4-9 ガウンムア奪還作戦 その9 ボイド隊の逃亡
~~エリック~~
「エリック!私のこと忘れてたでしょ!ぶう!」
腰に手を当てふくれっ面をする60才の美少女。
「そ、ソンナコトナイヨ」
「私の目を見てもう一度言いなさい」
やばい、アリアが怒ってる。
王城の結界維持にまだかかるだろうと思っていたら
現地で調達した魔石でさっさと固定化して暇をもてあまして
いたらしい。
一度殿下に報告に帰ってきたのだが、気まずい雰囲気。
「殿下、王都周辺は完全に制圧しましたね」
「ああ、クレイグにはまたもや逃げられたが」
「魔人の国まで侵攻すればいずれ対峙できるでしょう」
「そうだな。メインイベントはまだ先だと思おう。
で、エリック。西部地区の様子は?」
「各地で乱戦になってますが討伐軍が押してます。
まずは補給部隊がカートリッジを先に運んでくれると助かりますね」
「わかった。ではそのように」
殿下はベルトランを呼び出している。
俺はアリアの手を引き西部の議会町まで空を繋いだ。
間の悪いことに議会町は絶賛戦闘中だった。
「いかん、アリア。そこの役所の建物に行こう。
セシリアが居るはずだ。役所全体に結界を張れるか?」
「この広さなら手持ちの魔石で充分ね。
魔人は入れないようにしておく」
「頼んだ。応援に行ってくる」
~~ラーチャとマキシー~~
マキシーが頭を低くして短くうなる。
シルバーウルフに統率された数十等のブロンズウルフは
動きを止めた。
おかげで私もテイムしやすくなった。
「みんないい子ね。付いてきて!」
私とマキシーは南の森に向かって小道を走った。
森の中に入りシルバーウルフに命ずる。
「森の奥深くで生きていくのよ。
もう人間に敵対しちゃ駄目。
さあ、行きなさい!」
狼達の後ろ姿を見届けるとマキシーと共に町に戻った。
魔人との戦闘はほぼ終わりかけてるらしいがまだ数名町を徘徊
してるみたいだ。
テイマーの影響下を逃れた魔物は勝手に暴れている。
見つけ次第テイムして森に返すことを数度繰り返した。
「マキシー、ちょっと疲れたわ。お水貰いましょ」
役所前に行く。
天幕が転がりずたずたに裂かれていた。
役所の入り口にはバリケードが築かれている。
見ると役所の入り口から誰かが手招きしている・
「お嬢ちゃん、ここから入れるぞ!」
行ってみたがマキシーが入り口のステップ前で立ち止まっている。
「どうしたの?マキシー。入ろうよ」
マキシーはその場にお座りしてしまった。
マキシーのうなじを撫でていると一人の女性が入り口から出てきた。
「こんにちは。それもしかしてゴールデンウルフ?」
「そう、マキシーよ。私はラーチャ」
「私はアリアよ。魔石持ちは入れないように結界張っちゃったの。
ゴメンね」
「そう言う事なら仕方ないよ。気にしないで」
マキシーがアリアをじっと見てる。
『ああ、気にせんでいいぞ。エルフの血を引く者よ』
アリアが目を丸くしている。
なにかあったのかな?
『あら、狼さん。念話ができるのね』
『うむ。お前もな』
『そうね、ここじゃなんだから建物の裏側に行きましょ』
「ラーチャさん。建物裏に休めるスペースがあるわ。
そこでお水もらいましょ」
移動して水をもらいラーチャとマキシーに飲ませる。
「ラーチャさん。マキシーとはおしゃべりしてるの?」
「ん?私が一方的に話しかける事はあるけど
会話は成立しないわよ。当たり前でしょ」
「そうね。普通の狼ならね。
でもゴールデンウルフは神にもっとも近い神聖な狼。
念話が出来るのよ」
「そうなの?アリアさんも出来るの?」
「出来るわ。マキシーは自分からはしゃべれないけど
あなたの言うことは全部理解している。
あ、ちょっと待って。なになに?うん・・・・。
マキシーがね、ラーチャに命を救って貰ったことを感謝してるって」
私はマキシーのうなじに抱きついた。
「アリアさん、通訳してくれる?」
「いいわよ。お水もっと貰ってきましょう」
~~ボイド~~
再び海を渡った。
主街道を西へすすんだはいいが幾つかの小さな村や町を
制圧しただけで各地で苦戦しているらしい。
海沿いはお互いに重要視してないのか比較的混乱はなかった。
パールバディアとの交易で栄えてるこの港町も
そろそろ戦禍に飲まれるかも知れない。
「さて、王都は既に討伐軍に制圧されてしまった。
やつらはどうしたか・・・・ここで待つか海沿いを東に行くかだな」
司令部に伝令が駆け込んでくる。
「クレイグ准将が到着しました!」
早速会いに行こう。
司令部ではクレイグと参謀達が話をしていた。
命令を受けた参謀達が敬礼している。
「ではそのように」
「クレイグ准将、私の部隊はどうなりましたかな?」
「現地では突然の襲撃でちりぢりになってしまったよ」
「では行方がわからないんですね?」
「そうだ」
なんと無責任な。
しかし准将の立場なら私の部下5人の行方など細事だろう。
「これからのボイド隊の扱いですがすでにガウンムアの統治補佐
という任は破綻しております。
グレイン少将からは帰還命令が出されました」
「そうであろうな。今までご苦労だった。
私の指揮下を離れることを許可する」
「・・・・・・では」
胸ぐら掴んでやりたいところだが軍人としてそれは出来ない。
黙って敬礼をし部屋を出た。
「やはり海沿いに東に行ってみよう」
~~ボイド隊~~
「くそ、やはりこの港も討伐軍が制圧していたか」
アガールは先に波止場の小屋に到着していたが
ここの安全の確保も怪しくなっている。
すこし遅れてバートルとドルマーが到着。
「あとはトルグとサラか。
もういくらも待てないぞ」
ドルマーが提案した。
「まだ夜は始まったばかりよ。
朝までもう少し待てるでしょ」
バートルが判断した。
「この港町は制圧が完了したとみなされている。
警戒はさほど厳重ではないだろう。
ここで夜明け前までトルグとサラを待つ」
数時間後、二人が小屋に現れた。
「遅かったじゃないか。おい、トルグ。怪我してるのか?」
みるとサラの肩に掴まりトルグが粗い息をしている。
「ドルマー、頼む」
簡単な治癒魔法が使えるドルマーがトルグの治療を始めた。
サラが状況を説明した。
「二人で地形確認のために降り立った真ん前に討伐軍の
兵士数名がいて。我々の姿を見たとたんに発砲してきたんです。
すぐに兄様の手を取ってあちこちに空を繋ぎ逃げてきたので
遅くなりました」
トルグの腹部に複数の貫通銃創。
「ドルマー、どうだ?」
「おそらく内臓まで傷付いている。穴をふさいだつもりだけど
私の能力ではちゃんとできたかどうかは確認できないわ」
「みんな、俺は置いて行けよ。夜中のうちに西に進んで
パールバディアに帰るんだ」
バートルが応える。
「なにカッコつけてんだ。俺が担いでいくからな。
ほれ、掴まれ。逃げ切ったらゆっくり休ませてやる」
全員で小屋の外に出る。
周囲に人影はない。
暗い海から波の音だけが聞こえていた。
「行くぞ」