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4-13 魔人の国へ その2 アケミ姫の使者


 アケミがちらりとこちらを見た気がした。

「ま、気のせいだな。老師殿、討伐軍を送り込むポイントは

複数用意した方がいいですね。

軍関係の施設が至る所にあるので一カ所では対処できないでしょう」


「そうじゃな。王都の周辺には農村が点在している。

おそらく軍の練兵場も郊外にあるはずじゃ。

さすがに観光地図に軍の施設は書かれていないので

これらは目で確認するしかないの」


「ええ、わかりました。ではそろそろネグラを探しますか」

「うむ。せっかく来たのだからどこか宿をとろうかの」


 地図を確認してみた。

高そうなホテルもあればビジネスホテルもある。

「ここにするか」

老師はメインストリートから一本裏の通りにある

ホテルを選んだ。


 空き部屋を確認する。

値段を聞いてシングルを二つ、素泊まりで取った。

食事はその辺のレストランで済ませ夕方宿に帰る。

「では明日の朝早くに出よう」

「はい。ロビーで落ち合いましょう」


 俺は自分の部屋に入りベッドに身体を投げた。

「おそらく土魔法で作ったビルなんだろうな。

まんま前世でよく利用したビジネスホテルじゃないか」


 窓ガラスも大きい。

カーテンも付いている。

シャワールームとトイレはそれぞれ別になっている。


 そろそろ寝ようかと思った頃に誰かが部屋のドアをノックした。

一応警戒する。

いつでも魔法を放てるようにしながらドア越しに声をかけた。

「どちらさんですか?」

「アケミ姫の使いであります。

敵対する意志はありません」


 本当か?

それとも罠か?

不意を突かれても大丈夫なようにせねば。

「今鍵を開けた。三つ数えたら入ってきてくれ」


 三秒後に部屋のドアを開けたのはねずみ色のスーツに

身を包んだ中肉中背の青年だった。

「私はアケミ姫の使いです」


「なぜここが、そして俺がわかった?」

「あなたがルド王国の勇者でここに偵察に来ているのだろうと

察してはおりますが、魔王様にばらすつもりは御座いません。

まずは話を聞いてくれるでしょうか?」


「いいだろう、聞こう。

だが怪しいそぶりを見せたら即頭を吹き飛ばすぞ」

「結構です。お好きなように」


「アケミ姫様から昼間にエリックを見たので連絡を

取って欲しいと要請がありました。

すぐさま後をつけて来た次第であります」


「まずは名を名乗れよ」

「失礼。ソーイチとお呼び下さい」

「ソーイチ。懐かしい響きだが」

「はい。前世の名であります。私も転生日本人ですよ」

「そのことは公表してるのか?」

「まさか。アケミ姫とその他数人しか知りません」


 ソーイチの顔をじっと見る。

髪は黒いが目鼻立ちは掘りの深いいわゆる欧米顔だ。


「まずはこれを。アケミ姫からのプレゼントです」

「これは?チョーカーか?」

「そうです。ある魔法が固定化されてます。

剛力を押さえる事が出来るんです」

「なぜ俺にこれを?」

「使い方はお任せします。

アケミ姫が持っていた剛力能力は魔王様に移譲されました」


 これを魔王に巻けば少なくとも剛力は押さえられるのか。


「信じよう。いただいておく。

だがなぜだ。裏切り行為ではないのか?」


「はい、裏切りですね。そこを説明しましょう。

現在魔人の国は戦争継続派と講和派に別れています。

私は講和派です。

アケミ姫はどちらにもついてません。

魔王様と生活を共にしてますし立場を明言は出来ないでしょう。

しかし私達はアケミ姫を御輿として担ぐつもりです」


「アケミが立場を明確にしていなければ御輿にはならないだろう」

「ええ、あくまで戦後の話です。

エリックさん、魔王様を倒してください。

その後講和派とルド王国との間を取り持って欲しいのです」


「魔王は俺が倒す。しかし平和条約等を結びたいのであれば

それは王家や政治家の仕事になるだろう」

「もちろんです。しかしあなたからアレックス殿下に一言

伝えてくださるだけで話はかなりスムースになるかと」


「チョーカーのお礼だ。それくらいなら承るよ」

「ありがとう御座います。

アケミ姫からの伝言です。私は無事です。

今は監視の目が厳しいから会えないけど

心配しないで欲しいとの事です」


「わかった。必ず助けるから無事で居てくれと伝えてくれ。

他になにかあるか?」

「エリックさん。この町の感想はいかがですか?

私は前世ではゼネコンで都市計画を担当してました」


「なるほど。アケミの知識だけではこんな町は作れないと

思っていたよ。さすがだな。俺は土木コンサルだったんだが」


 お互いの会社名を明かした。

「なんだ、お得意さんじゃないですか。

エリックさんは前世での知識は活用してないんですか?」

「なにもない荒野に町と農地を作ったよ」

「楽しかったでしょう?」

「楽しかったね」

「戦争なんてやってる場合じゃないですよ。

この世界は開発の余地が有り余ってる。

やれることは山ほどありますよ」


 その通りだ。

だがもう戦争は止められない所まで来ている。

とっくに分水嶺を通り越しているのだ。


「だが今すぐ辞めるわけにもいかないな。

俺が魔王を倒すまで待ってくれ」


「もちろんです。それともう一つ。

私はグレイン少将に送り込まれたアケミ姫の監視役なんです。

一応空くう使いの軍人ですよ。

少将は本気であなたを引き込みたいと思ってることも伝えておきます」

そう言うとソーイチは帰って行った。


 翌日ロビーで老師と合流。

予定通り王都周辺を偵察して帰路についた。


~~


「殿下、報告は以上です。後は時期ですね」

「間髪入れずに行く。再び老師殿と共に

魔道トンネルを開いて欲しい。

ポイントを確認しよう。どこに何人送り込むかを決めねば」


「はい。それともう一つだけ」

「うむ」


「魔人の国も一枚岩ではありませんでした。

戦争継続派と講和派が居るようです。

講和派はルド王国と和平を結びたいと言ってました。

もちろん戦後の話ですが」


「うむ。わかった。頭に入れておく。

だが戦闘になれば継続派だろうが講和派だろうが

すべて敵だ。区別などしてられん」

「ええ、それで良いと思います」


 俺も魔王を倒すためのプランを立てなければ。

今回はチームワークで行く。

ダレスの剛力に頼ろう。

ギルバートに露払いを頼もう。

アリアにはアケミの救出も手伝って貰おう。

セシリアにはまたすぐに治癒して貰うはめになるかもしれない。


「では殿下、俺も準備に入ります」

  

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