4-22 魔人の国へ 大侵攻作戦 その8
~~エリック~~
「ダレス、離れていろ!」
石造りの建物の中だ。
おそらくここは魔王城の一室だろう。
「ようこそ私の城へ。
楽しく遊びましょ」
魔王は火魔法を自分の腕に巻かれた縄に発動させ
焼き切った。
火傷した自分の腕は自分の治癒魔法で一瞬で治した。
チョーカーを外した魔王は空をこまめに繋ぎなら
殴りかかってくる。
俺も空を使い魔王をの攻撃をかわしながら
逆にパンチを繰り出した。
ダレスが再び魔王に突進。
「捕まえた!」
ダレスが羽交い締めにした魔王の顔面を殴り続けた。
「かゆさも感じないわ。もっと真面目にやって。
ああ、それから一つ忠告。
この城のどこかにアケミがいるわよ。
あまり大規模な魔法を使うとアケミごと巻き込むかもね」
『えーちゃん!頼む、見つけてくれ』
『任せろ!エリックは戦いに集中してくれ』
『おうよ!』
魔王の肘打ちがダレスのあごに入る。
「いってぇ!」
思わず手を離したダレスは魔王に蹴られ壁に激突した。
「ダレス!無事か!?」
「僕は大丈夫!」
ダレスは自分の左腕を押さえている。
折れてなければいいのだが。
「どこ見てるの?」
背後に現れた魔王の気配に一瞬体中の毛が逆立った。
振り向き様に剣を横なぎに振る。
切っ先は魔王の服の腹の辺りを切り裂いた。
間合いが足りなかったのか避けられたのかはわからないが
魔王の身体にダメージを与えるには至らない。
「ふふ、そろそろ魔力切れじゃなくて?」
「はっ、だからなめるなと言っただろ。まだ余裕だよ!」
『エリック、見つけたぞ。一階の厨房にいる』
『サンキュー、えーちゃん!』
「ダレス、一階の厨房にアケミがいる。
確保して何とか外に連れ出してくれ!」
「わかったよ!」
部屋を走って出て行こうとするダレスに魔王が
石弾を放った。
だがアリアの御守りが発動しすべて防いだ。
「魔王こそそろそろ限界じゃないのか?
魔法の効きが悪くなってるぞ」
「・・・・・あんた、何かしてるの?」
「なにも。やってたとしても言うわけないだろう」
おそらく大賢者サミュエルがくれたペンダントのおかげだ。
このペンダントは俺が空気中から、そして大地から魔素を引き出す
力を増幅させている。
魔王が受け取るはずの魔素まで俺に来ているに違いない。
「らちが開かないわ。来なさい」
魔王は俺の身体に触れると魔王が開けた空間に
俺を引っ張り込んだ。
空間を出ると同時に落下が始まる。
すぐに足下に魔道障壁を発生させて乗った。
どうやら魔王城の上空らしい。
空中での空を使った鬼ごっこが始まる。
~~ブランカ~~
クレイグの魔石を拾い上げると何かが足に当たった。
慌てて障壁を張る。
地面以外の全方向に張った障壁にはあり得ない数の
銃弾が当たり始める。
「ここで邪魔するなんて無粋な連中だわ!」
生成した障壁ごと空に入り上空に出る。
回転しながら無数の散弾状の土弾を眼下の討伐軍兵士達に
向けて放ちまくる。
だが連中も次から次へと沸いてきて私に向かい銃弾を
浴びせてくる。
もはや通常出力の魔法では対処できない。
質の悪い魔石を爆発させてみた。
一つでは足りない。
もう一つ。
まだ足りないのか。
討伐軍の数は減ったようには見えない。
そろそろ魔石がない。
クレイグの魔石は最後まで取っておかねばならない。
これは質の悪い最後の一つだ。
爆発に巻き込まれたビルが派手に倒壊したのを
歪んだ視界の端で確認。
もう頭痛はしない。
むしろその逆だ。
なにこれ、気持ちいい。
もっと撃ちたい。
魔石はどこ?
ビルの屋上に数人の魔人の死体を発見した。
降り立ち胸部に穴を開け幾つか魔石を手に入れた。
ビルの上から人の密度が高い場所を探し魔石を送り圧縮。
そして爆発。
「いいわ、すごく気持ちいい!」
身体が快感に耐えきれずビクビクと痙攣する。
「はぁっ!あん!もっと・・いかせて・・もっとぉ!」
どこ?ましぇ・・・き・・魔石は・・
あった。あのビル、魔人のしたいがいぱいあ・・ころがて・・
転がってい・・・・ああ!またきた!気持ちいい!
