4-8 ガウンムア奪還作戦 その8 魔人の撤退
~~アレックス~~
「リチエルド国王、練兵場はもぬけの殻でした。
王都の範囲内に魔人は居なくなりましたぞ」
「なんと礼をいっていいのやら。とにかくかだじけない。
それと一つ要請があるのだが」
「何なりと」
「レジスタンス組織の元軍人を集めて軍を再編した。
今のところ以前の部署や階級を元にしているだけなのだが
彼等を前線に連れて行ってはくれぬだろうか」
彼等がレジスタンスで活動していた功績は大きい。
だが軍隊となると話は別だ。
「いや、足手まといになるかもしれぬが我が国も
安全保障条約を履行せねばならぬ。
討伐軍の指揮下に入れて貰いたい。
もちろん好きなように采配していただいて良いのだが」
「わかりました。
それでは出撃可能な者を王城前広場に集めてください。
彼等の軍服はあるんですか?」
「残念ながらまだない。
変わりに全員緑色のベレー帽をかぶっている」
「なるほど。ガウンムアのグリーンベレーですね。
お預かりします」
クレイグは郊外にある訓練場に立てこもっているそうだ。
西から来る応援部隊と合流するつもりだろうが
その前にクビをはねてやる。
「伝令!郊外の訓練場で戦闘が開始されました!」
「なに?まだ命令してないぞ」
「敵が先に仕掛けてきたので防衛行動に出ました」
「わかった。それでは改めて突撃命令を下す。
徹底的にやれ!」
私も行かねばなるまい。
待ってろよクレイグ。
~~ボイド~~
「ボイド上級尉官殿!先にいった空部隊の半数がやられました!」
「おい、まだ半日もたってないぞ」
「ですが事実であります。
幾つかの町や村は制圧しましたが全体的には押されてます」
ブランカの提案を受け主街道を固まって進撃させた。
裏目に出たのかと思ったが、固まっていたからこそ
犠牲が半数で済んだのだろう。
「討伐軍は一体何人連れてきたんだ。
ウーファでの戦闘ではまだ全員に
魔道銃は行き渡って無いように見えたが」
自分の目で確かめるしかなさそうだ。
行動に出ようと思ったその時ブランカが帰ってきた。
軍服を着ていないな。
「ブランカ殿、その格好は?」
「民間人のふりして偵察してきたわ」
民間人?本国の女性はこんなに肌を露出させた
格好をしてるのだろうか。
「どこ見てんの。足?最近筋肉が付いちゃってねえ。
ふくらはぎが角張ってるように見えない?」
「い、いえ、よくわかりませんが。
討伐軍の様子はどうでした?」
「魔道銃は有り余っているし人数は2万近いわね。
私は本国に帰って軍大臣に圧力掛けてみるわ。
あなたはもう一度パールバディアに行ってさらに
援軍の要請を少将にしてみて」
「わかりました」
なんだかんだ言ってこの女は頼りになる。
生き残ってきたのは伊達ではない。
守備隊の隊長にプランを話しさらに援軍を要請するため
私はグレイン少将の元に行った。
~~
パールバディア側の港町に降り立つ。
大量の魚を水揚げしている船。
市場に魚を運ぶおかみさん達。
その周りを駆け回る子供達。
海峡を隔てた南の大陸ではそこかしこで戦闘が行われていることなど
みじんも感じさせないほど平和だ。
「この国は戦争に巻き込みたくないな」
グレイン少将の元におもむく。
「少将、クレイグ准将の軍はかなりの劣勢です」
「そうか。まあそうだろうな」
少将は慌てていない。
むしろ落ち着いている。
「ボイド君。君の部隊はどうなっている?」
「はい。全員クレイグ准将の直下に居ます」
「全員撤退させろ」
「いいんですか?」
「かまわん。君の部隊はあくまで私の配下だ。
リース期間は終了だよ。一人で行けるかね?」
「お任せください。では部隊を連れて帰ります」
~~ボイド部隊~~
「隊長はパールバディアに行ったきりですね。
バートル下級尉官、どうしますか?」
「ドルマー軍曹、君は副官だろう。
なにも聞いていないのか?」
「はい。私の任務は国王の動向を探ることでしたので。
現在我々の部隊の最高階級はあなたです。
指揮をお願いします」
「わかった。トルグとサラは周囲の偵察に行ってくれるか?
主に討伐軍の動きを見てきて欲しい。
アガールは退路の確保だ。
ドルマー軍曹は一緒にクレイグ准将の所に行こう。
では1時間後、ここに集合。行動開始!」
~~トルグとサラ~~
二人が王都から訓練場に繋がる街道を見渡せる丘の上に
降り立った時、既に討伐軍は突撃の体勢を整えていた。
「兄様。一体何人いるんですかね?」
「ソレを確認するのが俺達の仕事だろ」
俺とサラは黙って数を数え始めた。
「兄様。主街道にいるだけでも五千以上でしょうか」
「だな。俺は5800と数えたがだいたいでいいだろう」
その時丘の下から人の気配がした。
「むっ!サラ、そこの森に入るぞ」
二人は森の茂みに身を隠した。
続々と討伐軍の兵士達が丘を占拠し始めている。
「兄様・・・・・どうします?」
「陣に帰るぞ」
二人で空を繋ぎボイド隊の落ち合う会議室に帰った。
「まだ誰も帰ってきてないな」
少しの間を置いてアガールが帰ってきた。
「二人ともお疲れ。どうだった?」
「アガール、主街道周辺はアリのはい出る隙間もなかった。
そっちははどうだった?逃げられそうか?」
「逃げるのではない。戦略的後退という」
「どうだっていいよ。俺達はあくまでグレイン少将の
配下だぞ。クレイグの金髪野郎と心中する気なんてないさ」
「声をひそめて言えよ。まあ逃げ道は確保しておいた。
海沿いに西へ進むコースがいいな」
三人で話をしているとバートルとドルマーが帰ってきた。
「みんな、時間がない。逃げるぞ」
「えっ?准将はなんて言ってましたか?」
「・・・・・准将以下幹部はとっくに逃げた。
ここに居るのは空を使えない者ばかり約300名だな。
アガール案内を頼む」
「了解。付いてきてください」
遠くから建物の破壊音と雄叫びが聞こえてきた。
「くそ、遅かったか。裏から出るぞ」
「みんな、ここから真北にある小さな漁港の波止場に
使われてない小屋がある。はぐれたらそこに集合だ」
アガールの指示に全員がうなずく。
建物の裏口を出たところで大勢の討伐軍の兵士が駆け寄り
あっという間に囲まれてしまった。
バートルが指示を出す。
「全員無事でな。行け!」