ツイーネのその後
~~ツイーネ ランス国王~~
戦争が終わり私達は国へ帰ってきた。
先勝凱旋式はルド王国の王都ルドアニアで行われ
私も部下達と末席に座らせて貰ったのだ。
式典が終わりツイーネに帰るとき
私は聖女ビアンカ様にプロポーズをした。
「陛下、私は聖女とは言え姓もない農家の出です。
あまりに釣り合いが取れません」
「そんなもの何だというのです。
今までの古い王家はなくなりました。
これからは私達が新しい時代を築き上げていくのです。
それに、その・・・・。
理由なんかなんでもいいんです。
私はあなたとずっと一緒にいたい」
「・・・・・陛下。わかりました。
ふつつか者ですがよろしくお願いします」
彼女の出自を指摘してくる貴族もいたがすべて無視した。
今のビアンカ様の身分は聖女様だ。
あの大戦争で数え切れないほどの命を救ったお方なのだ。
聖女様を妻に迎えたおかげでイリシス教の教会も
ツイーネでの活動に力を入れ以前よりも宗教が
身近な存在になってきた。
それから10年が経過した。
ルド王国の支援もあり国は順調に復興し
人口も増えてきた。
私達夫婦の間には二人の王子と一人の姫が生まれた。
定期的に開かれる国際連絡会議。
今回はツイーネが開催国である。
その場に新制パールバディア共和国の議員団が加わった。
内戦を経て貴族制度をなくし国民の代表が国を
治める新しい形態の国家だ。
王家は象徴として存在し対外的には
王室外交の場に顔を出すのみである。
その議員団の一人に声を掛けられた。
「ランス国王陛下、お久しぶりです。
覚えておられますか?」
小柄な体躯に黒髪のその女性議員はサラと名乗った。
「もしや・・・・あの時私を城から脱出させてくれた魔人の一人では」
「はい、そうです」
「もう一人男性がいたはずだが」
「彼は・・・トルグはあの後ガウンムアで戦死しました」
「そうであったか。トルグの冥福を祈ろう。
あなた方は私の命の恩人だ。
出来ればなぜ敵であった魔人が私の命を救ったのか
その経緯を聞かせてはくれまいか」
「はい、陛下。
当時私達はパールバディア占領軍のグレイン少将の配下でした。
少将の指示及びガウンムアのリチエルド国王の要請で
ツイーネの王族の一人を逃がす任務を命じられたのです」
「なるほど。リチエルド国王も人が悪いな。
そんな事一言も言わなかった。
まあそれはいい。
で、なぜ私だったんだ?」
サラはニッコリと微笑みながら答えた。
「陛下、適当に選んだんですわ」
「は?適当に、か。要するに誰でも良かったのか?」
「はい、誰でも良かったんです。
それが私達の任務でした」
すべては偶然だったのだ。
そこになにがしかの理屈をつけるのすら無粋に感じるほどに。
「サラ議員、教えてくれてありがとう。
パールバディア共和国も国際連絡会議に加わった。
これからは我が国とも仲良くしていただきたい」
「陛下、こちらこそよろしくお願いいたします」
深々と頭をさげたサラ議員はその12年後
パールバディア共和国初の女性首相に就任した。
あの戦争から20年以上が経過し子供達は皆成人していた。
ルド王国のアレックス国王もクロエ王妃との間に生まれた
王子が成人している。
気になるのは聖女セシリア様が生んだ勇者の子だ。
彼はルドアニアの士官学校を主席で卒業した後ルド王国国軍の
士官になったのだが突然退役し出奔してしまったらしい。
今現在も行方不明となっている。
「ビアンカ。勇者の子はどこにいったんだろうな」
「わからないけどなんとなく気持ちは理解できるわ」
「気持ち?どんな?」
「世界を救った勇者の子として生まれながらにして
背負った宿命というかプレッシャーというか。
たぶん一人で気ままに生きてみたいと思ったんじゃないかしら」
私も国王という立場の重圧に押しつぶされそうに
なったことは一度や二度ではない。
だが私には逃げ出すという選択肢はなかった。
「もしそうだとしたらある意味羨ましいな」
「あら、陛下でもそう思うの?」
「・・・・ビアンカ
さっさと王位を息子に譲って二人で世界中旅行でもしようか?」
「いいわね。期待しないで待ってるわ」
「ははは、私も信用がないな」
今夜は寝る前のお祈りに一文付け加えねば。
世界を救った勇者に感謝を、そして勇者の子に祝福を。
~~ビアンカ~~
まさか私が王妃になるなんて。
田舎の両親は卒倒しかねない勢いで驚いていたっけ。
クロエはアレックス陛下のお后様に。
イヴォンヌも幼なじみのパン屋のセガレと結婚した。
そのさい教会は辞めている。
セシリアは聖女を続け未婚の母としてルド王国で
エリックとの子供を育て上げた。
教会の仕事で私も時々ルドアニアに行くのでその度に
他の三人の聖女と会い近況報告をしている。
セシリアは息子に
『誰の息子であろうとあなたはあなたよ。
あなたが幸せになれる人生を送りなさい』
と、教えてきたそうだが周りはやはり勇者の子として
見るし接して来たのだろう。
私達が知るよしもない重圧があったのではと想像出来る。
一番仲の良かったアレックス陛下のお子様達にも
黙ってどこかに消えたらしい。
人生とはわからないものだ。
若い頃は教会の教典を斜に構えて見ていたが今ならわかる。
人間には心の、魂のよりどころが必要なのだ。
それが既存の宗教でなくても良いと思う。
彼自身がよりどころとするなにかがあれば、と思う。
セシリアとエリックの息子が幸せになれることを祈ろう。
「陛下、私達の子供達の未来も幸多きものにしたいですわね」
「そうだな。もちろんそうだ。
だがな、子供達はいつまでも子供のままではないのだよ。
長男は最近熱心に各大臣達の話を聞いて質問したりしている。
次男は外交に興味があるみたいだな。
末っ子は君に似て熱心なイリシス教の信者だ。
もうとっくに私達の手を離れて自分の人生を豊かに
するために頑張っているのさ」
「そうね。あの子達の人生はあの子達の物だわね。
さて、そろそろオヤスミの時間ね」
「そうだな、いつものアレは済ませたのかね?」
「ええ、とっくに」
最近体力が衰えてきたがまだベンチプレスで
80kgを上げるのが日課になっている。
史上最強の聖女の座はまだしばらく誰にも渡さないわ。