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パールバディアのその後


~~ニナ・ノヴァク~~


 ルドアニアには号外が配られていた。

魔王討伐連合軍は魔人の国に攻め込み魔人の軍と魔王を倒したと

書かれてあった。


 私はアホみたいにルドアニアで指令を待ち続けていた。

指令なんて来るはずがなかったのだ。


 その日の夜にルドアニアを出た。

クルトフをめざし国境まで行き警備の目を盗んで

国境を越えた。

パールバディアの王都に付く頃にはすでに日が高く昇っていた。

魔人とおぼしき者に声を掛け軍の詰め所を尋ねた。

怪訝な顔をされたが階級章を見せると敬礼をして教えてくれた。


 入り口で再び階級章を見せ司令室に案内して貰う。

そこにはグレイン少将がいた。


「グレイン少将、ニナ・ノヴァク上級尉官

ルドアニアの任務から帰還しました」

「ご苦労だった上級尉官。まずはそこに座りなさい」


 すすめられたソファーに座る。

「あ、あの、本国はどういう状態なのでしょうか」

「まあ、落ち着け。ちゃんとすべてを説明する。

我々は討伐軍に負け魔人の軍は壊滅。

魔王様は行方不明、おそらく死んだものと思われる」


「はい、それはルドアニアで出回った号外にも書いてありました。

本当だったんですね」

「ああ、本当だ。それともう一つ。濁らせずにはっきり伝える。

クレイグは戦死した」


「・・・・・それは本当ですか?」

「彼の死体は討伐軍が確認したと情報が入ってきている」

「・・・・クレイグ・・・・」


「クレイグ准将が戦死する直前に彼と話をした。

君のことを気に掛けていたよ。

ルドアニアから安全に脱出させてやってくれと要請を受けたんだ。

君が自力で逃げて来られて良かったと思っている」


「わかりました。お教え下さりありがとう御座いました」

「ニナ君、これからどうするかね?」

「両親の安否を確認しようかと思います」

「戦闘中は王都から軍人以外は全員周辺の農村地帯に

疎開させたよ。おそらく無事なはずだ」

「良かった。ありがとうございました」


「夜通しくうを繋いできて疲れたろう。

宿舎を用意するから少し休みなさい」

「・・・・お言葉に甘えます」


~~グレイン~~


 ソーイチとパールバディアに逃げてきて2週間以上が経つ。

帰ってきた直後にエインリヒ国王と今後の協議をした。


「ふむふむ。魔王は死に魔人の軍は壊滅したか」

「ああ、王よ。もう俺の言うことなど聞かなくていいぞ」

「なにを言っておる。自分で共和制の導入を進めておきながら

途中で放り出すつもりか?」


「そうは言っても俺は敗軍の将であり正確に言えば今は肩書きはない。

身分を保障してくれる軍自体がなくなったからな」

「グレイン、良く聞け。

この国の防衛及び軍機能は魔人の軍が掌握していたな。

今回の魔人の国の防衛戦では我が国から出張った魔人も

かなりの戦死者が出た。

いまこの国はほぼ丸腰の状態なのだぞ」


「ではどうすれば?」

「生き残った魔人の軍人は新たに編成するパールバディア国防軍

に編入して貰おう。将軍にはそのまま将軍をやって貰う」

「この俺に、魔人達にパールバディアの国民になれと言うのかね?」

「そう言ってるつもりだが」


「俺達が裏切ったらどうするつもりだ?」

「裏切ってなにをするつもりだ?」

「・・・・・特になにもないな」


「だろう?いいか、不可侵条約は我が国ではなく占領軍との

契約だったはずだ。それがなくなったのだ。

これ以上の説明は必要あるまい。

魔人は全員この国の国民となり国防軍の体裁を早急に整えて欲しい。

私はこれからルド王国をはじめ各国との協議をせねばならん。

安全保障条約を反古にして討伐軍に参加しなかったパールバディア

は良くは思われてはおらんはずだ。

宣戦布告無しに攻め入られる可能性も

視野に入れなければならん。

それに外交交渉をするときに

軍の後ろ盾がない国王などなめられて終わりだわ」


「ふむ。今後は外交をどうするつもりだ?」


「我が国は他国の支援無しに生活を維持できるのだ。

今後は中立国として人間にも魔人にも与しない立場をとる。

貿易や文化交流には応じるが連合軍の参加は拒否するつもりだ」


「拒否できるのか?」

「これから君がつくる軍しだいだな」

「人質に取られたか」

「悪い方に受け取るなよ。

敗戦国の将として全責任を負って絞首刑にでもなるより

ましだろう。それは魔人の軍人全員に言えることだぞ」


「わかった、俺の負けだ。

すぐにでも国防軍の再編にとりかかろう」

「頼んだ。あまり時間はないからな」


 それから俺は生き残りの軍人を集め事情を説明した。

「もはや私は諸君らに命令できる立場ではない。

だからこれは強制ではないのだ。

もし軍人を辞めたいのであればそれでもいい。

各自の意志を尊重する」


 一人の兵士が質問してきた。

「新たに編成するパールバディア国防軍は

人間の国と戦争をするのでありますか?」

「それは目的にしていない。

我々から他国に宣戦布告することはない。

しかし攻め込まれたら防戦しなければならない」


 今度は違う将校が質問してきた。

