5-4 最終話 冒険は終わらない
~~戦後40年~~
王位を長男に譲った。
私は先王と呼ばれる事を嫌い『隠居』と呼ばせることにした。
権利権限はすべて息子に移譲し完全に引退したのである。
引退後は亡き母が愛した北の塔に居を移し
妻クロエと共に花を愛でる好々爺になっていた。
少数の護衛を伴い妻と旅行に行ったりもした。
時折遊びに来る孫を甘やかしては息子の嫁に
嫌味を言われたりもする極普通のおじいちゃんだ。
普通、王の引退は死ぬときである。
だが私は生前移譲を行った。
それは近年国民の栄養状態が改善され寿命が延びてきたため
いつまで経っても引退しない年寄りは若者の成長を
阻害する存在であると思ったため私自身が早期引退の
先例となったのだ。
~~戦後70年~~
88才になった。
自分はいったい何時死ぬのだろう?
息子は先に死に今は孫が国王になっている。
妻のクロエもそして聖女セシリア殿も先に逝った。
孫は私に対して優しく接してくれている。
この際100まで生きてくださいなどと言っているが
さすがにそれは無理だろう。
孫達の世代がのびのびと仕事が出来るように
私は城を出ることにした。
1000年前の勇者が晩年を過ごしたと言われる
ルドアニアの郊外の土地に小さな家を建てて貰い
そこに移り住んだ。
~~アレックス93才~~
ここ数日は微睡む時間がかなり長くなった。
意識が覚醒している時間は極端に短くなってきている。
もうそろそろお迎えがくるだろう。
身体が重く感じる。
濃密な大気に体全体を圧迫されたような感覚。
もう抗えない。
さよならだ。
先に逝った者達に会えるのだろうか。
そうあって欲しい。
私は、わたし・・・は・・・・・
~~エリック~~
鈴木との話を終え会議室を出るとそこは密林だった。
渡された魔道バッグには一通りの装備が入っているそうだ。
「鈴木め。相変わらず肝心な所ははぐらかされたっぽいが
おおむね謎は解けたかな。ヤレヤレだよ。
さて外の時間は流れに流れて約77年後か。
殿下を迎えに行くのは満月の夜で二日後だな。
あんまり時間に余裕はないな」
まずは『代わりの死体』を用意しなければならない。
コボルトを討伐してそれっぽく加工すれば良いと言われたが
あまり気持ちの良い工作ではない。
「転生してきたときに言われた切ったり張ったり
継いだり縫ったりというのは冗談ではなかったのか」
苦笑しながら狩ったコボルトを加工して死体を用意した。
「あ、そうだ。殿下の着替えどうすんだよ。
バッグには入ってないぞ」
バッグを漁ると数枚の金貨と銀貨が出てきた。
「買いに行くか。っつーかここどこよ」
上空に出て周囲を確認してみた。
「ふむ。ルド王国内っぽい。
おそらくあの都市はオリビアかな?
まだ『世界樹』ってあるんだろうか」
興味本位で歓楽街に行ってみるとはたしてそこには・・・
「あったよ。心が揺れるわぁ。でも資金ギリギリだからなあ。
まあこの手のお店は次の世界で殿下と一緒に楽しもうっと」
商店街で冒険者用の服を調達。
ついでにブーツと短剣も買った。
その他余ったオカネで必要そうな装備を揃えた。
「なんだよ、ホントにオカネなくなっちゃた。
メシ食ったらすっからかんだな」
オリビアを出てルドアニアの郊外にある一軒家を確認する。
明日の夜中に迎えに行けばいいのでそれまでは森の中に
土魔法でシェルターを作り仮眠を取った。
夜になり満月が出ているのを確認。
『あー、てすてす。ただいまマイクのテスト中』
『うおっ!びっくりした!
鈴木かよ、いきなり念話で話しかけやがって』
『まあそう言わずに。
さっきアレックスさんが息を引き取りましたよ』
『お、丁度良いな。じゃあ迎えに行くわ』
『アレックスさんの部屋で空間を開ければ
次の世界に繋ぎますので。
よろしく頼みますよ』
『よろしく頼まれますよっと』
これから殿下を迎えに行き色々説明しなけりゃならない。
そして『勇者の物語』と大賢者サミュエルが語ってくれた
エピソード通りのシナリオを進めていくことになる。
それさえやっておけば後はわりかし自由だ。
だが殿下には俺がある程度の流れを知っていることは
隠さなければならない。
あまりにも過去が変わりすぎると未来に繋がらなく
可能性が生じるため俺以外は知らない方が良いからだと言われた。
嘘か本当かはわからないが信じるより仕方ないだろう。
俺は殿下の寝室前に空間を繋ぎ鍵のかかっていない
掃き出し窓を開けて寝室に侵入した。
~~アレックス~~
ふと目が覚めた。
意識ははっきりしている。
今は夜中らしい。
窓からは満月の月明かりが差し込んでいた。
「殿下、こんばんわ」
「むっ?誰だ!?」
庭に通じる掃き出し窓に一人の男が立っていた。
そう、この男は・・・・・
「エリックじゃないか。久しぶりだね。
そうか、君が迎えに来てくれたのか。
てっきりクロエが来るかとばかり思っていたが」
「はい?なにか勘違いしてませんか、殿下。いや陛下、かな」
「どちらでもない。王はとっくに辞めている。
で、私はなにを勘違いしているのかね?」
「サイドボードに手鏡があるでしょう。
それをのぞき込んでください。
今魔道ライトつけますね」
エリックは手のひらで光の球を作り出し
部屋の天井に張り付かせた。
眩しい光に目が慣れてきたので手鏡をのぞき込んだ。
「これは・・・私なのか?
