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1-13 クレイグの野望と回想

「俺もウォーターボールを覚えたぜ!」


 近所でも一番元気の良い同い年の男の子が嬉しそうに言う。


「試したいからさ、お前ちょっとそこに立ってろよ!」


 取り巻きの数人がにやにやしながら見てる。

全員黒髪だ。

俺は公園の隅にある大木を背にし、おびえながら立っていた。


 射出されたウォーターボールはピンポン球より小さい。

威力もたいしたことはなかった。


 が、肉体的ダメージよりも精神的ダメージのほうが大きかった。

それまでなんとなく感じていた彼等との壁のようなものを、

はっきり感じ取った出来事だった。


「なぜだ。なぜ、俺は金髪に生まれたんだ・・・・」


 王の執務室でニコラの退屈な報告を聞いてるウチに

意識が過去へ飛んでしまったようだな。

いかんいかん。

しかし簡単な内容なのに

良くもまあこれだけ話を引き延ばせるもんだ。


~~~~~~~~


 王家は何度か交代している。理由は様々だ。

現在の王家であるルドィン家は5世代前に王家の地位に就いた。


 それまでの王家は跡継ぎが出来なかったとの理由で退いている。

クーデターがあったわけでもなく平和的に交代したと記録に残っている。


 俺はそこに目をつけた。

『跡継ぎがいなかったのは現王家に抹殺されたから』

との噂を部下に流させた。

 

 次に流した噂は

『実は前王家の末裔が生きており王座奪還を目論んでいる』だ。


 噂には尾ひれをつけてやる。

圧政に苦しむ民を救う救世主、それが旧王家の末裔。


 別に圧政などない。

冷静にこの国の状況を見れば現王は

善政を敷いてる事など一目瞭然なのだが、

常に体制に不満を持ってる連中という者は一定数いるのだ。


 さらに噂を真に受ける層とこちらで

洗脳した層を合わせればそれなりの勢力になる。

こんな眉唾物の噂でも上手に使えば効力を発揮するのだ。


 外務調査室の報告でもスパイに流した

偽情報が届いていることがわかる。

ここは情報が集まる中枢、王城内の王執務室だ。


「父上、反抗勢力はまださほどの戦力を確保はしてないようですね」


「うむ、だが引き続き監視は必要だな」


 外務調査室室長のニコラが安堵した顔をしている。

良かったな、クビがつながって。皮一枚ではあるが。


 ニコラが退出し、しばらくしてからアレックスがやってきた。

近頃、日ごとに逞しく成長している。

芽は若いうちに摘んでおかねばならんな。


 俺はわざとらしく話題を振ってみた。

「アレックス、魔王討伐軍の編成は進んでいるのか?」


「はい、兄上。王の親書を外務部が隣国に送っております。

まだすべての国からの返事は届いてませんが、おおむね協力的ですね」


「ほう、幸先良いみたいじゃないか」


「ええ、というのは南の大陸の事件があったからでしょうね」


 事件とはガウンドワナ大陸の南端にある小国スフィーア王国が

魔王軍によって滅ぼされたという話だ。


 遠すぎて国交もなく、時折探検に言った者が情報を持ち帰るくらいで

真相ははっきりしない。


 が、俺は良く知ってるぞ。

なんてたって当事者だからな。

滅ぼされたのは事実だ。


 ローレルシア大陸の南側にあるいくつかの国は

魔王軍の侵攻に備え警戒を強めている。


 ガウンドワナ大陸の北側の国、

ガウンムア王国などは地続きのため気がきじゃないだろう。


 俺は魔王軍の上級佐官、特殊工作部隊に所属している。

任務はルド王国の攪乱だ。


世界最大の人口、経済力そして軍事力を持つ

この国を動けなくすれば

その他の国々など烏合の衆と化すからな。

北の大陸が混乱している間に南の大陸を制圧し

北へと侵攻するすればよい。


 誰がなんのために?

魔王様が世界を手中に収めるために、だ。


 もっとも魔王様はまだ完全に覚醒していないので

もう少し時間が必要だ。

そのおかげで俺はある程度時間をかけて

この国で工作活動をすることができる。

 

 大量の魔石を利用し母国の工作部隊が

魔法使いとともに作り上げた洗脳装置は上手く機能している。

そのおかげで俺はルド王国第一王子の

ポジションに居座り続けていられるのだ。


 もっとも洗脳に感覚が鈍い連中もごく少数いる。

だが装置は常に稼働し『感覚が鈍い』連中も

少しずつこちら側にやってきた。


 王妃もその一人だったが

完全に洗脳するまで3年かかってしまった。


 洗脳された王妃は幽閉を解かれ俺に会いに来た。

『息子よ、ハグしておくれ』と

満面の笑みで言い放ったのは傑作だったな。



「兄上、何か機嫌がよさそうですね」


「うん?アレックスがどんどん立派になっていくのが嬉しくてね」


「光栄です。兄上」

ふふ、人間共を騙すのは実に楽しい。



 ガウンドワナ大陸の北部にある人間の国は

ガウンムア王国だけだ。

その奥地は険しい高地とさらにその奥は

未開のジャングルが広がっている。


 魔王様の居城は大陸の中心部、

ジャングルの奥深くに位置する。


 もっとも北の人間共は「その辺にあるらしい」

といった程度の不確実な情報しかない。


 強力な魔物がうようよするジャングルを横切るのは

