4-17 魔人の国へ 大侵攻作戦 その3
~~セシリア~~
聖女隊も全勢力をこの侵攻作戦に投入している。
当初パールバディアの裏切りに対処出来るように
ルド王国に一人くらいは残しておくべきでは?
という意見もあったが殿下がそれを一蹴。
『パールバディアの魔人共も本国の防衛に
駆り出されるはずだ。
聖女隊は全員大侵攻作戦に付いてきて貰いたい』
教会は全面的に支持した。
ルドアニアに残っていたビアンカとイヴォンヌも
やってきた。
「ビアンカ、イヴォンヌ。久しぶりね。
魔人の国の王都を囲むように四つの陣が敷いてあるの。
各陣に一人ずつ聖女が行くことになるわ。
みんなよろしくね!」
エリックが来た。
「聖女隊のみんな、お待たせ。
早速移動するけど配属は決まったの?」
「私はここの南の陣に残る。
みんな希望はある?」
クロエとイヴォンヌはどこでも良いと言っていたが
ビアンカだけは希望を出した。
「ツイーネのランス国王がいる陣へお願い。
なんだか懐かれちゃってねぇ。放っておけないわ」
「もちろんオッケーよ。というかランス国王来てたんだ」
エリックが説明してくれた。
「ツイーネは壊滅状態で軍もほぼ全滅させられた。
しかし生き残りの軍人と民間から募った義勇兵が
500人ほど来てるんだ」
「500人か。ランス国王の護衛は居るのかしら」
「おそらくそこまでは手が廻らないだろうね」
「でもツイーネの現状を考えると護衛をなくして
少しでも多く討伐軍に加えなきゃならないのでしょ」
「アレックス殿下もその辺は理解してる。
例え数は少なくともこの大侵攻作戦に参加しておかなきゃ
後で他の国から文句が出るかも知れない。
既成事実作りの意図でも別にかまわないと言ってたな」
「さすが殿下ね。わかったわ。
ビアンカ、よろしく頼むわ」
「まかせなさい」
筋骨隆々の二の腕を組み不適な笑みを浮かべる
史上最強の聖女ビアンカ。
彼女なら護衛の任も同時にこなせるかも。
エリックに運ばれて聖女と聖女隊が各陣に配置された。
「エリックはどうするの?」
「戦況を見極めて魔王城に行く。
市街戦では魔人の軍が善戦しているらしいのでね。
まずは援護に行くよ」
「わかった、気をつけてね」
空間に消えるエリックを見送った。
「聖女隊のみんな、既に怪我人が運ばれ始めてるわ。
私達も私達の仕事をしましょう!」
~~ランス国王~~
思えば不思議な境遇である。
元ツイーネ国王の甥である自分の王位継承権は
一番低かったのだ。
だが王族の血を引く唯一の人間になってしまった自分が
国王としてこれからのツイーネを牽引していかねばならない。
あの時なぜ魔人は自分を助けたのだろうか。
人里からほぼ隔絶された山奥の里に自分を連れて行ってくれた
二人の魔人は今どうしているのだろう。
「ランス陛下、新ツイーネ国軍の将兵はすべて
連合軍の指揮下に入りました。
しかし護衛は数名つけさせていただきます」
新たに将軍に任命した者が報告に来た。
私の護衛は要らないと言ったはずだがそれは出来ないと
拒否されてしまったのだ。
「それと我々が居る東の陣に
聖女ビアンカ様が来てくださいました」
「おお、それは心強い。
挨拶に行かねば」
ルド王国のアレックス殿下は約束を守ってくれた。
ルドアニアのイリシス教中央教会に掛け合い
聖女様を我が国の大規模な追悼ミサに派遣してくれた。
それがビアンカ様だ。
「ビアンカ様、来ていただき大変心強く思います」
「ランス陛下、私でお役に立てかどうかわかりませんが」
修道着を着ていてもわかる逞しい肉体。
いつ見てもほれぼれする。
「陛下、なにか?」
「い、いえ。なんでもありません。
早速救護用のテントにご案内いたしますね」
~~冒険者達と亡国の姫君~~
「うおおおおお!やばいやばい!」
見たこともない大きな魔物に組み敷かれるウィリー
は叫びながら魔道銃のトリガーを何度も引き絞る。
シェリーが解き放った散弾状の石弾が魔物の目に当たった。
目を押さえながらのたうち回る魔物の首をエドがロングソードで
一刀両断した。
「ウィリー、無事か?」
「ああ、間一髪だったが。
エド、シェリー、ありがとな」
魔人の国への大侵攻作戦には数多くの冒険者も
参加している。
現地で魔石を調達するためだ。
シェリー姫もスフィーア亡命政府の代表として
大侵攻作戦に参加することを決めた。
だが軍を持たない亡命政府は戦闘には加わることは
許可されず、現地で魔物を狩る冒険者達のまとめ役を
仰せつかったのだ。
ウィリーとエドが二人で魔物を捌き始めた。
「しかしなんだこいつは。首から上は獅子のようだが
毛むくじゃらの筋骨隆々の体躯はまるで人間じゃないか」
「ああ、ウィリー。俺もこんなの始めて見たよ。
だが見てみろ、これを」
エドは取り出した魔石を掲げた。
「でかいぜ。
これ一つで魔道銃のカートリッジがいくつできるか」
回収した魔石はルド王国が買い取ってくれる。
ウィリーとバリーとクリスの三人パーティは
当初大侵攻作戦には参加しないつもりだったが
エドに懇願されて付いてきたのだ。
「ま、どこで活動しても魔物を狩る時の身の危険度は
変わらないか。
バリーもクリスも死なない程度に頑張ろうぜ」
二人がうなずいた。
「ところでシェリー、戦争が終わったら国に帰るんだよな?」
「ええ、ウィリー。そのつもりよ」
「そっか。さみしくなるな」
「ふふ、ウィリーらしくないわね。
なんならスフィーアについてこない?
あちらでも冒険者は必要なのよ」
「お、スカウトされちゃったよ。
そうだな、考えておくよ。
今は戦争が勝利で終わることを祈ろうぜ」
「そうね。勝ってからの話だものね」
回収した魔石を南の陣に皆で届けに行った。
怪我人が多数陣に運ばれて来る。
救護テントから出てきた一人の兵士が話しかけてきた。
名は覚えてないがルドアニアの王城に勤めていた
近衛兵の一人であり顔見知りではある。
「エドさん、来てたんですね。
先ほどクレイグを発見しましたよ。
今ギルバート少佐が戦っておられます」
エドとシェリーの顔つきが変わった。
クレイグはスフィーアを滅ぼした張本人である。
ウィリーが二人の様子の変化に気がついた。
「おいエド、シェリー。自分たちの任務を忘れるなよ。
正直に言って二人がクレイグと対決したところで
勝ち目は薄いだろう。
変な気を起こさず生き残る事を考えろよ」
エドがシェリーの肩に手を置き返事をした。
「わかってる。俺達の目的はあくまでスフィーアの再建だ。
くやしいが仇を取るのは討伐軍とエリックに任せるしかない」
「すまんな、きつい言い方して。
エリック達の活躍を祈ろうぜ」