
それを返してもいないのに」
陛下が近くに寄ってきた。
「?」
「アケミ姫、本当の事を教えてください」
「な、なんでしょう・・・」
「『世界樹』ではエリックと?」
「と?」
「そう。ナニがアレだったんですかね?」
「もしかしてカマかけてます?」
「エリックがかたくなに口を閉ざしていまして。
真相はもはやあなたしか知りません」
「な、内緒ですよそんなこと」
「実は私の著作『冒険記』に載せるエリックのエピソード
を探してるんです」
「ぎゃー!なおさら言えません!セシリアさんの
顔まともに見れなくなるじゃないですか!・・・・あっ!」
「ハイ、正解いただきました」
「だ、駄目です!ちょ、著作権とか肖像権とかプライバシー
ってないんですかこの世界には!」
「はは、冗談ですよ。著作はすでに発表してます。
ただ私が知りたかっただけなんですよね」
「そうなんですか」
「ええ。あなたはエリックがセシリア嬢と出会う前に
出会ってますね。
もしかしたらあなたが勇者の子を産んでいたかも知れません」
「陛下、それは飛躍しすぎですわ」
もちろんエリックのことは好きだった。
でもそれは恋愛感情ではなかったと思う。
この世界にやってきて最初に出会った
『日本』を知っている人物、それがエリック。
エリックを介して常に優しい狼の面々と出会うことが出来たし
この世界で出会った人達は皆好きだといえるだろう。
「そういう意味では陛下、あなたのことも好きでしたわよ」
「な、なにを」
急にキョドったな。
あ、王妃様が睨んでる。
ま、かわいい仕返しだと思って後で夫婦げんかしてください。
その後セシリア嬢とお話する機会に恵まれ、
教会のセシリア嬢の居室に招待された。
「あの、聖女様。呼ばれたのは私だけなんですか?」
『そう、あなたとは二人きりで話がしたかったの』
日本語だった。
「ここでの会話は他言無用でね。
私はエリックと同じ転生日本人よ。
前世では私とエリックは夫婦だったの」
「初めて聞いたわ」
「誰にも言ってないもの。唯一知ってるエリックは
居なくなっちゃったしね」
それからお互い日本にいた頃の話をした。
楽しそうに日本の話をする
金髪碧眼の美人に若干の違和感を感じる。
主に胸的な部分に。
「はい、はーい!質問です!」
元気よく手を挙げて質問した。
「はい、アケミさん」
「ユカリさんはどんな容姿だったんですか?
主に胸的な部分の色艶形なんかを」
「あはは、なにかと思えば。
まあ色と艶は置いといて。
ユカリさんは80のAカップだったわね」
「今は?」
「ちゃんと計った事はないけど感覚的にはF?くらい?」
「はえー、しゅごい」
「10歳過ぎてからどんどん大きくなってきてね。
13歳の頃に前世の記憶が蘇ったんだけど、
その頃はすでに前世を超えていたわ。
姿見の前で『見たかー!前世のワタシ!』とガッツポーズしたわよ
でもねぇ・・・・・・」
「なにか不満なの?」
「うん。まさかこんなに肩がこるとは」
「あー、それ良く聞く話だけど本当だったんだ。
自分は『貧』で良かったと思う反面嫉妬が隠しきれない」
「でもちゃんと結婚してるじゃない。
それにオッパイが女のすべてってわけじゃないわよ」
「そ、そうよね!旦那が貧乳フェチで良かった!」
きわどい女子会トークの後エリックの子供を
紹介された。
物怖じしない礼儀正しい子だった。
「あらあら、お父さんそっくりね」
「よく言われますが僕は父の顔を知りません」
「教会の大聖堂にレリーフがあったわよ」
「ホントにあんな美男子だったんですか?」
「あー、まあ多少は美化されてるかな?
でもセシリアにも似てるような気もする。
お母さんが美人で良かったね!」
「お母さん、ほら。アメちゃんあげて」
「あんたどこで覚えたのよそんなセリフ」
ボケ方までエリックと一緒だわ。
「トール君。野球って知ってる?」
「クワイトとパールバディアで流行っている球技ですよね?
ルド王国では誰もやってませんが」
「あら大変。じゃあワタシが普及させないと。
いつかキャッチボールしましょう!」
また生きる楽しみが増えた。
ワールドベースボールクラシックの開催も
視野に入れないと。
~~
それからさらに年月は経った。
結局私とソーイチの間に子供は出来なかった。
でもそれでいいと思う。
私が最後の王族で区切りが良い。
おばあちゃんと呼ばれる年齢なのにまだお姫様と
呼ばれる事に違和感を覚えつつ
私は魔人の国のお姫様をやっている。
日本人でいた頃よりもこの世界での生活期間の方が
とっくに長くなってしまった。
私はもはやこの世界の住人なのだ。
「あ、思い出した」
旦那が怪訝な顔で聞いてくる。
「うん?なにか忘れ物?」
「忘れ物と言えばそうかな。
エリックにカエルとトカゲの肉を食べさせるの忘れてた」
「なんだそりゃ」
「うふふ、あのね・・・・」
次回ルドアニアに行くことがあったらレリーフの前に
トカゲ肉をお供えしてみようかな。
セシリアに怒られるかな?