人間共にとっては至難だろう。


 1000年前、時の勇者が魔王を滅して以来、

俺たち魔人族は北の大陸から逃れ、

ジャングルの奥地を切り開き細々と生活を続けていた。


 今では魔王の居城を中心とした城下町が栄え

人口は100万以上に増えている。

元々その地に逃れてきた魔人だけでは

これだけの人口増加はありえない。


 魔力の高い人間の女をさらってきては

子供を産ませていたからこそだ。


 魔人族と人族の混血が増えたのだが、

一定の基準に達していない個体は間引きされる。


 基準となるのは魔石を体内に持って生まれたか否かだ。

魔石を持たない個体など例え魔法が使えたとしてもそれは

「魔法が使える人間」であって魔人ではない。


 魔人同士ならお互いの魔石の存在を感じ取る事が出来るので、

生まれたばかりの段階で選別される。


 人間との外見の差はほぼない。

違う点と言えば魔人族は黒髪であるとう事くらいだが、

決定的な違いではない。

少数ではあるが人間にも黒髪はいる。


 逆に混血がすすんだ現在の魔人族にも金髪がいたりする。

そう、俺の事だ。


 魔人族はもともと黒髪なので

俺みたいな金髪は異端視されやすい。

まったく居ないわけではないが、

やはり数が少ないと差別の対象になりやすいのだ。


 そのうえ身分が低い家系出身の俺は特に

差別されやすかったと言っていい。


 俺は自分の出自、外見を忌々しく思っていたりもしたのだが、

このまま黙って運命に翻弄されっぱなしでは面白くない。


 そんなわけで俺は実力でのし上がることにし、

軍に入ったのだ。

軍籍に身を置いた俺は

それなり以上に苦労して少しずつ出世していった。


 それでも限界がある。

4年前、俺は俺の家系でたどり着ける

最高の階級である上級尉官になっていた。

が、もうそれ以上の出世は望めなかったのだ。

 

 持って生まれた魔石の大きさは

ほぼ血筋で決まると言っても過言ではない。


 魔石が大きい程使える魔力量は増える。

大規模かつ複雑な魔法を使えるのだ。

出自で出世の限界が決まってしまうのはある意味合理的なのだ。


 しかし何にでも例外というものがある。

俺は出自の割には持って生まれた魔石が大きかった。


 実力では由緒正しい家柄の師弟にひけを取らないどころか、

圧倒することもできたのだ。


 それが差別を助長させてもいたのだが、

軍では階級がすべてだ。


 見下した連中を見返すには階級を上げれば良いのだ。

実にシンプルではないか。


 出自の限界を超えて出世するには実績をあげるしかない。


 4年前ガウンドワナ大陸の南端に位置する小国、

スフィーア王国に侵攻する計画が持ち上がった時は胸が躍った。


 待ちに待った戦争だ。

手柄を立てる最大のチャンスがやってきた。


 魔王様の復活に合わせて

強力な軍隊を作り上げねばならない。


 スフィーア程度の小国さえも

滅ぼすことが出来なければ世界征服など夢のまた夢。

この侵攻作戦は実戦形式の訓練みたいなものと考えられていた。


 しかし、意外にもスフィーアの抵抗は激しかった。

小国のくせになかなかに強力な魔法部隊を抱えていたのだ。


 数日で首都まで侵攻できるはずだったが

一ケ月もかかってしまった。

いや、もっとかかるはずだったが

俺が出張っていったからな。


 人間界では仙人扱いの魔法使いも俺と俺の部隊の敵ではなかった。

主力の魔法使いを次々と屠っていき首都を制圧した。


 意外と時間がかかってしまったため、

王族の何人かは国外へと脱出したあとだったのが悔やまれるが。

国に残り敗北を宣言した国王はその後処刑した。


 文句なしの実績を手に入れた俺は

二階級特進で中級佐官へと出世した。


 ルド王国攪乱作戦が立案された時も真っ先に手を挙げた。

外見的にも敵地に入り込みやすいのは

自分しか居ないと主張したのだ。


 その際にさらに一階級出世し

上級佐官の身分でルド王国に入り込んできたのだ。


 連れてきた部下は皆金髪ばかり。

一番怪しまれない外見だからとの理由で選別した。

彼等もまた外見で差別され不必要な苦労を強いられてきた。


 ここで活躍し出世して欲しいという思いもある。

作戦の主な内容は攪乱だが、別に滅ぼしてもいいんじゃないかな。

俺と俺の部隊ならできるはずだ。


~~~~~~~~~


国王がアレックスに命じている。

「各国を訪問し軍の規模や能力等見極めなくてはならないな。

アレックス、外務と軍務のしかるべき人物を

つけてやるから訪問してきなさい」


 ちょっと口を挟んでみるか。


「父上、各国の代表者を集めて会議の場を設けてからの方が良いのでは?

どこの国を優先させたのなんだので各国の格付けが

勝手に決まってしまうおそれがありますからな」


「ふーむ、そうか。グレイグの言うことも一理ある。

まずは魔王討伐軍編成会議の立ち上げを行うか」


 各国の代表者を国賓扱いで迎えるとなると準備も大変なものになる。

国王とアレックスの心配事が増えればその分俺も活動しやすくなるからな。


我ながら良い提案をした。

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