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5-3 『冒険記』のその後 語り部アレックスその2



~~戦後1年~~


 聖女セシリア殿がエリックとの子供を出産した。


 戦後の復興は順調に進んでいる。

だが問題がない訳ではない。


 まずは魔道銃問題。

民間に流れた銃が犯罪に使われるケースが増えてきた。

そこで銃の所持を許可制とし軍、警察それにライセンスを

受けた狩猟者、冒険者に限る事になった。


 全国で魔道銃狩りが行われかなりの数が回収された。

中にはパールバディア製の魔道銃もあり武器の密輸で

外貨を稼いでいるのではとの疑惑が起こったが

これは証明することは出来なかった。


 次に軍の規模である。

しばらく戦争はないだろうとは思うが将来どうなるかなんて

誰にもわからない。


 出来うる限り強大な軍を保有していれば外交でも圧力を

掛けることが出来るのはわかっているのだが、

平和な時代に大勢の兵を養うのは費用も馬鹿にならない。


 討伐軍は国軍に編入され新たな軍が再編された。

海上警備の名目でウーファには軍港が作られ

新たに海軍が作られた。


 アメイデ・クルベ将軍は初の海軍大将に抜擢され

大張り切りだった。


 ~~戦後2年~~


 私とクロエの間にも第一子が生まれた。

男の子だった。

城は賑やかになった。


 戦後のベビーブームに生まれた世代はみなすくすくと成長していった。

年が近いこともあり勇者の子と我が王家の子は仲が良かった。


 その頃パールバディアで内乱が起こった。

貴族制度の廃止に反対した貴族連合と

国防軍の戦闘があったのだがどうやら三日で収束したらしい。


 結果として貴族制度は廃止された。

王家は象徴として存在し

平和外交の場に出席するのみとなった。


 王は君主ではあるが政治を民に委託する形を取り

定期的に選挙で選ばれる政治家達がパールバディアを

治めていく新制パールバディア共和国が誕生したのである。


 魔人の国は名前をクワイト共和国にし債務返済が完了した

暁には国際連絡会議への参加が認められる事になった。


 アケミ姫は結局ルド王国には帰ってきていない。

魔人の国のお姫様をやっている。


 身分は姫だが税金で養われるのを拒否し服飾デザインや料理研究

などの分野で活躍し自分で稼いでいるらしい。


 アケミ姫はソーイチなる人物と結婚したが旦那は王族には

入れずアケミ姫が亡くなったら王家は自然消滅するのだそうだ。


 パールバディアにクワイト。

この二つの国は国民が政治を行っていく点が

我々王政の国との最大の違いである。


 我が国の王政、貴族制度にもなにも問題がないわけではない。

私の目の黒いうちは王政を維持するつもりだが

遠い将来この世界から王という位が消え去る時代が

来てもおかしくはないだろう。


~~戦後10年~~


 パールバディア共和国は

国際連絡会議に加わり会議には議員団を派遣してきたのだった。

クワイト共和国も債務の返済を完了し会議に参加してきた。


 これからは魔人と人間が協力して

平和な時代を築き上げていく事を約束した。

 

 その年に開催された会議の場にパールバディアからは

グレイン提督が護衛で参加してきたので面会し話をした。


「お久しぶりです、アレックス国王陛下」

「グレイン提督、お元気そうで。積もる話がありますな」

「ええ、お互いに」


「提督。あなたがパールバディアで始めた

実験は成功したと言えるでしょう」

「有り難きお言葉。ですがまだ道半ばであります」

「と言うのは?」


「はい。共和制、民の政治への参加。

これを高いレベルで実現するにはそれなりの知識と教養が

求められるのです。

そのためには教育制度の改革と確立が必要ですな」

「なるほど。教育は大切ですな」


「ところで話は変わりますが勇者のお子様はお元気ですかな?」

「ええ、すくすく成長しておりますよ」

「エリックと関所で立ち話をしたのが懐かしい」


「そう言えば会談が終わった時あなたはエリックに

なにかささやいているようでしたが、何の話だったんですか?」

「あの時ですか。『死ぬなよ』ですな」

「立場上なかなか言えない台詞だとおもいますが」


「ええ、あの時にも話をしましたが私は人間との共存を

進めていく派閥でした。

勇者エリックには純粋に人としての魅力を感じていたので

死んで欲しくなかったのです」


 グレインは国交を絶っていた間にパールバディアで

なにをやっていたのかを教えてくれた。


「なるほど。産業の発展に力を注いでいたわけですか。

それで納得がいきました。

現在我が国は対パールバディアの貿易は赤字なんです。

パールバディアから入ってくる製品の質の高さには

驚かされてばかりですな」


「お褒めいただき光栄であります。

しかし私は示唆しただけで実際に産業を

発展させていったのはパールバディアの国民なんです」


「どうも提督と話をしていると軍人というよりも

優秀な商人と話をしているような印象です。

もちろん褒め言葉ですぞ」


「わかってます。実は自分も軍人より商売の方が向いているかも

しれないと思ってるんですわ」


 豪快に笑うグレイン提督につられて自分も笑顔になった。

久しぶりに楽しいと思える『外交』だった。


~~戦後20年~~


 くうを使える魔法使い達は数は少ない。

スフィーアに戻ってから数年後にお亡くなりになったロウ老師

が魔道トンネルを作れる最後の魔法使いだったので

魔道トンネル自体が失われた高位魔法となってしまった。


 現在は人々の移動は徒歩、馬車、船に頼るしかない。

それでも街道が整備され軌道馬車のレールが

至る所に張り巡らされ、以前よりは世界との距離が近くなった。


 そこで世界共通の暦の導入が提案され

戦争が終結した年を統合暦元年と呼ぶことになった。

ちなみに我が国ルド王国紀は1000年を超えており

国内ではこちらの使用が主流である。

カレンダーは両方を併記することになった。


 そして統合暦20年の今年、

勇者の息子トールが失踪した。


 トール・フィロワは母である聖女セシリアに育てられた。

魔法の才には恵まれなかったが努力家であり

士官学校は主席で卒業した優秀な人物だ。

卒業後は国軍に入り最終階級は少佐だったが

突然退役し姿を消した。


 フィロワ家と我が王家は家族ぐるみの付き合いだったので

子供達も仲が良い。


 ちなみに、ではあるが。

我妻クロエは次男坊を生んだ翌年に姫を出産している。

末娘の成人の儀を前に居なくなってしまったので

娘は激怒していた。


 トールの失踪の真実を知っていながらそれを子供達に

伝える事が出来ないのは心苦しく思ったが

子供達も数年後にはわかるだろう。


 そんなことよりセシリア殿と私の二人だけの秘密を

持てたことが何より嬉しかった。


 もちろんそんな事妻には言えないが。


次回が最終話です!

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