4-11 ガウンムア奪還作戦 その11 ガウンムア奪還
~~ボイド隊~~
「兄様、兄様。起きてください。
隊長が来てくれましたよ!兄様、兄様!」
サラがトルグの身体を揺すっている。
ドルマーがトルグのうなじに手を当て脈を探る。
トルグからゆっくりと手を離したドルマーは
悲しそうな表情で私の顔を見上げ首を横に振った。
「サラ、もういい。
トルグは疲れたんだ、寝かせてあげなさい」
しばらくは皆黙ってサラとトルグを見下ろしていた。
サラの涙がトルグの顔に落ちる。
「兄様・・・・・・約束しましたよね?
一緒に家に帰るって。
お父様もお母様も待ってますわ。
ねぇ兄様、目を開けて。
帰ったら・・・・
帰ったら結婚するって約束しましたよね?」
皆顔を見合わせている。
「サラ。トルグは誰と婚約していたんだ?」
「私に決まってるじゃないですか」
「いや・・・・兄妹だよな?」
「私は養女です。私の本当の両親は流行病で他界しました。
父の友人だった義父夫妻が私を引き取って育ててくれたんです」
良くある話だ。
ドルマーがサラを背中から抱きしめた。
「サラ。冷たいこと言うようだけど現実を見つめなさい」
「ドルマー軍曹・・・・・・わかってます、大丈夫です」
ドルマーはトルグの髪の毛を一握りナイフで切り取り
布きれに包んでサラに手渡した。
「サラ。これで我慢して。
隊長、ここで我々が出来ることはなにかありますか?」
「なにもない。クレイグ准将からは補佐の役目を解かれた。
グレイン少将は帰ってこいと言っている。
パールバディアに行こう。サラ。大丈夫か?」
「大丈夫です。取り乱してすいませんでした。
私も軍人です。命令に従います」
「ここから北に飛べばパールバディアとグレンヴァイスの
国境付近に降り立てる。
皆、最後の力を振り絞って海を渡れ。
行け。私が最後に行く」
バートルとアガールが空に消えた。
ドルマーは心配そうにサラを見ていたが私の目配せに
気がつき空間に消えた。
「兄様・・・・・おやすみなさい」
サラが空間に消えたのを見届けてから私も海を越えた。
~~アレックス~~
「アレックス殿下、ついに国から魔人共を追い出しましたぞ!
感謝してもしきれませぬ」
「リチエルド陛下、まだ終わってませんぞ。
諸悪の根源、魔王と魔人の国を叩きつぶさねばなりません」
「ですな。この戦争に決着をつけない限り真っ先に侵攻の対象と
なるのは我が国です。
殿下、いや魔王討伐軍総司令官殿。
我々に出来ることは何でもやりましょう」
「かたじけない。では早速一つ。
魔人の国に部隊を送り込むルートはどこが良いでしょうか」
「今地図を用意させます。
場所を作戦会議室に移しましょう」
~~
作戦会議室には主要なメンバーが揃った。
リチエルド国王自ら説明してくれた。
「魔人の国の位置は正確にはわかってません。
しかしおそらくこの辺り、大陸の中央となっているはずです。
我が国と魔人の国を行き来出来るのはドワーフだけですな」
エリックが発言した。
「自分がドワーフの精錬所まで一度ミスリル鋼の買い付けに
行ってるんです。そこまでは空間を繋げますよ」
「ふむ。一つの案だな」
次にロウ老師が発言した。
「いっそ魔人国のただ中に降り立ってはどうですかな。
魔王城を一気に攻めれば犠牲も少なくて済みますぞ」
「なるほど。老師殿、魔王城周辺の地図は描けますかな?」
「もちろん。しかしワシが偵察に行ってからもう随分経っている。
万全を喫するため今一度偵察に行った方が良いですな」
「魔人の国のただ中に偵察か。
リスクは大きいと思うのだが」
「変装すれば大丈夫ですじゃ。なあ、エリック?」
「はい?俺も行くこと決定ですか?」
「当たり前じゃ。他に任せられる奴はおらんじゃろ」
「わかりました。どんな格好すればいいかお任せします」
アリアが提案してきた。
「老師様。魔人の国で使用される通貨はお持ちですか?」
「うむ。まだいくらか残っておる。
おそらく物価もそんなに変わってないと思うのじゃが」
「ではその通貨を預からせてください。増やします」
「どうやって?」
老師はサンプルに一枚の銀貨を取り出しアリアに手渡した。
「こうやって」
アリアは銀貨を両手でぎゅっと握った。
手の間から光がこぼれる。
「じゃじゃーん。2枚に増えましたー」
エリックがあきれている。
「なんだよ、じゃじゃーんって。インチキ極まりないな」
「うるさいわね。とりあえず手持ちのルド王国の銀貨を
変化させただけなので割と簡単よ。
えー、つきましては殿下。オカネちょーだい」
「うむ。それは問題ない。ロウ老師、エリック。
準備ができ次第出立して欲しい」
~~セシリア~~
会議室の隅でクロエと共に話を聞いていた。
今回の作戦会議では私達がクチを挟める余地は
無かったので黙っていた。
「クロエ、あなたは殿下から離れちゃだめよ」
「わかってる。セシリアはエリックについて行くんでしょ?」
「偵察には行かないけどね。
そうだ、なにかおみやげ買ってきて貰いましょう」
「ずいぶん気楽ね」
「そりゃそうよ。私達に出来るのは治癒だけじゃないのよ。
雰囲気作りも大切なの」
殿下とクロエがお茶を飲みながら楽しそうに会話している
所に出くわした事がある。
私の姿を見つけるとクロエは顔を真っ赤にしていた。
殿下はなにか申し訳なさそうな顔をして私を見ていた。
「う・・・・なんだろ、この何かに負けた感じ」
ま、まあ、上手くいって良かったんじゃないかな。うん。
エリックは大丈夫。絶対確実な保証はないけれど。
同じ時間軸での出来事なら勇者の日記に書かれていたとおりに
事が運ぶに違いない。
私は私の出来ることをやらねばならない。
会議が終わった。
皆部屋を出て行く。
エリックと目が合った。
うん。わかってる。
私の部屋で待ってるね。