4-10 ガウンムア奪還作戦 その10 ボイド隊長の合流
~~ボイド~~
討伐軍は主要な町にはすべて入り込んでいる。
現在戦闘継続中の場所も多いのだが落とされるのは
時間の問題だろう。
ブランカが言っていたように数の論理には
わなわないのだ。
海沿いの港町は比較的大規模な部隊は送り込まれていない。
掩体に身を隠しながら、あるいは上空をスルーしながら
東へと進んでいく。
未だに部下の足取りは掴めていない。
~~ボイド隊~~
バートルがトルグに手を貸す。
「肩に掴まってろよ。短距離の空なら二人で行ける」
アガールやサラやドルマーが先に偵察に行き
安全が確保されてから移動する。
小さな港町や海岸はまだ討伐軍も入り込んでいない。
だが街道から近い港町にはすでに討伐軍の制圧下に置かれていた。
とある町の手前で待機していると偵察に行ったドルマー
が帰ってきて報告をした。
「ここは比較的大きな港町ね。
内陸側に掩体を探しながら迂回しましょう。
それにもうすぐ夜が明けるわ」
「夜が明けるまでにこの町はパスしておきたい。
サラ、その先に隠れられるようなところがあるか
先に行って探してくれないか?」
バートルの指示にうなずいたサラが空間に姿を消す。
バートルがトルグを気遣う。
「トルグ、大丈夫か?」
「ドルマー軍曹のおかげでだいぶ楽になりました。
だがいざというときは置いていってください。
その時は妹を頼みます」
「縁起でもないこと言うな」
サラが帰ってきた。
内陸側に放棄された小屋を発見したそうだ。
「そこまで速やかに移動する」
小屋は意外と広かった。
周囲に生い茂る草の長さから察するに
長い間放置されていたと思われた。
「交代で寝よう。トルグ、サラ、ドルマー。
先に休め。水飲んで糧食食っておけ」
ここで日が暮れるまで交代で休みを取った。
「月が明るいな。今夜は快晴か」
昼間のウチに確認していたルートで再び海岸線に戻る。
こまめに空を繋ぎ順調に西へと進んでいった。
偵察に行ったアガールが帰ってきた。
「遅かったな」
「ええ、この先の港町も既に討伐軍に制圧されてます」
「思ったより連中の数が多い。
それに部隊の移動が迅速すぎる。
こんな小さな町まで来ているとはな」
「おそらく複数の人数を一度に運べる手段も開発しているのでしょう
じゃないと説明がつかない」
アガールの言うとおりだと思うが、今は検証している暇はない。
「再び夜が明ける。
だがパールバディアに近い港町までもうすぐだぞ」
再び移動を開始。
東の空がうっすらと白んでくる。
夜が開ける瞬間、闇に支配されていた風景は
うっすらと色を取り戻していく。
「もう少し進んでおく。人気が無いところまで行けば・・・」
突然地面に何かが当たる音。
「何だ今のは?」
アガールが周囲を見渡す。
「しまった、囲まれている」
「いかんな。トルグとサラはこの岩陰で待機。
アガール、ドルマー、三方に散って敵影が薄いところを
探す。行くぞ」
三人が空に消え同時に戦闘が始まった。
~~ボイド~~
街道から外れた森の中で野宿していたボイドは
夜が明ける直前に目が覚めた。
「嫌な感じがする。気のせいだといいのだが」
小さな港町が見渡せる丘の上の木に登った。
町はまだ寝静まっている。
が、視界の端でなにかが動いた。
「海岸線だな。あの岩場で誰かが戦っているようだ」
ボイドは空を繋ぎ戦闘が行われているそばに降り立つ。
討伐軍の魔道銃部隊のただ中に降り立ち敵を屠る
バートルを発見。
声を掛ける。
「バートル、無事だったか」
「隊長!ご無事でしたか!」
「話は後だ。状況は?」
「最初は10名程度の小部隊だったのですが
港に詰めていた討伐軍が続々と駆けつけてるようですね」
町の方から銃を持った兵士が多数駆けつけてくる。
ボイドは躊躇することなく石弾を発射。
同時に敵にのただ中に降り立ちまだ無傷の連中に
至近距離で拳大の石弾をぶつけ戦闘不能にした。
「隊長、トルグが負傷してるんです。
あそこの岩陰にサラと一緒に居ます」
「もう少し西側に行けば道のない崖に行ける。
何とかしてそこまで運べ。
アガールとドルマーは?」
「各個撃破で行動中!」
「連絡が取れたら西へ向かうよう伝えろ」
討伐軍はまだ大勢いる。
魔道障壁を持った小隊には石弾もカマイタチも効かない。
「くそ、これで足止めになるか?」
ボイドは小道に土魔法で背の高いバリケードを築いた。
どうやらトルグとサラは崖の向こうに移動したようだ。
バリケードを至る所に築きボイドも合流する。
「みな、なんとか生きてるな」
「トルグが重傷、今の戦闘でドルマーが右腕を被弾。
隊長、指揮権をお返しします」
トルグは額に脂汗を浮かべ苦しそうにあえいでいる。
もう限界を通り越してるのだろう。
「トルグは私が運ぶ。とにかく西へ進む。行くぞ」
バリケードの足止めが効いているうちに移動を開始した。
しばらくは人気のない崖沿いの森の中を移動する。
開けた場所の手前で一度様子を伺った。
「ここも駄目か。最後の港町も討伐軍に制圧されかかっている」
ボイドがサラに尋ねる。
「トルグはどうだ?」
「返事をしません。ですがまだ息はあります」
「一刻も早く治癒魔道士に見せなきゃならん。
サラはここでトルグの様子を見ていてくれ。
ドルマー、動けるか?」
「はい、自分で止血しましたが、骨までは治せません。
しかし戦闘は継続できます」
「無理するなと言いたいがそれこそ無理な状況だ。
スマンがここは無理してくれ。
四人で町中に進出する。戦闘は出来うる限り避けろ。
司令部の建物に治癒魔道士がまだ残ってるかもしれん。
探し出してここに連れてこよう」
四人が町の端に降り立つ。周辺部の戦闘は終結していた。
主戦場は司令部周辺に移っている。
辺りをうかがいながら四人は司令部のある建て物に進入した。
「中は静かだな。私は司令室に行ってみる。
ドルマー、付いてこい。バートルとアガールは治癒魔道士を
探して確保してくれ」
司令室はもぬけの殻だった。
「撤退は完了していたか。クレイグめ。
やはりあの時殴っておくべきだった」
廊下に出るとバートルとアガールが駆け寄ってきた。
「誰もいませんね。もぬけの殻です」
建物の周辺で戦っている魔人達も幹部の撤退は
知らされてないのかもしれない。
「仕方ない、トルグとサラの所に戻ろう」