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スフィーアのその後


~~シェリー~~


「ひどい有様ね」

スフィーアに帰国した際の第一声がこれ。


 道路の真ん中に木が生えている。

建物はツタに覆われそのままでは使用できない。

農地も荒れ放題で雑草や低木の類が我が物顔で成長している。


「さて、まずは大掃除から始めましょう。

仮の形でいいから住める場所の確保をしましょう」


 エドが仕事の割り振りをして皆が一斉に仕事に取りかかった。


~~ 


 ルドアニアで凱旋を終えスフィーアに帰る準備を始めた。

ガウンムアにたどり着いた難民達にも連絡を取った。

それだけでは国民は足りない。


 ロウ老師が女王陛下と約束していた移民の話も

具体的に進められた。

ルド王国国内のみならずツイーネやガウンムアにも

掛け合って移民を募集してくれたのだ。


 ロウ老師が各地におもむき魔道トンネルを開いて

一気にスフィーアに引っ越しをした。


 その数約5000人。

国としては規模が小さい。

が、まずはこの人数で自給自足できる

体勢を目指すことになった。


~~


「シェリー女王陛下。

名簿の作成は終わりましたよ。

これを元に戸籍を作っていきたいのですが

まだ住む場所すら決まってないので

もう少し様子を見ましょうか」


「ありがとう、あなた。

そう言えばあなたはなんて呼べば良いのかしら」


「さて?王配とか殿下とかが一般的ですが。

まあ小さな国ですし位にこだわらなくてもいいでしょうね。

しばらくはアルドレアと呼んで貰いましょう」


 ルド王国の侯爵家の次男坊アルドレアが私の夫だ。

アレックス国王の計らいで見合いし結婚した。


 自然科学の研究をしており王立中央大学で准教授をしていたが

スフィーアの生態系に興味があるとの事で付いてきてくれたのだ。

頭の良い人物なので頭脳労働はなんでもこなしてくれる。


「二人だけの時は名前で呼んでね、あなた」

「わかったよシェリー」


 ダレスが街中の余計な木を引っこ抜き使えそうな部分は

乾燥して薪にした。


 荒れ放題の農地もダレスが一気にならしていってくれた。

時折森から出てくる魔物はラーチャとマキシーが森に

返しに行ってくれる。


 移民も皆頑張って農地を整備してくれている。

漁民だった者は海沿いに住み港を整備していった。


 しばらくして最初の作物が収穫され

なんとか自給自足の目処が付いてきた。

魚や森の獣や魔物は貴重なタンパク源だ。


 忙しく過ごしているうちに数年がたち人口も増えてきた。

出産による自然増もあるのだが移民も増えていった。


 ルド王国は海軍を作り外洋に出られる大きな船の開発が

進んでいた。

魔道砲と呼ばれる大砲を設置した軍艦とは別に

輸送を目的とした大きな船も造られ、ルド王国、ツイーネ王国、

ガウンムア王国そしてスフィーアを結ぶ航路が確立されたのが

人口増加の理由としては大きい。


 冒険者ギルドが設置され魔石の買い取りが始まった。

集めた魔石は国内消費分以外はしばらくの間ルド王国が

買い取ってくれることになったのだ。

 

 エドの妻であるマリアンは元々ルド王国で女王陛下の補佐を

しており魔石の管理を一手に引き受けていたため

そのまま同じ業務をやって貰う事になった。


 帰国から5年が経ちロウ老師がお亡くなりになられた。

老師が居たからこそ我々のような知名度のない小国が

ルド王国からの支援を受けられたと言っても過言ではない。


 国葬が執り行われ老師の墓は首都が見渡せる小高い丘の

上に作られた。


 ロウ老師の弟子であるカミーラが

国の魔法部隊の長となった。

数少ない魔法使いをまとめ素質のある者には

教育を施してくれている。


 魔人を誰よりも憎んでいた彼女だったが

まさかクワイト共和国から移民してきた魔人と

結婚するとは思わなかった。


 旦那であるその魔人は軍人ではなく

建築土木の分野で活躍していた

土魔法に長けた魔人だったので、

我が国でも大活躍だった。

二人の間には三人の女の子が生まれ

皆魔法の素質を持っているそうだ。


 私も夫であるアルドレアとの間に二人の王子が生まれた。


 時々思い出す。


 エドと一緒に冒険者で生計を立てていた頃の事を。

そして私達のパーティにエリックが入ってきた時のことを。

彼は最初から優れた魔法使いだった。

そしてギルバートやウィリーの良き生徒であった。


 思えば老師との再会のきっかけを作ってくれたのも彼だ。

エリックが勇者になってくれたおかげで

私達もルド王国に亡命政府として承認を貰えたようなものだ。


 そうだ。

当時は自分の魔力を補充するためにエリックに添い寝

して貰ってたんだっけ。

今考えてみたら年頃の男の子には気の毒だったかな。


「シェリー、なに笑ってるの?」

アルドレアが尋ねてきた。


「ん?ちょっと昔のこと思い出して。

エリックが私達のパーティに入ってきた頃の事」


「エリックか。

本当の所勇者ってどんな感じだったのかな。

アレックス陛下が書かれた『冒険記』では凛々しくて

カッコイイクールな男って感じなんだけど」


「ふふ、私も読んだけどかなり美化されてるわね。

戦う時は本当に頼りになったわ。

でも普段はねぼすけだし買い物忘れるし。

どこにでもいる普通の男の子だったわね」


「そっか。伝説なんてそんなものか。

でも子供達には黙っていた方が良さそうだね」


「そうね。やっぱり勇者はかっこよくなきゃ」


 私達は歳をとっていく。

そして何時か死ぬ。


 エリック。

あなたは永遠に18歳のままで

伝説の中に生き続けるのね。


「ところでウチの『勇者達』はどこで遊んでいるのよ」

「カミーラ師匠にしごかれていたよ」

「あら、気の毒に」


 子供は二人とも魔法の才がある。

私と同レベル程度なのでたかが知れているが

我が国では貴重な魔法使いだ。

カミーラにしごかれて立派な大人になって欲しい。

そろそろあなたたちの時代が始まるのよ。

 


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