「投降しなかった生き残りが続々とパールバディアに

逃げ込んで来ました。

私もその一人です。

討伐軍は我々の身柄を引き渡せと要求してくるでしょう。

その時はどうしますか?」


「いざというときはもちろん戦う。

俺も逃亡者の一人だしな。

エインリヒ国王は俺達を討伐軍に引き渡すことは

しないと明言し、新たな国防軍の編成を要請してきた。

俺達はパールバディア国民としてこの国の国民の

生命財産を守ることを目的とした新たな軍の軍人になるのだ。

パールバディアは今後中立を宣言し人間の国にも魔人の国にも

与しないことになる。

世界の中で孤立した国になるかもしれん。

その時は世界を相手に戦う事になる可能性もある。

諸君。各自が考えて欲しい。しかし時間はあまりない。

志願する者は明後日に軍の練兵場に集まって貰いたい。

以上だ」


 結局離脱した者はほとんどいなかった。

新たな軍の編成には生粋のパールバディア人も加わり

最終的には万を超す軍が編成された。


 そして何より大きいのは魔道銃のコピー品が

生産できるようになった事だ。


 討伐軍からぶんどってきたライフル型と拳銃型の魔道銃。

当初は定型サイズの土弾の生成が安定せずに苦労していたが

生成室をミスリル鋼で作り高位の土魔法使いが魔法の固定化

を施すことによりコピー品が出来上がったのだ。


 王はことのほか喜んでいた。

「グレイン、まだ一気に大量生産は出来ないみたいだが

どれくらいの数を揃えられる?」

「はっ。現在200丁を超えるライフル型魔道銃を保有しております。

ミスリル鋼が不足しているため新たな鉱山開発をせねばなりますまい」


「うむ。東の山脈に鉱山があるのだが規模を拡大して

生産量を増やすよう通達する。

ところでなぜ口調を変えた?」


「私は陛下の軍を預かる将軍です。

一人の軍人として、パールバディア国民として

陛下を敬う立場にありますので今後はそのように」

「そうか」

「はい」

「・・・・」

「なにか?」


「公の話をするときはそれでいい。

だがそうでないときは今まで通りフランクな口調で頼む」

「それはなぜでしょうか?」

「ワシ友達おらんのよ」


 俺はわざとらしく辺りを見渡し

誰もいないことを強調して確認した。

「王よ、頂点に立つ者は孤独よのう」

「ああ。お前と共和制の話をしているときが

一番楽しかった。二人で密談するときは今までどおりだ」


「わかったよ。存外面白い王だな」

「お前も変わった魔人だな」


「「はっはははは」」


~~2年後~~

~~パールバディアのエインリヒ国王~~


「グレイン提督。反乱軍はどうなったんだね?」

「陛下、首謀者の貴族は全員捕らえました。

国王の指示通り死人は最低限に抑えたつもりであります」

「ご苦労だった。提督、少し話がある。

私の執務室に来たまえ」


 二人で執務室に入る。

最近国民の間で流行しつつあるコーヒーという飲み物を

持ってきて貰った。

私は苦手なので今まで通り紅茶を所望したが

グレインは好んでこの真っ黒い液体をたしなんでいる。


「グレイン、これで共和制への道筋は整ったな」

「ああ、王よ。だが今回のクーデター騒ぎは腑に落ちない点が

多々あるぞ。そろそろ種明かしをしてくれ」


「相変わらず鋭いな。

簡単に言うと共和制の導入に反対していた貴族を

結託させクーデターを起こさせたのは私だ」


「おおかたそんなこったろうと思っていたが。

しかしやることが大胆だね。ばれたらどうするつもりだ?」

「すっとぼけるさ」


 グレインはコーヒーを一口飲み

ニヤリと笑った。

「面白い王だよ。おかげで退屈しない」


~~グレイン提督~~


 あの戦争が終わった直後、案の定討伐軍は

パールバディアに残っている魔人の引き渡しを

要求してきたが王がこれを一蹴。


 魔人は全員新制パールバディア共和国の国民となり

新しい国作りに尽力する。

彼等を犯罪者呼ばわりするのであれば戦争も辞さない

というエインリヒ国王の強気な態度の背景には

俺達魔人の軍人達が中心になり作り上げたパールバディア国防軍

の存在があったからである。


 魔道銃もルド王国ほどではないがそれなりの数の生産が

可能となっていたのも大きかった。


 結局パールバディアはしばらくの間は国際連絡会議に加わらず

中立国として魔人も人間も差別することのない共存共栄の道を模索する

実験国家としての役割を継続することになったのである。


 ルド王国のアレックス新国王を説得できたのも大きかった。


「味噌に醤油にカツオブシ、それにコーヒーか。

やればできるもんだなあ。

俺だけじゃなくソーイチやアケミ姫の存在は大きかった。

もしエリックが開発に加わっていたらな」


 この世界に『日本』を作る俺の野望は

思っていた形にはほど遠いが

かなりの分野で成功していると言える。


 なかなか上手くいかない分野も多いが

だからこそ面白いとも言えるのだ。


「そのうち飛行機作りにも着手したいな」


 まだしばらくは楽しめそうだ。

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