邪魔よ、じゃ・・ま・・肋骨?ないぞうをぶちまけ・・て
死体の・・・とった、とった、い・・石よ!
はああっん!あんああん!
すごいすごい!しゅ・・・ごいいいいい!
撃つわ!撃つわよ!来て・・・・きてきてきて!
もっと、もと・・いっぱいきてぇぇぇぇ!
は・・・あははは・・・・にんげん・・・ちぎれて。
と・・・んでる。飛んで・・・
あははははは・・・まだ撃てるわ撃つわ
撃つわ撃つわ撃つわ撃つわ撃つわ撃つわ
来て来て来て来て来て来て来て来て来て
おか・・・・おかしく、なっちゃう!
うああああ!
もうない、もうないの?
石がない魔石が・・・ま・・・しぇき
あった、あるわ。まだあるわ。
最後のひとつ、クレイ・・・い・・誰だっけ?
あるわ、ま・・・あれ・・・わたし・・・なにを?
そうだ・・・う・さま。魔王様を・・・そうだそうだ
いかなきゃ・・・いく・・・ああああ!・・・・魔王様!
~~アケミ~~
「あ、アケミさんですか!?」
「そうだけど。あなたは誰?」
「僕はダレス!エリックの仲間です、助けに来ました!」
「エリック・・・・・ここに来てるの?」
「はい、今上の方で魔王と戦ってます!」
ダレスと名乗った少年は息を切らしていた。
私はカップにお茶そ注ぎダレスに手渡した。
「これ飲んで。まずは息を整えなさい」
「あ・・・ありがとう。いただきます!」
ごくごくと喉を鳴らし一気に冷たいお茶を飲み干すダレスを
黙って眺めた。
「アケミさん。魔王が大規模な魔法を使ったらこの城が
壊れるかもしれません。逃げましょう」
「魔王城の周りはバリケードで封鎖されてるわ。
空使いじゃないと乗り越えられない。
私は魔法が使えないのだけどあなたは?」
「すいません、僕も使えません。
でも剛力を持ってます。
アケミさんを抱えてジャンプすれば・・・」
「かなり高い針山のようなバリケードよ。
かつて私も魔王の剛力を持っていたからわかる。
あれは飛び越えられない」
「じゃ、どっか逃げ道はありませんか?」
「ないわね。強いて言うならここよりまだ地下の方が安全かな?」
「じゃ地下に行きましょう!」
「わかった。案内するからついてきて」
階段を地下に下りながら私は魔王の最後の後ろ姿を
思い出していた。
~~魔王~~
おかしい。
なぜ私が空を繋いだ先がわかるのだ。
どんなに逃げても一瞬後にエリックが何か仕掛けてくる。
魔法だったりパンチだったり。
それにいつもより身体が重く感じる。
大気中にいくらでもあふれている魔素は私の精神に呼応して
勝手に集まってくる。
いつもなら。
だが今は魔素が薄くなっているような気さえしてきた。
「エリック、さっきからなにを仕掛けてきてるのだ!?」
「だから知らねぇって!知ってても教えねぇよ!」
エリックのケリがみぞおちに入った。
とっさに障壁を張ったが障壁ごと飛ばされた。
慌てて空間を空け魔王城の屋上に降り立つ。
と、同時に背後に立ったエリックに
再びチョーカーを巻かれた。
右腕を後ろにねじり上げられ屋上の床に
押さえつけられてしまった。
このままでは腕を折られる。
右腕はくれてやるか?その後のプランは?
そう思った瞬間。
「ま、まおうしゃま!」
目の前に突然ブランカが現れた。
と、ほぼ同時に辺りは真っ白い光に包まれた。
~~エリック~~
パールバディアの草原で魔王と繰り広げた死の鬼ごっこ。
あの時は大賢者サミュエルがくれたペンダントはなかった。
それにえーちゃんも居なかった。
今はペンダントのおかげで魔力切れは心配ない。
えーちゃんは絶え間なく俯瞰映像を俺の頭の中に直接
送ってくれている。
魔王がどこに現れてもすぐに対処出来るのだ。
「エリック、さっきからなにを仕掛けてきてるのだ!?」
「だから知らねぇって!知ってても教えねぇよ!」
魔王が屋上に降り立つとほぼ同時に背後に空を
繋ぎ、拾っておいたチョーカーを魔王の首に巻き
右腕をねじり上げ地面に押さえつけた。
剛力を封じられた魔王など俺の普段の腕力と体重で
充分押さえきれる。
このまま土弾で頭をつぶせば・・・・
そう思った瞬間。
「ま、まおうしゃま!」
目の前に突然例の女が現れた。
と、ほぼ同時に辺りは真っ白い光に包まれた。