まるで18才に戻ったような若さではないか。
そうか、元気な時の姿で天に召されるのだな。
神もなかなか粋な計らいを・・・・・」
「いやいやいや、生きてますから。
死んでませんってば」
自分で自分の脈を取ってみた。
心臓は元気に鼓動している。
「いったいなにが起こったのだ。
説明してくれるか、エリック?」
「もちろんですよ。
俺と魔王が消えたあの日のことを思い出してください。
殿下はクレイグの反撃にあい瀕死の重傷を負いましたよね」
「ああ、はっきりと覚えている。
だがなぜそれを君が知っているのだ?」
「『神』に聞いた、とだけ」
「そうか。神に会ったのか。
続けてくれるか?」
「はい。その時殿下はアリアが持っていた『龍の涙』
というエルフに伝わる秘薬を飲んでいますね」
「ああ、記憶にないが後で聞かされたぞ」
「あれは蘇生薬の一種だったんです。
飲んだ者は死んだときにその薬を飲んだ当時の
より健康な状態に戻るそうです。
先ほど殿下は寿命が尽きて死んだんですね。
そこで『龍の涙』が発動して18才当時の身体に
戻ったんだそうです」
「にわかには信じられないが・・・・
だが今私は若返っている。生きている。
信じるしかなさそうだ。
で、エリックがここに来た理由は?」
「お迎えにあがりました」
「やはり私は死んでいるのか」
「めんどくせー。
文字通り若返った殿下を迎えに来たんですぅ」
「冗談だ。迎えに来たと言うことは
どこかに連れて行ってくれるのか?」
「もちろんです」
「どこへ?なにしに?」
「ここではないどこかに。魔王を倒しにです」
「魔王は死んでなかったのか?」
「いいえ、この世界の魔王は死んでます。
もう復活もありません。
別の世界で俺と殿下は魔王を倒す冒険の旅に出るんですよ。
殿下が断るとは思っていません。
いまワクワクしてるでしょ?」
すべて見透かされている。
そうだ、今私はこの上なくワクワクしているのだ。
「じゃあこれに着替えてください。
その辛気くさいパジャマは脱いでくださいね」
「いや待て・・・・自分が居なくなったら
周りの人間が対処に困るだろう」
「そんなこともあろうかと!」
エリックは魔道バッグから一つの死体を取り出した。
「これは?私にそっくりじゃないか。
どこで調達したんだ」
「コボルトの死体を加工して継いだり切ったり
縫ったりして作りました。自信作です!
これを今殿下が来ていたパジャマを着せてベッドに寝かせて
よいしょっと。
あら不思議!殿下が死んでるみたい!」
「なにからなにまで用意がいいな。
確かにこれならここから私が消えても
誰も不思議に思わないだろう」
「なにかこの世界に思い残すことはありませんか?」
「いや、ない。私と共に生きた世代は皆先に逝ったからな」
エリックは部屋の隅に空間の入り口を開けた。
「では殿下、俺の手に掴まってください」
エリックの手を掴み一緒に空間を超える。
そこは草原だった。
「どこだここは?」
「さあ?自分も『違う世界』としか聞いてません。
ここで魔王を捜して倒せば良いらしいです」
「それが神に与えられた使命なのだな?」
「えっと・・・・はい、まあそうですね。
ところで殿下、今後はなんとお呼びすればよろしいですかね?」
「うん。せっかくの第二の人生だ。
新しい名前を決めて見るか。
それとエリック、私達は同い年のはずだ。
それに私はもはや王でもなんでもないただの一人の人間だ。
ため口で接してくれないか」
「オッケー、じゃそれで。名前どうする?」
「エリックが決めてくれ」
「『アーノルド』で!」
「おお、強そうな名だな。気に入ったよ。それにする」
「俺もこの際改名することにしたよ。
これからは『カイト』って呼んでね」
「わかった、カイト。
改めてよろしくな。
さて、これからどうする?」
「ちょっと待ってね。上から見てみる」
カイトは上空に空を繋ぎ
辺りを見回してから降りてきた。
「アッチに町があったよ。そこまで飛ぼうか」
「いや、積もる話もある。
魔王討伐の期限は決まってないんだろ?
のんびりと話しながら歩いていこう」
エリック、いやカイトは人なつっこい笑顔で答えた。
「いいね、じゃあ行こうか!」
こうして私は勇者と共に新たな冒険の旅に出たのだ。
~fin~
最後まで読んでくれた皆様、ありがとう御座いました。
初めて書いた連載長編小説です。
当初の目標である「最後まで書ききること」
は無事達成できました。
そして小説家になろう!でアップされてる数多くの転生物の作者の
皆様ありがとう御座いました。
いわゆるテンプレ設定というフォーマットがあったからこそ
世界観の設定にさほど困ることはありませんでした。
数多くの先達達の資産を勝手に利用させて貰ったようなもので
ここでお礼を言うだけでは足りないかもしれませんね。
物語は完結しましたが登場人物のその後を
少しずつアップしていきたいと思います。
次回作は勇者エリックの息子が主人公の
SFがらみファンタジー作品になる予定です。
*追記
新作『勇者の子、失踪中! ~失われし文明の調整官と勇者の子~』
http://ncode.syosetu.com/n0103eh/
始めました。
こちらもよろしくお願いいたします!